対 御影専農中
試合当日
「この学校の事は、あんまり聞いたことないなぁ…」
まあ、ほとんどの学校がそうだけど。
そう思いながらフィールドを見つめる。
観客席は御影専農の生徒であふれかえっている。
僕は席には座らず、階段の所に立って、壁に寄りかかって試合を見ていた。
その中で見に来ている僕は結構目立っていると思う。…まあ、私服というのもあるけど。
今回は僕が制服を出し忘れてたからではない。完全にばあちゃんが洗うのを忘れていただけである。
「さて、前に少しだけ見たけど……御影専農、どんなサッカーを見せてくれるのかな?」
先日、雷門夏未にあれだけ言っておいて、僕はこの場にいる。
「…そうだ。春奈が見に来いって言ってるから来ただけで、別にあんな弱いチームの応援に来たわけじゃない!そうだよ!春奈が見に来いって言ったからさ!うん!」
見に来た理由を春奈の所為だ、と言いきかせていると、試合開始のホイッスルの音が響いた。
「……あの日見た時から思ってたけど…、やっぱりロボットなんじゃないの」
「その捉え方、間違ってないぜ」
「!!」
御影専農のプレーを見て、思ったことを口に出していた時、隣から誰かに話しかけられた。
その声に反応して、後ろを振り返る。
「あれ、いつも雷雷軒で見かけるおっさん…」
「おっさん、って言うな。おじさんって言いなさい」
「僕、言葉遣い悪いからさ〜。ごめんね?」
おっさんに向かってそう言うと溜息をついた。
「自覚があるなら、直す努力をしろよ……。女の子なんだから」
「え、」
おっさんの言葉に驚く。
嘘、一発で見抜かれるなんて……!
まあ別に隠している訳じゃないけどさ。
「間違ってないだろ?」
「合ってるけど…。大体の人は、僕の事男って間違えるから…」
「男っぽい格好してるし、その髪型だからそう勘違いされるんだろ」
「慣れたら気にならなくなっちゃった」
そう返した後、ふと目の前の人物が言った言葉を思い出す。
「さっきさ、僕が『ロボットみたい』って言ったけど、おっさん間違ってないって言ったよね?……まさか、本当にロボットなの?」
「ちゃんとした人間だよ、彼らは」
「そう言う事じゃなくてだなー…」と言って、おっさんはフィールドに視線を向けた。
「『サッカーサイボーグ』って言われているのさ、御影専修農業高校付属中学校は」
「それ、御影専農の正式名称?長いね」
「真面目に聞け」
おっさんの言葉に「はぁ〜い」と緩く返事をして、僕もフィールドに視線を向ける。
「あのプレーは『データ』を元にしているんだ。そのデータを元に彼らは行動している。だから、嬢ちゃんの発言は間違ってない」
「なるほど。だからロボットみたいって思ったんだ」
視界に映っているのは、間一髪でボールをキャッチして、味方にボールを投げようとして、慌ててボールを両手で掴んだキャプテンさんだ。
キャプテンさんがボールを投げるのをやめたのは、パスを出そうにも味方には既にマークがついていたからだ。
「データが元、か。……どれだけのデータがあれば、そんな正確なプレーが出来るんだろう」
目を細め映った視界には、豪炎寺修也の必殺シュートを御影専農のキャプテンさんが止めた光景だった。
2021/02/18
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