殺し屋レオン:序

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「ナイフ術クラス一位の片岡さんを圧倒するなんて……!」

「うん。……これが、殺し屋レオンの実力……!」


茅野・潮田の視界には降参の意思表示した片岡と、彼女の首元に対せんせー用のナイフを当てながらニヤニヤと見下ろす名前。
名前は片岡の上から退くと、彼女に手を差し伸べた。


「お手をどうぞ、お嬢さん?」

「ちょ、ちょっと名前さん……!」

「あれ、女はこういう行動に喜ぶと思ったんだけど……」

「「「女っていうな、女って」」」


周りからのツッコミをスルーした名前は座り込んでいた片岡の手を取り、自分のと引っ張り立たせる。
その余裕そうな顔を見るとどこか慣れを感じさせる。


「やっぱり名前さんってどこかズレてるよね……」

「うん。でも、話しててもそんなに僕達と同じ学生のように見えちゃうから殺し屋だって忘れちゃう」

「ビッチ先生みたいな感じ?」

「まあ似てるようで違う……そんな感じ」


二人が会話している間に訓練は再開され、射撃訓練に切り替わった。


「名前はさ、ナイフと銃どっちが得意なの?さっきの見てたらナイフの方が得意そうに見えたけど」

「優月の感じた通りで合ってるよ。僕はナイフの方が合ってる。銃は……まぁ、こんな感じかな」


不破の問いに答えながら名前はライフルのスコープを覗き、引き金を引いた。発砲された銃弾は的に命中した。


「よし。もう少し距離伸ばすか」

「え、まだ伸ばすの!?」

「ライフルは遠くから射撃する為の銃だ。奇襲にもってこいのね。近かったら意味がないだろ?」


名前はライフルを持ったまま後ろへと歩いて行った。位置を変えるようだ。


「流石だな。お前に弱点があるのか疑ってしまう」

「ふんっ、この僕に弱点なんて…」

「彼女の弱点は五教科以外の実技教科の筆記です」

「竹林、貴様!!!」


ロヴロの問いに「ない」と答えようとした名前だが、近くにいた竹林に遮られ更に弱点……と呼べるのか分からない弱点を暴露されてしまう。
しかし名前にとっては弱点と言えるようで、竹林の肩を掴んで激しく揺さぶっている。その形相はかなり怒っているようだが、本気で怒っているというよりふざけた部分がちらつく。

ちなみに揺さぶられている竹林本人は光った眼鏡をクイッとあげている。名前の揺さぶり攻撃を何とも思っていないようだ。


「しかも此奴、家庭科は俺らに負けてっからな!!」

「くっ……!!」


そんな彼女に追い打ちをかけるように寺坂が笑いながら言う。対する名前は何も言えないようで、歯を食いしばっている。


「……大変そうだな、レオン」

E組ここに来てから調子狂いまくりだよ……」


ガクッと項垂れている名前と、彼女の様子を見て掛ける言葉が見つからないロヴロ。そして未だに名前を弄る寺坂達。カオスである。


「……そういえば」


ロヴロさんって色んな殺し屋を知っているんだっけ
ふと潮田がそんなことを思い、そして気になった……最強の殺し屋という存在はいるのかと。
潮田はロヴロの元へ行き、気になる事を尋ねた。


「一番優れた暗殺者ってどんな人なんですか?」

「……興味があるのか?殺し屋の世界に」

「あっ、いや……そういうわけじゃ……」


潮田がロヴロに質問した内容に反応し、トボトボとゆっくりした動きでその場を動こうとしていた名前が二人の方を振り返る。
その視線は先程までのふざけっぷりはどこへやら。真剣さを孕んだどこか感情が読めない青い瞳で二人を見つめていた。


「そうだな……最高の殺し屋。そう呼べるのはこの地球上にたった一人」


潮田はロヴロが語り出す言葉を真剣な眼差しで聞く。その二人を名前はライフルを持ったまま見つめていた。


「この業界には良くある事だが、の本名は誰も知らない。只一言のあだ名で呼ばれている…」

「『死神』ってね」

「! 苗字さん、知ってるの?」


遮ってくるとは思わなかったのか、潮田は目を丸くして名前を見つめていた。


「そりゃ、殺し屋の世界では知れた名さ。知ってるとも」

「じゃあ……会った事があるの?」

「…………まぁ」

「どんな人なの?」


詰め寄る潮田に名前は気まずそうな声で返答する。
その様子は何処か寂しさを感じさせる。


「……さあね。昔の事だから忘れちゃった」

「そ、そっか……」


名前が遮ったため中断してしまったが、死神についてはまだ続きがある。ロヴロはその続きを潮田に語り出した。

神出鬼没、冷酷無比。
おびただしい数の屍を積み上げ、“死”そのものに呼ばれるに至った男。
ロヴロは死神と呼ばれる殺し屋についてそう語った。


「苗字さんと死神、どっちが強いの?」

「僕があの人に勝てる訳がない。あの人と比べたら僕なんてそこらにいる蟻……いや、それ以下さ」


潮田は驚いた様子で名前を見る。自信の塊である名前があっさりと認める程の実力者。死神と呼ばれる殺し屋はどんな人物なのだろうか。
しかしそれと同時に潮田には気になる事がある。先程から名前の様子が少し変だからだ。

どこか悲しそうにも感じる名前の雰囲気。
こちらに背を向け去って行く名前の背中を潮田はロヴロに話しかけられるまでジッと見つめていた。





「……大丈夫さ。あの人・・・は君達を殺したりなんてしないよ。絶対にね」


そんな事を小さく呟きながら。



***



「お前も行くのか」


暗殺計画が書かれた紙をペラペラと見ている名前にロヴロがそう話しかける。
どうやら訓練に飽きたようで、名前はロヴロの近くで休憩と言う名のサボりをしていた。


「その日は依頼が入っていてね。この暗殺に僕は参加しないよ」


先程までイリーナが座っていた屋外用の椅子に腰掛け、足を組みながらジーッと計画書を読んでいる。
参加できないからこそ、彼らがどのように計画したのか興味があるのだろうか。それにしては一つも表情が変わっていないが。


「先程お前は彼……潮田渚に言っていたな。自分は死神に到底及ばないと」

「事実だろ」

「まあ自分で思っているのならそうかもしれんな。だが、これも事実だ……“第二の死神”とも呼ばれている事は」


声を自在に変化させる能力、今現在も素の姿を特定されていない変装能力。そして何よりもその戦闘能力。
15の子供でありながら殺し屋の世界で名の知れた存在である彼女は、数々の殺し屋を知るロヴロによると『第二の死神』と言えるまでの存在らしい。


「……そうみたいだね。でも、僕”なんか”があの人の代わりになんてなれないよ」


自信家である名前には珍しく消極的な返答だった。彼女ならばそうであると自慢げに答えると思ったのだが……。


「そろそろ時間だし、帰るよ」

「そうか」


イリーナが先程まで飲んでいたドリンクを無断で飲み干し、名前は椅子から立ち上がった。
計画書をロヴロに渡し、マントを被る。どうやら中村の隙を狙って奪い返していたようだ。


「久しぶりに会えて嬉しかったよ。それじゃ」

「達者でな」


去って行く名前の背中にロヴロがそう声を掛けた。
その言葉を投げられた本人名前は、手を上げる事を返事代わりにしてその場を去った。





2021/03/29


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