参戦! 光のストライカー



「悠さん見て思ったけど……苗字お兄さんそっくりだな」

「実のところ、僕が似せてるんだよね」


今では男の子に間違えられるような髪型だけど、小さい頃……じいちゃんとばあちゃんに引き取られる前は割と女の子らしい格好をしていた。

昔の僕は結構髪が長くて、兄さんにツインテールにしてもらってたっけ。
今の僕からは考えられない髪型かも。


「ね、瞳子姉さん! 昔と今の僕って結構違うでしょ?」

「……そうね。小さい頃の貴女を知っている私からすれば、かなり変わったわね」


そう言って小さく微笑んだ瞳子姉さん。
……何となくだけど、瞳子姉さんも変わった気がする。
なんだか昔より静かになったような……。


「名前。キャラバンに戻ったら改めて自己紹介をお願いね」

「うん! ささっ、円堂さん! 早く行きましょ!」

「おう!」


僕のかけ声を合図に、僕と円堂さんは駆け出す。
走ればキャラバンはすぐそこだ。


「……相変わらず名前は悠の事が好きなのね。そして、悠も名前を大事にしている。昔からずっと変わらないわね」


瞳子姉さんがそんなことを言っていた事を僕は気づかなかった。



***



「改めて自己紹介を……っと」


雷門のメンバー+見知らぬ女子の前に僕は立つ。
視線が僕へと集中するのが分かる。


「僕は苗字名前。こんな見た目だけど女だよ」


そう言いながら視線を見知らぬ女子に向ける。
僕を男と間違えていたことが図星だったのか、目を逸らされた。


「ポジションはGK以外ならどこでも大丈夫。よく任されるのはFWだけど、僕的にはMFがいいなぁ」

「それとそれと! 苗字はサッカー部に正式に入部してくれたんだ!」

「雷門中1年、苗字名前! 雷門中サッカー部に入部しました〜!」

「宜しくな苗字!」

「ま、約束だったからね〜」


僕の入部発言に盛り上がるサッカー部。
拍手と歓声が起こる中、「ん?」と円堂さんが疑問の声を漏らした。


「苗字、もう1回」

「約束だったから」

「その前だ」

「雷門中1年、苗字名前。雷門中サッカー部に入部…」

「「「1年!!!?」」


鬼道さんに言われ、自分が言った事をもう一度話す。
すると今度は驚きの声が辺りに響いた。


「え、知らなかったの?」

「知らなかったからびっくりしてんだろ!」

「俺、てっきり同い年だと思ってた……」

「そもそも春奈とタメで話してる時点で気づかない?」

「お前誰に対してもタメだったじゃん……」


ま、僕は敬語を使わない主義だから仕方ないね!
流石に歳上の人を呼び捨てにするなんて事はしないけど。


「って事は苗字お前、先輩にタメで喋ってるって事か、ああ゛!?」

「敬意を込めて話すから敬語って言うんでしょ? ただの先輩に敬語を使う理由が、僕には分からないよ」

「んだと……!」


再び染岡さんと言い合いになっていたその時、手を叩く音が響く。
その音に我に返った僕は、音の鳴る方へ振り返る。


「名前。貴女の気持ちは分からなくもないわ。貴女は幼い頃からその実力を讃えられてきたから、敬意を払われる立場だった」


僕は小学生部門でその実力を認められ、小学生ながら世界代表に選ばれた経験がある。

だから僕は思ったんだ。
周りの同年代よりも優れているって。


「そうだよ。僕は頼られる存在さ。だから敬語を使う使わないは僕の勝手でしょ?」

「それは違うわ」

「え……?」


瞳子姉さんが僕の言葉を否定した。
その事に驚きを隠せなかった。


「いくら自分の実力が高くてすごくても、歳上に対して敬意を払うのは当然なことなの」

「……どうして」

「それはね、歳上の人……ましてや初めて知り合った人は、自分の知らない様々な経験をしている」


僕の知らない経験……?


「悠が貴女にサッカーを教えられたのはどうしてだと思う?」

「……サッカーをしたことがあるから」

「そう。染岡君も同じよ。貴女が知らなくて経験した事のない何かを経験している。敬うには十分な事よ。そこにサッカーができるできないは関係ないの」


いままでこんな事言われたことがなかった。
周りからは褒められる事が多かったから。
注意される事はあれど、その口調は優しいものばかりだった。

別に怒られる事がなかったわけじゃない。兄さんにもじいちゃんにもばあちゃんにも怒られたことはある。
だけど、血のつながりのない人から怒られるのは初めてで。


「……偉そうな態度とって、すみませんでした」

「お、おう」


染岡さんの弱々しい返答。
……それもそうか。
だって僕が___


「な、泣くなよ……」

「……泣いてない」


目に涙を溜めているからだ。


「……別に怒っているわけじゃないのよ」

「だから泣いてないってば!!」

「その顔じゃ説得力ないぞ」

「……だって、家族以外に怒られたの初めてだったんだもん」


そういえば何故か引かれているような雰囲気になった。
……なんだよ。


「ま、まぁ俺もちょっと言いすぎたよ。……悪かった」

「僕もごめんなさい。……別に悪く言ってるつもりはなかったけど、相手のこと考えてなかった。だからごめんなさい」


染岡さんの目を見ながらそう言えば、向こうは優しげに微笑んだ。
それを見て許して貰えたって思ったんだけど……合ってる、よね?



参戦! 光のストライカー END





2021/10/31


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