玉狛の新人トリオ

side.空閑遊真



「せっかく来たんだしご飯食べて行きなよ」

「え、いいんですか?」

「大丈夫、大丈夫。レイジさんが作った料理が大量に余ってるから」

「レイジさんの料理か〜! じゃあいただいて行きますっ」


ということで、今晩の夕食にはナマエ先輩が加わった。
今日はコナミ先輩ととりまる先輩は不在だったので、それ以外の玉狛メンバー+ナマエ先輩という組み合わせでの夕食になった。


「なまえちゃん、食べさせて」

「はいはい。じゃあ口開けて、あーん」

「陽太郎、自分で食べれるでしょ。名前ちゃんに食べさせて貰おうとしないで」

「大人げないですよ、迅さん」


今日知ったことだけど、どうやらナマエ先輩もようたろうのおヨメさん候補の1人らしい。
大規模侵攻の会議に呼ばれたので迅さんに案内して貰っていた時にその話をしたら……迅さんがビミョーな顔してた。

今もこうして何かと突っかかっているのは……まあ、普通に考えたらそういう事だと思う。おれでも分かる。


「なんか、苗字先輩がいるこの状況が新鮮……」

「ごめんね、三雲君。急にお邪魔しちゃって」

「あ、いえ。そういうわけじゃ……」

「いいじゃない。懐かしいから俺はいつでも大歓迎だぜ」

「ありがとうございます、林藤さん」

「この際だから名前ちゃんに聞きたいことあればじゃんじゃん聞いとけよ」

「はいはーい! アタシ苗字先輩にいろいろ聞きたいでーす!」

「どうぞ、栞ちゃん」


さっきまで暗い話をしていたから、ナマエ先輩の暗い表情ばかり見てた。けど、今は楽しそうに笑っている。副作用サイドエフェクトが反応していないから間違いない。


「先輩もメガネかけましょ!」

「うーん、私メガネかける理由なくて……。兄さんは悪い方だったんだけど、私は副作用サイドエフェクトもあってそこまで酷くないんだ」

「ナマエ先輩、副作用サイドエフェクト持ちなの?」

「うん。強化視覚っていう副作用サイドエフェクトだよ」


なんとおれと同じ副作用サイドエフェクト持ちだったとは。ということはトリオン能力が高めなのかもしれないな。


「強化視覚……気になりますね!」

「……うぅ、なんでだろう。寒気が」

「それに、伊達メガネっていうものがあってですね……」

「し、栞ちゃん! いろいろ話が混ざって頭がパンクする〜っ」


と言っているが、目を回して既に頭がパンクしているようにしか見えない。
こうして見る分には、今は違うけど迅さんと同じS級という雰囲気は見えない。


「そういえばこの前、風間達と呑みに言った時、名前の話題になったぞ」

「え、どういう経緯でですか」

「模擬戦だな。また太刀川とやってたんだろ」

「おれ差し置いといて? ずるいなぁ、太刀川さん」

「だって向こうから誘ってくるから……断る理由もないですし」

「2本だと名前が勝って、1本だと太刀川が勝つと聞いてる。相変わらず弧月二刀流か」

「兄さんに沢山仕込まれたので。弧月二刀流だけは譲れません」

「太刀川さんって……攻撃主アタッカートップの?」

「そそ。名前ちゃんは初めからS級隊員としてボーダーにいるからランク戦に参加出来ないけど、もし入ってたら上位には間違いなく食い込むね」

「でも桐絵には勝てないですよ」

「いやぁ、五分五分じゃない?」


まだ相手してもらってないけど、コナミ先輩と引き分けるって迅さんが言ってるから、ナマエ先輩の強さを想像しやすい。
ボーダーのトリガーだったら、今のおれだとあんまり勝てなさそうだな。


「ふむ。いつかお手合わせ願いたいものです」

「ふふっ、いつでも待ってます」


そう微笑むナマエ先輩は、どこにでもいる18歳のように見えた。
ちょっと儚げで大人っぽく見えるけどね。


「忍田には連絡してるのか?」

「一応玉狛にいることは伝えてます」

「ま、名前ちゃんの部屋はまだ残ってるから泊まっても良いし、帰っても大丈夫だ。帰るならレイジ、送ってやって」

「はい」


そう言えば前に自分の部屋決めるときにいくつかダメって言われた部屋があったな……。勝手にドアを開けたら横に広いよく分からないものが置いてあったっけ。たしか、覗きに来たオサムが言うには、楽器と言って名前はドラムセットというらしけど。

あと一つの部屋は縦に長いものが置いてあって、これもオサムに教えて貰ったけどギターっていう楽器らしい。
その2つの部屋は使用できないって言われたんだよな。


「まだ時間に余裕あるので、少し考えてから決めて良いですか?」

「勿論。ゆっくり考えてよ」


ナマエ先輩が林藤さんにそう答えていると、近くで小さく「あの……」と誰かが声をあげた。


「うん?」

「聞きたい事があって。……いいですか」


その声の主はチカだった。





2022/2/27


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