対 世宇子中
やっとの事で円堂さんがマシンの端まで到達した。
響木さんによると、これは第一段階らしい。
次のステップは、先程のマシンで意識した『臍』と『臀』を実際に試す、というものだ。
ゴール前には円堂さんが立ち、相手をするのは鬼道さん、豪炎寺さん、そしていつの間にかユニフォーム姿になっている響木さんだ。
「いくぞッ!!」
鬼道さんがそう言って、ボールを蹴った。……ん?あの技は……
「“イナズマブレイク”!」
……“イナズマブレイク”って言うのか。って、あの技、円堂さんと鬼道さん、豪炎寺さんの連携技だよね!?なんで響木さんもできるの!?
と、僕が別の事で驚いている中、円堂さんは“マジン・ザ・ハンド”に挑戦する。
「“マジン・ザ・ハンド”!………うわぁッ!?」
一瞬だけボールを止め続けたが、円堂さんはボールと共にゴールへ。
まだ必殺技はできていないようだ。
「もう一度!!」
「……っ、はいッ!」
何度も“マジン・ザ・ハンド”に挑戦するも、円堂さんが繰り出す“マジン・ザ・ハンド”は未完成のまま……。
「くそぉ……、なんでできないんだよ……ッ」
必殺技なんて、そう簡単にできるようなものじゃない。
それも、その“マジン・ザ・ハンド”という必殺技が『幻』と呼ばれているのなら尚更。
「監督」
「ああ。……何かが欠けている。何かは分からないが、根本的な何かが……」
「根本的な何か……?」
「……やはり、“マジン・ザ・ハンド”は、大介さんにしかできない『幻』の必殺技なのか……」
何かが欠けている、か。見ていれば何となく分かるけど、キーパー経験なんてないから、何が足りないのか分からない。
それに、一度挑戦したことのあるらしい響木さんに分からないなら、僕にも分からない。
響木さんの言葉を聞いて、サッカー部の様子が変わる。
確かに、あの世宇子中のキャプテンの実力を見たら…ね。気持ちも分からない事もない。
「ちょっと皆、どうしたのよ!負けちゃったみたいな顔して!まだ試合は始まってもいないのよ?」
「でも、相手のシュートを止められないんじゃ……」
木野さんの言葉に壁山がそう答える。
「ゴールを守るのは、GKだけなの?」
大きく全員に聞こえるように僕はそう言った。
「それに、ボールを止めるだけがサッカーな訳?」
「ち、違うでヤンスが……」
僕の言葉に栗松が答える。
壁に寄りかかっていた背中を起こして、木野さんの隣まで歩く。
「守り切れないのなら、点を取れば良い。……違う?」
「名前さんの言う通りよ。点を取れば良いのよ!」
僕の言葉に木野さんがそう言った。どうやら同じ事を考えていたようだ。
「10点取られれば11点、100点取られれば101点!そうすれば勝てるじゃない!」
まさか、木野さんの口からそういう言葉が出るとは。ちょっと驚いた。
「2人の言う通りです!点を取れば良いんですよ!」
僕の隣に来た春奈がそう言った。
「攻撃は、ある意味防御とも言えるからね。点を取っちゃえば良いのさ」
攻撃は最大の防御だーって何処かで聞いたことがある。何だったけ、ゲームだった気がするんだけど……。忘れた。
横にいた春奈と木野さんの視線を感じて左右を見ると、僕に微笑んでくれていた。
「10点取られれば11点……」
「100点取られれば101点……」
木野さんが言った言葉を土門さんと一之瀬さんが呟く。
「鬼道!」
「ああ。……取ってやろうじゃないか!101点!」
染岡さんの声に鬼道さんが反応し、そう言った。
「俺達もやるぞ。守って守って守り抜く。奴らにシュートは打たせない!」
「俺もやるッスよ!」
「意地でも、守ってやるでヤンス!」
風丸さんの言葉に壁山、栗松がそう言った。
「やろうぜ、円堂!…できるさ、俺達なら!力を合わせれば!」
「皆……!よぉ〜しいくぞ!!俺達の底力、見せてやろうぜ!!」
風丸さんの言葉に続き、円堂さんがそう言った。
円堂さんのかけ声に反応し、サッカー部の声がこの空間に響く。
「……その底力とやら。見せて貰おうかな」
そう思い、先程までいた位置に向かって歩く。
「監督!もう一本!!」と聞こえる円堂さんの言葉に、元気だなぁと思いながら聞いていると、
「折角だ。彼奴に相手して貰え」
という響木さんの言葉が聞こえた。
誰のことだ?と思い振り返ると、
「……え?」
周りから集まっている視線。……どうやら、僕の事らしい。
「は!?僕!!?」
「お前以外誰がいる」
「なんで!?」
「あるものは利用しないとな」
「僕、道具扱い!?」
響木さんと僕のやりとりに湧き上がる笑い声。
……ま、暗い空気がなくなるなら、笑いものになるのも許してあげるよ。
2021/02/21
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