微かな光が光輝になるまで
空と亜久と知り合って気づいたんだけど、どうやら2人は私と兄さんが通う学校所属だったんだ。学校で再会したときはビックリしたけど、同時に嬉しさもあったんだ。
……2人は兄さんが2つ上だったことに驚いていたけど。どうやらもっと上だと思ってたらしい。
話は変わって……僕と兄さん、空と亜久は学校が休みである土日は一緒に過ごすようになった。勿論やることはサッカーだ。
『少し遠いけど、サッカーゴールが設置されている場所を見つけたんだ。今日はそこでやろう』
そこは所謂穴場と言う奴で、少し錆びていたけれどサッカーゴールとしては十分なものが設置された場所だった。
兄さんは数日そこに通って確認し、人気があまりなかったからサッカーゴールが設置された空き地を勧めてくれたんだ。
『あれ、先客だね』
だけど、僕達が行ったときは先に使っている人がいたんだ。
それだけだったら良かったんだけど……、視界に入ったものはどこか不穏なもので。
『2人いるのに防ぎきれないとか、本当にDFなのかァ?』
『ポンポンゴールに入ってくぜ! GKの意味ないじゃん!!』
『もしかして俺、天才なんじゃね!?』
あはははは、と笑う声は、明らかに人を馬鹿にしているときのものだ。そう思いながら阿声の聞こえた方へ視線を移せば、そこには6人の男の子達がいた。
サッカーゴールの前に1人、そこから少し離れた場所に2人。
そして、ボールを持っている3人。明らかに3対3の状況で、ゴールを守っている側が劣勢なのは分かっていた。
……そうそう、前の話になるけど、あの三つ子兄弟でイラッときたのは、この時の状況と重なったからなんだよね。
『……あの笑い声、嫌い』
『大丈夫、亜久だけじゃない。ボクも嫌だ』
『二人の受け取り方は正解だ。そして、放っておくわけにいかない』
お前は?
そう兄さんが僕に問いかけた。
『……僕も嫌だ』
『だったらやることは1つだ』
『……助ける?』
『そう。弱い者いじめは1番やってはいけないことだ。だから止めに行こう』
きっと、この時兄さんがそう提案してくれたのは過去の僕を乗り越える為だと思うんだ。……僕と同じ人を作らないように。同じ経験をした人を救えるように。
『……っ、うん』
勿論、この時怖かったさ。
けど兄さんの言葉を信じて頷いて、手を取ったことは後悔していない。
『そ、そこの人達!!』
『あ?』
『ヒィッ!?』
勇気を持って声を掛けたけど……サッカークラブの事もあって、すぐに怖くなったんだよね。
負けないようにしないと……悪い人を優勢にするわけにはいかない。そんな気持ちがあっても、心が怯えきってしまっていた。
『名前。声を掛けて意識をこちらに向けただけでも十分だよ、あの3人を助けてあげて。空と亜久も』
そんな僕を見てなのか、兄さんは前に出てくれて、一人で対処すると言ってくれた。
『でも、兄さん危ないよ!』
まさか、兄さんが喧嘩しに行くんじゃ……!
そう思ってた僕は必死に兄さんを止めてたなぁ。
『大丈夫。殴り合いはしないから。見ておいて名前、ああいう態度の人達には___実力を見せつければ良いんだよ』
兄さんは僕の頭をポンッと撫でると、威張っている3人の男の子達の元へ行った。僕は兄さんに言われたとおり、空と亜久と一緒に劣勢になっていた3人の男の子達の元へ行った。
『だ、大丈夫……?』
『うん、ありがとう……。でも、あの人が』
僕が声を掛けたのは、ゴール前に立っていた男の子だ。その人は兄さんを心配していた。
僕もその人につられて、兄さんの方へ目線を移した。
『お前一人だけでゴールを守るだって!? 冗談付くならもっと良いやつにしろよ!』
『なら、冗談ではないことを見せてあげる。名前、空、亜久、その子達をフィールドの外に出してあげて』
『お前1人でやるってのかよ! 舐めやがって!!』
空と亜久は分からないけど、少なくとも僕は聞いてなかった。いつの間にか、兄さんといじわるな男の子3人組が対決することになったくだりを。
兄さんの指示通り3人をフィールドの外まで移動させた後、僕達は対決を見守ることになった。
『うぅ、悠さん大丈夫かなぁ』
『おれは大丈夫だと思う』
『なんでそう言い切れるの?』
『おれ達の憧れが、あんな奴らに負けるとは思わないから』
お前もそうだろ、名前
空と亜久の会話を黙って聞いていた僕に突然振られた言葉。それは亜久からのものだった。
まだ出会って、一緒にサッカーするようになって短いけれど、空と亜久は兄さんを憧れの対象として見ている。その点に関しては、僕も一緒だ。だからある意味競争相手でもあった。
だからこそ亜久は信じたんだ。兄さんが勝つ事を。
『……僕も、信じる。兄さんが勝つ事を』
『ボクもボクも! みんなで悠さんを応援しようっ!』
だったら僕も兄さんを応援しないと!
1対3の状況を不安な気持ちを抱えながら見つめていた。
2023/11/25
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