愛する君の声が聞こえた



「まさっち、まさっちだよな……?」


敵がいると思った場所には、かつて俺が競い合ったり一緒に敵を討伐していた所謂『相棒』とも言える存在…忍田真史がいた。
俺はまさっちに駆け寄り必死に問いかける。


「ここはどこなんだ?どうして俺は生きている?俺は間違いなく…死んだ、はずだよな……?」


あれ、俺ってこんなに身長低かったっけ……?
確かに俺はまさっちよりは低かったけど、目線はほぼ同じだったはず……。
それに、俺の声高くないか……?


「君は一体、誰なんだ……?」


困惑を含むその声は、俺に向けられたもので。


「何言ってるんだよ……?俺は香薫、苗字香薫だ!」

「嘘を言うな!!」


自分の名前を告げるとまさっちが怒鳴った。……この声、口調。まさっちで間違いない。
なのにどうして、俺だと分かってくれない?


「香薫だと……?彼奴は死んだ!!名前を、妹を庇って死んだんだ!!彼奴は、香薫は……“ブラックトリガー”に変わり果てた姿で帰ってきた!!彼奴はもう、死んだんだ……!」


“ブラックトリガー”
それは自身の命とトリオンを注ぐ事で作る事ができるトリガー。俺は死に際にそのことを思い出していた。
名前の為にと願って、自分の僅かな命を使って。ほとんどトリオンは残っていなかった。だからほぼ“賭け”だった。
今まさっちが言った事が本当ならば、俺は___


「俺は、ブラックトリガーになることができたのか……?」


その瞬間、全ての歯車が一気に動き出し活動を再開させ、ありとあらゆる情報が頭の中を駆け巡る。
俺がどんな存在なのか、俺がどうして今生きているような感覚であるのか。それらについてほとんど分かった。


「そうか。俺はブラックトリガーになったんだ……」


自分の掌を見ると、死に際にぐしゃぐしゃの顔で俺を見ていた名前とそっくりな……いや、名前の手が視界に入った。


「苗字香薫はブラックトリガーになった。そう言ったな?」

「……それがどうした」


となれば、次にやらなければならない事がある。……俺が香薫であるという証明だ。
目の前にいるのはまさっち本人であるのは間違いない。だがまさっちは香薫おれだと認識していない。
耳元が熱い。……ああ、ここにブラックトリガーおれがあるのか。触れるとまるで心臓のように脈を打っている感覚がした。
どうすればまさっちに香薫おれだと認識して貰えるのか。
___さあ、存在証明を始めよう。





2021/02/25


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