対 野生中
先程まで試合を観戦していた場所とは違うすぐに帰れる位置へと移動し、付近に植えてある木に背を預ける。
キャプテンさんの様子を見て、雷門はディフェンスラインを下げたようだ。
1人を複数人でプレスを掛けることで、何とかキャプテンさんの負担を減らそうとしているようだ。
「…もう時間がないんじゃない?雷門」
携帯に表示されている時刻を確認して、そう呟く。
確かに彼らにとって野生中は素早い相手だし、複数人で止めればその動きを止めやすいかも知れない。
でもその分、体力を奪われちゃうよ?
特に君達雷門は、そんなに体力あるわけじゃないんだから、早く点を決めてあげないと。
「まずいんじゃない?……前線にいる、お2人さん?」
視線を豪炎寺修也と壁山に向け、彼らに問いかける。
ま、返事が返ってくる訳ないんだけど。
「さっきからやってて失敗しているのは必殺技の体勢かな?……2人で飛び上がって、壁山を豪炎寺修也が踏んで更に飛び上がっていたな……」
もしかして壁山を踏み台にして、豪炎寺修也は更に高く飛ぶ事で野生中の跳躍に勝つ気なのか?
確かにあれが成功したら野生中の跳躍に勝てるかもしれないね。
膝を着いている壁山と、壁山に何かを伝えている豪炎寺修也から別の場所へと視線をカエルと、野生中の9番の人の必殺シュートが雷門中ゴールへ迫っていた。
…その状態の手で止められるんだ、キャプテンさん。
いつまでその状態で耐えられるかな?そう思いながらキャプテンさんを見つめていた時だ。
「!あの必殺技は…!」
帝国学園との試合で見た、金色の巨大な手でボールを止める必殺技……!
あの技、尾刈斗中との試合で見なかったからあの時だけだと思ってたけど……そっか、身につけてたんだ。
キャプテンさんは野生中の9番の人の必殺シュートを止め、ボールを壁山の元へ蹴った。
そのボールは壁山に繋がり、横から豪炎寺修也が上がってきた。
見せてよ、さっきから失敗している必殺シュートを!
豪炎寺修也の後ろからは、野生中のキャプテンが飛んできていて、ボールを奪おうとしているようだ。
このままではまた奪われるのがオチでは、と思っていた時。
「えっ」
なんと壁山の『腹』を踏んで、豪炎寺修也は更に高く飛んだ。
そしてオーバーヘッドでシュートを放ったのだ。
「あははっ、まさか腹を踏み台にするとはね。手とか肩とかもあったとは思うけど……。そうか、腹かぁ…っ」
予想外の回答に思わず笑ってしまう。……別に馬鹿にしている訳じゃないよ?
腹を踏み台にする人なんて見た事なかったからさ。
「なるほど。キャプテンさんだけが面白い訳ではなさそうだ」
でも、キャプテンさんが影響しているのは間違いだろうね。
だって、キャプテンさんの言葉だけでチームの動きがガラリと変わっちゃうんだから。
影響力は大きいかもね。
雷門に点が入り、ホイッスルが鳴り響く。
1-0
雷門中に1点が入った瞬間、試合終了のホイッスルが鳴り響いた。
…野生中との試合に、雷門中は勝ったのだ。
「おめでとう、雷門。……次の対戦相手は誰なんだろうね」
一方的な祝いの言葉を送り、僕は首に掛けていたヘッドフォンを耳に当てながら野生中を後にした。
2021/02/18
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