微かな光が光輝になるまで



『俺、そいつのおかげでサッカーを知って、始めたんだ。言うところ、ちょっと憧れてた所もある。俺はあいつの苦しみに気づいてあげられなくて……でも、俺は知ってるんだ。あいつはサッカーが心から大好きだって事。でなきゃ、あんなにすごいプレーできねーもん』


さっきは萄兄さんの従兄弟が僕に似ていると言ったけど、完全に似ているとは言えない。何処か兄さんの要素も混じっている。


僕は兄さんに憧れてサッカーを始めた。この点はどちらかと言えば萄兄さんのエピソードと一緒だ。けど、一度サッカーを恐れたという経験は、萄兄さんの従兄弟と似ている。

萄兄さんの従兄弟は兄さんみたいにサッカーが上手な人なんだろうな。


『だから俺は、俺だけは一緒にサッカーできるってことを見て貰いたくて頑張ってるんだけど……かなり傷付いてるのか、全然話してくれなくて』


でも、萄兄さんの従兄弟が負った傷は思っていたより深かったようで。ずっと引き籠もっているみたい。


『あなたはその従兄弟をどうしたいの?』


萄兄さんが黙った時だ。萄兄さんにそう話しかけたのは颯太だった。


『……またサッカーをしてほしい。あわよくば、また一緒にボールを蹴りたい』

『だってさ、キャプテン』

『え?』

『もう分かるでしょ? 萄兄さんの従兄弟、前のあなたによく似てると思わない?』


僕はこのチームを作る理由の1つとして、前に所属していたサッカークラブで受けた言葉の影響で人間不信に陥っていたことと、それを治す為にチームを作っていることを話している。

颯太はそれを受けたばかりだから、強く記憶に残っていたんだろう。だから、萄兄さんの従兄弟の話を聞いて、僕と似ていると感じたんだ。


『あなたなら萄兄さんの従兄弟に何か言ってあげられるんじゃない?』

『そうなのか?』

『えっと、実は僕も似た経験をしていて』


僕は萄兄さんにこのチームを作っている目的と、自分が過去に受けたことについて話した。萄兄さんはその話を聞いてた後、目を見開いて僕を見た。


『もしかしたら力になれるかもしれないって、思って』

『なら、名前ちゃんの意見を聞こうかな』


そういえば、萄兄さんも僕を一発で女の子って見抜いた人の1人だったんだよね。というか、このチームの人達は一発で見抜いてた。

ま、まあまだ女の子らしさが抜けきっていなかったからかもしれない。……ということは、今はその女の子らしさが無いってこと!?

自分で言ってて虚しくなってきた……。


『僕は今のチームメイトに出会って、今より人と話すことが怖くなくなった。その、萄兄さんも同じことをすれば良いと思う。言葉で言うのは簡単だけど、萄兄さんの従兄弟さんがその一歩を踏み出してくれないといけない』

『でも、方法としてはやっぱり人と関わる事でしか解決しない。人間関係っていうのはそう言うものだ』


僕の言葉に補足のようなものをしたのは兄さんだ。
……今の萄兄さんの従兄弟は、逃げているだけなんだ。昔の僕は逃げ出そうとする前に兄さんが止めてくれたから、今がある。けど、萄兄さんの従兄弟にはそんな存在がいなかった。だから今、ずっと逃げ続けている。


『だったら、自慢すればいいんじゃない?』

『え?』


どうすれば萄兄さんの従兄弟を外に連れ出せるか。考えていた時、そんなことを言ったのは颯太だった。


『萄兄さんの従兄弟に見せつけるんだよ。その言いぶりだと、萄兄さんの従兄弟の中で萄兄さんは弱い印象なんじゃない?』

『う、結構言うね颯太くん……合ってるけど』


颯太らしい言い方……けど、意図は分かった。


『僕達はチームメイトだ。萄兄さんの従兄弟にチームは全部が悪い人ばかりじゃ無いってことを教えたらいいんだよ』


萄兄さんが強くなった事、強くなった理由がチームメイトと高め合ったからというのを教えられたら……興味を持つんじゃ無いかってことだ。

一番のポイントは1人では無く、チームメイトという大人数だという所だ。


『その証明を一番に出来るのが名前さんってこと』


颯太の言葉に視線が集まる感覚がする。
昔はこういうのは苦手だった。けど、みんなと出会えて、交流して、過ごすうちに平気になった。学校ではまだ少し怖い気持ちはあるけれど、前ほどじゃない。


『……できるか、名前』


ふと、兄さんにそう問われた。その言葉には心配も入っていたように聞こえたけど、僕は首を横に振ることはしなかった。


『分かった。萄兄さん、萄兄さんの従兄弟さんに会わせて』

『ああ、勿論だ。ありがとう、名前ちゃん。けど、流石に今からじゃあいつに何の証明も出来ないから……』

『分かってる。強くなってから、だろ?』


兄さんの言葉に萄兄さんは頷いた。
萄兄さんはちゃんと強くなって、チームの良さを伝えるためにここで特訓を積んでから、従兄弟に会いに行きたいと言った。


『それじゃあ、目標を決めよう。そうだな……今日から二週間はどうだ?』

『え!?』

『もしかして長かったか?』

『いや、今日から一緒にさせてもらえるなんて思わなくて』

『今日から仲間なんだ。さ、一緒にサッカーやろう。勿論、練習に手は抜かないからな』

『俺も全力でやるよ。これからよろしくな』


というわけで、話は固まった。今日から2週間、萄兄さんはここで特訓した後、萄兄さんの従兄弟へサッカーの良さを伝えることになった。

萄兄さんのポジションだけど、MFを強く志望していた。どうやら従兄弟と一緒にやっていくうちにMFが自分に合ってると思ったらしい。


『名前ちゃんMFなんだ。教えて貰うことが多そうだ』

『教えられることがあるかな……でも、頑張るよ』


萄兄さんの従兄弟さんは、どんなプレーをする人だったんだろう?
僕と似ていると言われた萄兄さんの従兄弟に会える日を楽しみにしながら、萄兄さんの特訓に付き合った。

___そして、約束の二週間後がやってきた。





2024/02/24


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