出会い



あれから一年が経過した。現在、私は中学三年生だ。
運良く自分が通っていた学校がボーダーと提携を行う事になった。……多分、当時私とか迅さんとかボーダーに所属している人が多かったからだと思う。
……だが、私にとってはそれどころではない。私は人見知りという奴で今まで友達と呼べる人がいなかった。まあ、兄さんがいれば友達なんてどうでも良かったし、歳が近い桐絵もいたから特に気にしていなかった。…だが、兄さんがブラックトリガーと変わり果てて一年経って、桐絵はそもそも中学校が違う。
つまり、何が言いたいのかというと……。


「……」


この視線を一人で耐えなければならないと行けない事だ。…いや、それは一年前から同じか。まあ迅さんがいるいないでは大分変わったかも知れない。
ボーダーならまだ知ってる人がいるから寂しくないけど、流石に学校では知り合いなんていないし……いや、いるかもしれない。多分。
ボーダーの存在が世間に公表されたことで、隊員は十数人しかいなかったのにあっという間に増えた。だから私が知らないだけでこの学校にいるかもしれない。
って、問題はそこじゃない。


「あの人、ボーダーの人なんでしょ?」

「何かイメージわかないね〜」


そう。この学校はボーダーと提携しているのだ。なので、ボーダー関連で注目を浴びるだろうと忍田さんからは言われていたけど……。


「こ、こんなに注目浴びるなんて聞いてない……!」


もう一年ほど経っているけど、未だに慣れない。
机の上に突っ伏して視界を遮断する。そのまま目を瞑ってしまいたいが、副作用サイドエフェクトが発動してしまうので閉じる訳にはいかない。いや、別に副作用サイドエフェクトを使ったとしても特に周りに害はないけど、その……。

私の副作用サイドエフェクトは『強化視覚』と呼ばれるものだ。名前の通り自分の視界を強化する事で半径500mまで視界を広げる事ができる。また、目を瞑る事で気配を読む事ができる。これは目を閉じる事がスイッチをオンにする事と同義であるため、寝るときに困る。まあ簡単に言ってしまえば目が良いって事かな。


「うぅ、早く終わらないかなぁ……」


担任の教師が来ないからHRが始まらないし、さっきから視線が至る所から刺さってくる。私こんなに注目浴びるの苦手なんだってばぁ……。


「遅くなったな。HRを始めるぞ」


なんでこんなにも遅れたんだろう。
担任の教師は教壇に立ったと思えばドアの方を見た。


「急で悪いが今日は転入生がいる。入ってくれ」


こんな時期に転入生か。
そんなことを思いながらドアの方をジッと見つめると、誰かが入ってきた。
黒板に名前が書かれる。


「『国近柚宇』です。よろしくお願いしま〜す」


今日からクラスメイトとなる人達の前でそう自己紹介をした国近さん。……まあ、私とは関わる機会はないだろう、と思っていたのだが。


「国近の席は苗字の隣だ。苗字、手を上げろ」


えっ、私の隣!?
慌てて横を見ると、なんと隣に机があった。気がつかなかった……!
そのことに驚いてまた名前を呼ばれ恥ずかしい思いをするのは数秒後。


***


……はぁ。やってしまった。早く卒業式こないかな。そんなことを思いながら顔を腕に伏せる。
……また視線を感じるんだもん。もう恥ずかしいから忘れてよ……。ボーダーの事やらさっきの事やらでもう私今日生還できるか分かんない……。


「ねぇねぇ〜」


はぁ。特に強いのは隣からの視線だ。……ん?横?!


「あ、やっとこっち見た〜」


そこにいたのは垂れ目で如何にもゆるふわ系って感じの女の子……って、国近さんか。発言からに、どうやらずっと私を見ていたらしい。


「ねぇねぇ、ボーダーの人なんでしょ?」

「えっと、そうです……けど」


段々声が小さくなる。完全に人見知りを発動してしまった私。
そんな私をみて、目の前の女の子はクスクスと笑った。ば、バカにされた……。


「さっきも自己紹介したけど、わたし国近柚宇。ボーダーにスカウトされて三門市に来たんだ〜。よろしくね、苗字」

「え、何で名前知って……」

「だってボーダーで有名だよ?知らないわけないじゃない」


私が有名……?
国近さんの言葉に首を傾げる。


「あ、先生来たね。後でまた話そ」


国近さんはそう言って前を向いた。私も先生の話を聞くために前を向いた。
……ドキドキした。だって、同級生で女の子とこうして長く喋ったの始めてなんだもん。っていうかさっき、ボーダーにスカウトされたって言ってたな……。ボーダーそんなことやってるんだ。

……と、授業が始まってしまった。とりあえず授業に集中しなければ……!


***


はっきり言おう。全然集中できなかった。
だって横からすごい視線感じるんだもん!!なんで授業中もこっち見てくるの国近さん!!
色々と疲れ切ってしまった私は再び机に突っ伏した。


「よいよい、どうしたんだい苗字さんや」

「えっ!?あ、えっと……その……」


言えない。貴女の発言が気になって先生の話をいくつか聞き逃したなんて。


「ねぇねぇ、今日ボーダー基地に行く?」

「え、はい。……というか、ボーダー基地が家みたいなものなので」

「へぇ、ボーダーが家なんだ〜!」


……なんだろう。すごく話しづらい。つかみ所がないっていうかゆるゆる過ぎてペースを持って行かれるって言うか……。そもそも私、人を纏めるとかそんなの出来ないし……。


「じゃあさ、放課後一緒にボーダーに行って良い?」

「えっと、国近さんが良いなら」

「国近さんなんてかたっくるしいなぁ〜。『柚宇』でいいよ、わたしも『名前』って呼ぶから」

「は、はい。えっと、柚宇さん」

「さんいらない。敬語もいらない。わたし達同級生なんだからさ〜」


うぅ、コミュ力の塊だった兄さんが羨ましくなってきた……。


「所で名前はゲーム好き?」

「え?ゲーム、ですか」

「……」

「い、いやゲームはあんまり……」


どうしても予防線を張ってしまうのは昔からの癖だ。この人が私と気が合うのか合わないのかを無意識に探ってしまい、初めましての人とは年下同級生に限らず敬語で話してしまうのだ。
年下ならまだ気軽に敬語を外せる。だけど同級生は中々外せない……というか、今までずっと敬語で会話してた。


「じゃあさ、これを機にゲーム触ってみない?」

「えっと……」

「大丈夫!わたしが教えるから〜!」


何か決まっちゃったけど、いいのかなこれ……。


***


放課後
ボーダー基地


「おぉ〜!名前、ゲームのセンスあるよ!」

「ほ、本当?」

「うんうん!」


今私はボーダーの中にある休憩所みたいな……何か自由に使っていいですよってスペースにいる。
何か、こうやって友達と遊んだりするのは初めてだ。ボーダーに入ってからは遊ぶことよりも訓練が大事だったから。……あの頃の私は、ボーダーの中で一番弱かったから、誰よりも頑張らなきゃいけなかった。


「本当にゲーム始めて?」

「うん。……私、こうやって遊んだ事なくて。いつも訓練ばかりしてたから」

「そっか」


ゲームのコントローラーを持っていた手を、柚宇が握った。
そしてぐっと縮まった距離。


「これからは、わたしが楽しい事教えてあげる!ゲームとかゲームとかゲームとか!」

「げ、ゲームしか言ってないよ……?」

「ついでにその内気な性格も直して進ぜよう」


ビシッと人差し指を立てながらふふんっと柚宇は鼻を鳴らした。
その姿が面白くてクスッと笑ってしまった。


「お、笑ったな〜?このこの〜っ」

「い、痛いよ柚宇っ」


兄さん。今日初めて同級生の友達ができました。
……昔の私と比べたら、すごい進歩だよね?兄さん。


「……ふふっ」


澄んだ青い瞳が、この様子を遠くから見ていた事を私は知らない。





2021/02/27


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