未来日記は記せない

side.迅悠一



「何年ぶりかなぁ、俺の部屋」

「確実に4年は経ってるね」

「汚くなってそうだな……」

「定期的に掃除してるから大丈夫だよ」

「そうなのか、それは良かった」


目の前のドアノブを握り、扉を開けた。
視界に広がったのは、おれ自身も何年も入っていない香薫さんの部屋だ。


「まだ残ってた! 俺と名前のアルバム帳!」

「あ、これは父さんと一緒に撮ったやつだな。なつかし〜」

「お。ギター置きっぱなしだったのか。……げ、チューニングしないとこれは弾けないな」


名前ちゃんがはしゃいでいる。おれの前で。
何とも絶対にあり得ない光景だが、残念ながら目の前にいる人は名前ちゃんであって名前ちゃんではない。
名前ちゃんの姿をした香薫さんなのだ。……正直今でも信じられない。

だけど、口調や戦闘スタイルはどう見ても香薫さんだ。
間違えるわけない。


『死人に未来がある訳ないだろ?』

『悠一。俺はもう人間じゃない……トリガー、兵器だ』


そう言い放った香薫さんだけど……気づいてる?
表情が苦しそうだった事に。

それに、香薫さんを兵器として……道具として、武器として見ることなんてできない。
だって前までは一緒に戦って、笑いあって……共に過ごしてきたんだから。
急に言われても呑み込めるわけがない。

でも香薫さんの言葉は事実であって。


こうして会話する事ができるのに。
喜怒哀楽があるというのに……それは生きているものにしか存在しないはずだろ。


「あれ、服が減っているような……」

「あー、ごめん。実はおれの後輩にいくつかあげちゃって。香薫さんのサイズとピッタリだったからさ。勝手にゴメン」

「いいよいいよ。これ、モデルの仕事で貰ったんだけど、置きっぱなしにするより誰かに使って貰う方が何倍もいい。その後輩君に遠慮せず渡しちゃってよ。あ、悠一も貰って良いからな? そういえば悠一って今何センチ?」

「179だったかな」

「おー、伸びたなお前! そんだったらサイズピッタリだと思うぜ。使え使え!」

「あ、ありがと……」


んー、どっかに悠一に似合いそうな服が合ったんだよなぁ……
そう言いながらタンスを漁る香薫さん。

おれそこまでオシャレじゃないし、香薫さんが来ていた服似合うかな……。
香薫さんはモデルもやっていたからすごくオシャレだ。ブラックトリガーのデザインも、まるでオシャレな香薫さんを表したかのような形だし。


「お、あった。ほれ!」


急に投げられた服をキャッチする。
見てみれば本当におれに似合うのか分からない服が。


「それ着て名前とデートでも行ってこい」

「まだデートに誘えるような仲じゃないよ……」

「そこまで持っていくんだよ、これから」


先程の会話で香薫さんに副作用サイドエフェクトが通用しないことを知った。
なので香薫さんから何を言われるのかわからない状態だ。

この副作用サイドエフェクトが発現してから、おれはこの副作用サイドエフェクトと共に生きてきた。
何事もあらゆる可能性を読んで行動していたおれにとって今の現状は、新鮮でもあって、少し悲しい。


「……そういえば忍田さんに許可貰わないとブラックトリガー使えないって聞いたけど」

「え? そうなのか? 俺まだまさっちに会ってないよ?」


……という事は、名前ちゃんは忍田さんに許可を取らずにブラックトリガーを……香薫さんを呼んだ、と言う事だ。
その行動を起こした要因はおれであって。


「あ、今名前のこと考えただろ。おれの事を思って……」

「違う! ……いや、違わないけど」

「素直じゃねーな」


……もしかしたら香薫さんも予知の副作用サイドエフェクトを持ってるんじゃないか?
そう思ってしまうほどにおれの内心が読まれている。
そんな訳じゃないため、おれが分かりやすいだけなのかもしれない。……それはそれで嫌だな。

おかしいなぁ、神出鬼没でのらりくらりとした所が売りで、ボーダー内ではそういうイメージで固まっているのに。
いろんな所で香薫さんには適わないなぁ。





2022/2/13


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