大規模侵攻・前編



「基地がやられた……!?」


基地との通信が乱れた。
その場にいた茶野隊、嵐山隊、三雲、空閑は思わずボーダー本部基地を見上げた……直後だった。

本部付近を浮遊していたトリオン兵『イルガー』が衝突と同時に爆破したのだ。
その光景を見て茶野は思わずそう声を漏らした。


「いや……まだだ」


しかし、彼の発言を嵐山は否定した。
その視線は本部基地を指している。

嵐山の視線の先には、イルガーが4体基地に接近していた。
その内1体は本部からの迎撃で撃墜。しかし、残り3体のイルガーがすべて基地に衝突しまえば……誰もがそう思った時、小さな影がイルガーに向かって行くのが見えた。


その人物は___太刀川だ。
太刀川は弧月を2本とも抜き、イルガーを斬った。

イルガーには自爆モードというものがあり、その時はとても硬くなるという。太刀川が足したイルガーはまさに自爆モードの状態だった。なのに平然と倒してしまったのだ。


「私があれだけ手こずったイルガーを一刀両断……!」

「おお〜」


太刀川の姿に誰もが目を奪われているが、現状はまだ変わっていない。
まだ2体残っている。まさか耐久に出るのか……その時だ。


「砲撃……!?」


まるで大砲のような銃口の大きい武器から射出したような大きな弾丸がイルガーに直撃。


「あれは……ボーダーのトリオンのようだな」

「じゃあボーダーの誰かの攻撃……!?」


レプリカの発言に三雲が驚く。
イルガーは誰かの攻撃によりボロボロの状態で墜落していく。残り1体。


「見てるといい。ボーダーの中で上位の実力を持つ隊員の戦っている姿を見れるぞ」


どうやら嵐山には先程の攻撃が誰によるものなのか分かっているらしい。彼の発言に数人が首を傾げつつ、基地を見上げた。

それと同時に、太刀川と同じく誰かがイルガーへと向かって行く。その影は太刀川と同じく、自爆モードのイルガーを一刀両断した。


「あれは……苗字先輩?」


丈の短い隊服の上着に、その間から見える白いシャツ。
黒いタイツの上から着用している黒いショートパンツは、腰に装備している弧月をより目立たせている。

その人物は、三雲の言う通り名前だった。


「おお〜。タチカワもナマエ先輩もすごいな」

「……あれが、S級隊員の実力」


目を見開きながら木虎は、降りていく名前を見つめる。
彼女にとって名前は、自分が嵐山隊に入隊する前に所属していた存在であり、同じくエースという立場であった人。
木虎にとって名前は自然と意識してしまう存在なのだ。


「いつか、あの人を超えるエースに……」


今目の前で見た彼女の姿は、木虎の記憶に強く残ることになるだろう。



***



「忍田本部長、まだ2体残っとるぞ!!」


時間は少し遡り、場面は本部作戦室。
残り2体のイルガーに声を荒げたのは鬼怒田だ。
しかし、声を向けられた忍田は返答することなく、モニターを見つめながらとある少女の名前を呼んだ。


「名前! 1体だけでいい、撃墜しろ!」


忍田直属の隊員である少女に命令を飛ばす。
上司の命令に対する名前の返答は……



『いいえ。それじゃダメじゃないですか。……忍田さん。残りは0体です』


名前からの通信が切れ、その数秒後、本部基地屋上から光線がイルガーに向けて放たれた。
その光線は、ボーダーのトリガーであるアステロイド同士を合成したギムレットによるものだった。

名前が放ったギムレットはイルガーを貫通させ墜落させた。


「さすがS級隊員というべきですね」

「いつもあーであれば頼りがいがあるんだがな」


根付と鬼怒田が名前の姿を見て、それぞれの感想を述べる。
そんな中、名前は助走をつけながら腰の弧月2本に手を伸ばす。


『一体目。そして……』


フィンスを踏切に、名前が浮遊するイルガーへと飛んだ。


『0体ですッ!!』


交差するように弧月を振りかぶった名前。
その攻撃にイルガーは落下していく。


「……見ていたぞ、名前」


モニターを眺める忍田の表情は、戦場の中であるにもかかわらず微笑みを浮べていた。
昔から名前を知っている身として、当時から成長した姿を見て嬉しいと感じた故のものだった。

忍田が呟いたその言葉は小さく、誰にも拾われる事なく消えた。
しかし、それは偶然にも名前が口にした言葉に対する返答になっていた。



***



「見たか、今のを」



再び場面は変わる。
そこにいるのは、角を生やした人間。人数は6名。

その内の1人、側頭から黒い角を生やした男性がそう言った。
彼の口元は微笑んでおり、どこか不気味だ。


「あの威力……ブラックトリガーか?」


疑問の声を出したのは、先程の男性とは違い、額から白い角を生やした男性だ。


「いえ、ブラックトリガーではないようです。これは通常トリガーの反応です」


その男性の問いに答えたのは、額から黒い角を生やした女性だ。


「通常トリガーであの威力……兵の中に『神』がいたか」


男性が椅子から立つ。
その様子を見ていた他の5人は男性に視線を移す。


「あの兵にトリオン兵を回せ。…弱ったところを捕まえる」


彼らがモニターには一人の少女……名前が映っていた。





2022/4/10


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