私を待ってくれた人達



「……え?」


勢いだったけど、本心だ。
なのに相手の反応は素っ頓狂な声と、その声に似合った驚いた顔。


「……酷いですね、これでも勇気を出して言ったのに」

「えっ、いや、ちょっと待ってほしい。…………あの、ほんとに?」

「いつものイタズラに思われてるんですね……悲しいです」

「ごめん、分かった、信じるから!!」


私の言葉に慌てたように返す迅さんに、ちょっとだけ緊張していた心が落ち着いていく。……いつもの雰囲気だから、かな。


「……嬉しい、けど。でもさっき嫌いって言わなかった?」

「言いましたね」

「それじゃ矛盾してない?」


顔を赤くしたと思えば、がっかりして、顔を青くして……忙しい人だ。まあ、そうさせているのは私なんだけれど。


「……確かに、私は迅さんの事が嫌い……というより、苦手だったんだと思います。でも……」

「でも?」


これを知ってしまったら、都合の良い人だって思われないだろうか。そう考えてしまって、言葉を詰まらせてしまう。
顔を俯かせていると、視界に入っていた手を迅さんの大きな手が覆い被さった。


「大丈夫。言って?」


顔を上げれば近距離に迅さんの顔。その距離に驚き顔が熱くなっていく。
……今は顔を赤くしているときじゃない。ちゃんと伝えるんだ、言いたい事を。



「……あの日、お母さんから私を隠してくれた貴方の背中が……忘れられなかったんです」



今でも鮮明に思い出す……迅さんの背中を。無理矢理にでも私を手に入れようとしたあの人から守ってくれた迅さんがかっこよかったんだ。


「だから、えっと……貴方がいないかってたまに目で追うようになって、また一人で抱え込んでるんじゃないかって、その……色々気になって」


段々と小さく、弱々しくなる自分の声。だって、こんなの恥ずかしすぎる……!
ベッドの上で体育座りの状態になり、その膝に顔を埋める。今、絶対顔が赤くなってる、だって熱いんだもん……!

そう思っていると、急に身体が何かに包まれた。その正体なんて、考えなくてもすぐに答えが上から聞こえた。



「___嬉しい」

「……っ」

「ありがとう、名前ちゃん。……俺も、好き。いや、大好きだ」


耳元で聞こえた声は、確かにはっきりと聞こえたんだ。……私が好きだって。
今、迅さんはどんな顔をしてるのかな。私と同じで、顔が赤いのかな。……見ようと思えば副作用サイドエフェクトで見る事はできる。けど、今はこのままでいい。


……あれ、副作用サイドエフェクトと言えば。


「あの、迅さんならこの未来が視えていたのでは……?」


兄さんの存在で副作用サイドエフェクトが機能しなくなったと言っていたが、それ以前は普通に作用していたはず。その時に可能性として分かっていたのでは……?

そう思って顔を上げたが、視界は真っ暗。……ど、どうやら今私の目の前にあるのは、迅さんの胸、らしい。


「初めは視えてなかった。けど、あの日……名前ちゃんが母親と会ったあの日。副作用サイドエフェクトが可能性を視せたんだ」

「え……」

「あの時は驚いたのは勿論だけど、喜びの方が強かったなぁ」

「えっ? えぇっ??」

「でも、可能性が低いって言われて、ちょっと落ち込んだ」



そう言った迅さんの声は、本当に落ち込んでいるように聞こえた。いつものおちゃらけた声はどこにもなかった。



「けど、今この未来が現実になった。……だから、言葉では表しきれないくらい嬉しいんだ」

「そ、そうですか」

「うん。……長年の片想いが叶ったってのもあるしね」



………ん?
長年の、片想い……?


「………………え」

「おれさ、名前ちゃんと初めて話したあの日から、ずっと好きだったんだ。一目惚れってやつ」


そう言って照れくさそうに言う迅さんに、まさか自分と同じだったという事実に驚く。しかも、私よりもずっと前から……。


「けど、名前ちゃんの未来には俺がいなかった。だからずっと片想いで終わるんだって思ってたから……本当に、本当に嬉しいんだ」


再びギュッと身体が密着する。
……迅さんも私が好き、私も迅さんが好き。

これって、両想いなんだって思っていいんだよね……?





2022/9/24


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