微かな光が光輝になるまで



『そんなこと一言も言ってないだろ。俺は君が一緒にサッカーやりたいのかなって思って、亜久……君を無理矢理引っ張ってきた子に連れてきてってお願いしたんだ』


けど、君の話を聞かずに連れてきちゃったみたいだね。ごめんね。
と、兄さんは男の子に謝った。


『いきなり彼奴が来いって言って、俺の話聞かずに引っ張ったんだ! 話くらい聞けっての!』

『ほら亜久、ごめんなさいは?』

『……ごめんなさい』


兄さんに言われ、亜久は男の子に謝る。けど、正直気持ちがこもっているように聞こえなかったなぁ……。


『さて、謝ったことだし……君はサッカーやりたいの? やりたくないの?』


謝罪を終えた後、兄さんはすぐさま話をサッカーに変えた。
やっぱりこっちを見ていたからなのか、男の子の心情を知りたかったんだと思う。サッカーしたいのかどうかって事を。


『……する』


兄さんの問い掛けに対し、男の子は少し間を空け頷いた。
男の子の返答に兄さんは満足げに頷くと、自己紹介を始めた。


『俺は苗字悠。このサッカーチームのコーチをやってるよ』

『あんた、俺とそんなに歳変わんないだろ。なのにコーチを名乗ってんの? ごっこ遊びかぁ?』


兄さんが言った”コーチ”という言葉に、男の子は馬鹿にしたようにニヤッと笑った。
そりゃあ、今思えばごっこ遊びに見えただろう。けど、僕達は本気でサッカーが上手くなりたいからと練習してきた。

そして、兄さんの実力にみんなが憧れ、着いてきた。
……それをバカにされたと思った当時の僕は、男の子の言葉を聞いて。


『はあぁ!? 兄さんはサッカーが上手いんだよ!? 兄さんをバカにするなんて許さない!!』


……大激怒したんだよね。
あの軽い人間不信に陥っていた僕を知っている人にとっては、驚くような行動だっただろう。というより、あの場にいた全員がそのことについて知ってたんだけどね。

兄さんなんて目を丸くして僕を見てたっけな。
それは分かっていたんだけど、兄さんをバカにされたと思い込んだ僕には我に返る様子のはならず。


『うるせーな!! あんたらサッカーでごっこ遊びしてんだろ!!』

『ふん! 兄さんの凄さを知らないからそう言えるんだ! 兄さんの凄さが分かったら、そんなえらそーなこと言えなくなるよ!』

『ごっこ遊びのくせに上手いも何もねーだろ!!』


僕と男の子の言い争いは段々とヒートアップしていった。
内容は今でも思うくらいめちゃくちゃ低レベルだったんだけどね……。

けど、それは長くは続かなかった。


『みんなが怖がっているから、一回止めて貰っていいかな?』


突然響いた大きな音。
その次に聞こえたのは、少し怒ったような声音で告げられた兄さんの声。

……大きな音の正体は、ゴールポストにボールがぶつかった音だ。どうやら兄さんがゴールポストに向かってボールを蹴ったらしい……今でも思う、威力高すぎ……。


あまりの兄さんの圧に僕は勿論、男の子もすぐに言い争いを止めた。向こうは知らないけど、僕は兄さんを怒らせたら怖いことは知っていたから……すぐに止めた。

けど、その怒りはすぐに収まることは無くて。


『……ふんっ!』

『なっ!? ……んだと……ぉ?』


一回、目が合ったけど当時の僕は”話したくない”という気持ちでいっぱいだったため、すぐにそっぽを向いた。その態度が気に入らなかったのか、男の子は怒りを抑えるような声を出す。

けど、それすらもすぐに止んだ。何故なら兄さんが咳払いをしたからである。
あの圧を一度味わったからなのか、男の子も止めなきゃって思っちゃったんだろうね。


『ごっこ遊びに見える、か。確かに他所から見ればそう思われて当然だ。けど、俺はごっこ遊びでチームを作って、コーチをやってるわけじゃない。将来、そのような姿になりたいからやっている』

『……そ』

『どうやら信じてないみたいだね。なら、俺と勝負するかい? 一戦やってみれば、俺が本気なのは分かって貰えるはずさ』

『へっ、そこまで言うならやってやるよ! すぐに奪ってやるけどな!!』


兄さんが投げた勝負を、男の子はすぐにキャッチした。
グラウンドには兄さんと男の子だけが残り、他は外野で観戦する。


『ボールは君からでいいよ』

『だったら遠慮なく!!』


勝負はすぐに始まった。
余裕な様子で兄さんに向かって行く男の子。それをじっと見つめる兄さん……勝負の行方は?





2023/12/23


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