参戦! 雪原の皇子



夢を見た。
孤児院にいたときの記憶だ。
まだ”僕”が”私”だった時の記憶。


『名前ちゃん、こっちこっち!』

『待ってよっ』

『名前! こっちだこっち!』

『あーっ、もう! 私で遊ばないでよっ!』

『ごめんごめんっ』


孤児院の広い庭でサッカーボールを追いかけ回していた日。
あの時の僕はまだ、足も遅くて、体力もなくて……。
ただサッカーが好きなだけだった。

みんなとサッカーをする。そんな日常が大好きだった。


『ごめんね。私、ここを離れることになっちゃった……』

『もう会えないの?』

『私だってみんなと会えなくなるのは嫌だよ!』

『だったら会いに来てよ! そしてまた、一緒にボールを蹴ろう?』

『! ……うんっ』


みんなに見送られ、ずっと泣いていた僕の手を兄さんが手を引いて。


「! ……夢、」


目が覚めて、起き上がれば周りには春奈や秋ちゃん先輩、夏未さんに塔子さんが寝ていた。
まだ外は暗くて、起床時間ではないらしい。


「……あれから、7年経ってるのか」


どうして今、あの時の夢を見たんだろう。
やっぱり、昨日見た映像がに似ていたからだろうか。


「いや、違う……。エイリア学園は宇宙人だ。みんなじゃない」


そう自分に言い聞かせるけど、不安は拭えなかった。



***


翌日


僕達は朝食を終えてグラウンドへ出てきていた。
練習のためである。


「今日から吹雪と一緒に練習だ! 今度こそ必ずエイリア学園に勝つ! そのためにも、今まで以上に特訓して……おっ」


途中で円堂さんが言葉を止める。
円堂さんが見る方法へ視線を向ければ、雷門のユニフォームを着た吹雪さんがそこにいた。
トレードマークのように見えてきたマフラーも巻いて。


「わぁ〜っ、似合ってるよ吹雪君!」

「かっこいいなぁ〜」

「ありがとう、みんな。僕もこれで雷門イレブンの1人だ、この白恋中を絶対に守ってみせるからね」

「その意気だ!」

「で、どんな練習をするの?」

「それ、僕も気になります」

「そっか、苗字も俺たちと練習するのは初めてか」

「そうですよ。見た事はありますけど、今の貴方達がどんな練習をしているのか知らないですから」


そう。何気に僕、雷門の練習に参加するの初めてなんだよね。


「白と赤でチームを2つに分けるんだ! それぞれ攻守を交代して、コンビネーションの練習をするんだよ!」

「面白そうだね、いいよ」

「吹雪君」


円堂さんが吹雪さんに練習メニューについて説明していると、瞳子姉さんが吹雪さんを読んだ。


「貴方にはFWをお願いするわ」

「僕がFW……」

「不服かしら?」

「いや、問題ありません」

「名前。貴女はDFね」

「DF? うん、分かった」


吹雪さんは赤チームに、僕は白チームに振り分けられた。
円堂さんは赤チームのGKであるため、DFが赤チームより一人多い形になっている。


「それでは初めッ!」


瞳子姉さんのホイッスルで開始。
投げられたボールめがけてみんなが走る中、僕はゴール前でその様子を眺める。

初めにボールに触れたのは……鬼道さんと風丸さんだ。


「”疾風ダッシュ”!」


二人は暫くボールの奪い合いを続けていたが、風丸さんが必殺技で鬼道さんを抜いた。
へぇ、いい動きじゃんか、風丸さん。

相手ゴールに向かって風丸さんが走る中、後ろから追ってきたのは吹雪さんだ。


「風になろうよ」


なんと吹雪さんはあっという間に風丸さんからボールを奪ったのだ。


「思ってはいたけど、速いな……」


吹雪さんのあの速さは何で得たものなんだろう?
僕は兄さんが見つけてくれたから、最低限ランニングをして体力を付けて速さに繋がるように特訓したからなんだけどさ。

だからちょっと興味がある。


「風丸、何やってるんだ! 行くぞ!」


染岡さん、今日も機嫌悪いな……。
そんなことを思っている間にも吹雪さんがこちらへやって来る。
しかしその後ろには、ボールを奪え変えそうと風丸さんが着いている。


「スピードはお前だけのものじゃない!」

「吹雪、無理するな!」

「こっちに回せ!」


一之瀬さんと鬼道さんからパスの指示が吹雪さんに飛ぶ。
その時、風丸さんがスライディングで滑り込んできた。

それを吹雪さんはジャンプして躱した。


「いくよ。……よっしゃあああッ!!」


また雰囲気が変わった。
どうやら吹雪さんは攻撃となると性格が変わる人らしい。

ということは……あの必殺技を使ってくるのかな?


「どけどけどけえぇッ! どきやがれ!!」


塔子さん、土門さんを軽々と抜き去り、真っ直ぐとゴールへ向かってくる。


「ったく、チョロいなお前ら!」

「勝手過ぎるぞ……」

「僕ら、もう完全に無視されてますよね」


味方のパスに全く応じない。
あの様子だと聞こえてなさそうだな。

ほら、一之瀬さんと目金さん着いて行くの諦めてるもん。


「! なんだ、いねーと思ったらそこにいたのか」

「……どうも」


さっき瞳子姉さんからDFに入れって指示貰ったけど、聞いてなかったのかな。
まあ自分の事じゃないから、聞いてなかったとしてもおかしくないけどさ。


「奪いに来いよ、お前は唯一俺に着いてこれる奴だからな!」

「生憎、今回は守備をするように言われててね。競走は今度にしてくれる?」

「っしゃーねぇな……。だったら喰らわせてやるぜ!」


そう言って吹雪さんはシュート体勢に入った。
僕も必殺技の構えをしようとした時だ。


「ちょっと待った!!」

「え?」

「うん?」


待ったをかけたのは染岡さんだ。
吹雪さんの背後を見れば、染岡さんだけでなく一之瀬さん、目金さん、塔子さんに土門さん……と、みんなが集まってきた。





2021/11/14


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