参戦! 雪原の皇子



キャラバンが出発して走り続けること数時間。
突然キャラバンが停車した。


「監督? なんで止まったんですか?」

「狭いバスに乗ってばかりじゃ身体が鈍るわ。トレーニングをしましょう」

「あ、えっと……。皆さんのためのトレーニングメニューもあります!」


え、トレーニング!?


「やったー!」

「どんな内容なの!?」


嬉しさのあまり、立ち上がった僕。
そして恐らく、僕と同じく嬉しくてその場で席を立った円堂さん。

……しかし、その喜びの声は僕と円堂さんしかあがっていなかった。
周りを見れば、どこか不満そうな顔のメンバー。


「? おい、みんな?」

「……いいわ。だったら自主トレをしてもらうわ。この山の自然を相手に」


え、自主トレ……。
僕瞳子姉さんが考えたトレーニングメニュー気になるのに……。


「……監督が組んだメニューよりはマシだろうさ」

「そ、そうッスね」

「よーっし! 山だ! 自然だ! 特訓だーーーっ!!」


そう叫んで出て行った円堂さんに着いていくように、他のメンバーもキャラバンを降りていった。

……僕だけでも瞳子姉さんのトレーニングメニュー受けられないかなぁ。
そう思い、瞳子姉さんに話しかけようとした時だ。


「苗字」

「はい? なんですか風丸さん」

「良かったら一緒にどうだ?」


後ろから掛けられた声。
風丸さんから特訓のお誘いを受けてしまった。

……まぁ、ずっと一緒に特訓することはないだろうし、いっか。
後で瞳子姉さんに聞きに行けばいいし!


「いいですよ!」

「ありがとう」


こうして僕は風丸さんと一緒に自主トレを行う事に。
キャラバンを降りた僕達が向かった先は、この休憩エリアの外周だ。


「ランニングですか。いいですね〜」

「余裕そうだな」

「ま、走り込みは普段からやってるので」

「……そういえばそうだったな」


僕達が行っている自主トレは至ってシンプル。
ランニングだ。
これは風丸さんの強い希望だったのだ。


「それにしても、どうしてみんな瞳子姉さんの作ったトレーニングメニュー、嫌そうだったんだろう……」

「……」

「風丸さんは嫌いですか? 瞳子姉さんのこと」

「俺はまだ監督を知ってそこまで日が経ってないから何とも……」

「……やっぱり、風丸さんも染岡さんと同じですか?」

「同じ?」

「瞳子姉さんが豪炎寺さんを追い出したこと。春奈から少しだけ聞いたんです」

「……俺には監督の考えは分からない。だから信頼できる人なのかまだ分からない」


僕はその場に居合わせなかったから、瞳子姉さんが豪炎寺さんを追い出した理由なんて知らないし分からない。

……でもあの人は意味のない事はしない。
何か理由があって豪炎寺さんを追い出したんだと思うんだ。


「それより、前からお前に聞きたい事があったんだ」

「なんですか?」


一旦その場に止まり、風丸さんと対面する。
走りながら会話するって意外ときついんだよね。


「苗字のその速さの秘訣……それが知りたい」

「僕の速さ? うーんと……兄さんのおかげですかね!」

「苗字のお兄さん?」

「はい!」


僕は割と昔からサッカーをやってきた。
サッカーは速さと体力。それが大事だと思ってる。

僕はその両方が良い点だと兄さんに言ってもらえた。だからその2点を伸ばすために、今でも走り込みを毎日やっている。


「お前のお兄さんが、苗字の良い点を見つけてくれたから、か……」

「? どうかしましたか?」

「……お前が羨ましいよ」


どこか落ち込んでいるような悩んでいるような様子の風丸さん。
……まぁ、スポーツにおいて悩みなんて付きものだ。悩みなんて絶えない気がする。


「……僕は偶々サッカーと相性の良い利点がありました。でもそれは全員が持っている訳じゃない」

「?」

「風丸さんにだってありますよ。サッカーと相性の良い風丸さんの利点が」

「……お前は知らないと思うけど、俺は元陸上部なんだ。だから速さだけが俺の取り柄だと思ってる。だけど……」


言葉を詰まらせてしまった風丸さん。
……言えない内容、なのかな。


「僕、風丸さんの走り方、好きですよ」

「!」

「綺麗なフォームですし、元陸上部だって聞いて納得しました」

「……なんだか、お前に言われると少し自信付くよ」

「えへへ、それはどうも」


じゃ、もう少し走り込みましょうか!
そう言って駆け出せば後ろから「待てよ苗字!」と風丸さんが追いかけて来た。





2021/11/3


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