期末の時間



「苗字さん!!急に出て行ってはダメじゃないですか!!」

「ちゃんと言ったでしょ? 電話だって」


教室に入って出迎えられたのはどアップのターゲットだ。……近いんだけど。


「名前も行くっしょ! 沖縄リゾート!!」


そう言いながら僕の肩を抱くのは中村莉桜だ。
馴れ馴れしいな……まあ別に良いけど。


「リゾートね。興味ないな」

「絶対楽しいよ〜ねぇ行くでしょ? ね? ね!?」

「なんでそんなに楽しそうなんだ君は」


まあ楽しみなんだろう。旅行なんて如何にも一般人が喜びそうな単語だ。


「そういえば苗字さんはA組と賭けをする事になったの、知ってる?」

「知ってるよ。なんならその賭け事に発展する場面をきちんとこの目で見たとも」


A組との賭け
この期末テストで五教科……即ち、国語・数学・英語・理科・社会でどちらがトップ成績を出せるか、って奴だろ?
で、勝った方は何でも言うことを聞く。


「で? その賭けで沖縄リゾートに行こうって話になってる訳?」

「うん。それと、トップの人は殺せんせーの触手を1本破壊する権利も与えられるの」

「なんだそれは。そんな話、聞いてないぞ」


片岡から聞くに、その話は僕が来る前日に話していたそうだ。何故その事を先に言わない。


「先生の触手を破壊できる機会! 苗字さんも頑張って下さいね」

「頑張るも何も、僕がトップになることは決まってるんだけど」

「ヌルフフフ。自信満々ですね〜」


そりゃそうさ。進学校だか何だか知らないけど、知識量は多い方だ。舐められるのはごめんだ。


「で? 仮にその賭けに勝ちリゾートに行く権利が貰えたとして、それはいつになるの?」

「夏休み期間なので___」


ターゲットが口にした日程は、先程依頼された日と被っていた。


「あー、悪いね。その日は依頼が入ってる」

「えー!」

「皆さんと仲良くなれる機会だというのに……」


中村とターゲットが残念そうな声を出す中、一人別視点からの言葉を投げる者が。


「へぇ……殺すの?」


その声の主は赤羽だ。
彼の発言に先程まで騒がしかった教室が静まり返り、視線が僕に集まる。


「ま、普通はそう思うか」


僕は殺し屋。
ターゲットを殺す為に此処へ来たけれど、本来殺しているのは人間だ。人間を殺す事など、一般人である彼らには恐怖でしかない。
しかし、それを日常としている僕がここにいる。彼らに僕はどう映っているんだろうね。


「まあそんなに怯えないでよ。確かに僕は殺し屋だ。当然、この手で殺してきた人間は両手で数え切れない程だ。だからといって、殺してばかりではないんだよ?」


僕の発言に数名首を傾げる。
この際だ、僕がどういう存在なのかはっきりさせよう。


「レオンは複数の姿を持つ殺し屋だ。でも、僕の名はただ殺し屋として広まっているわけじゃない」


内ポケットに入っていたケースから眼鏡を取り出し掛ける。


「情報を提供して金を得る……情報屋もやってるんだ。僕」

「え、殺し屋じゃないの?」

「殺し屋でもある。兼業って奴さ」


どう、似合う?とターゲットに尋ねてみる。ま、言われなくても似合ってる事に間違いないけど。


「今回はその情報を集める為の潜入依頼さ。だから今回は人は殺さない」


そう伝えると、何故か周りがホッと息をついた。
……何を安心してるんだ?


「その時もレオンって名乗ってるの?」

「そうだよ」

「じゃあ変装するの!?」

「するけど……なんで?」


何故かキラキラとした目線を向けられる僕。しかも女性陣から。


「ビッチ先生が言ってたんだけど、苗字さんの男性の姿格好いいって聞いたの!」

「へぇ。イリーナが」

「美少年だって言ってた!」

「仕方ないね、僕の顔だと美少年になっちゃうから」

「相変わらずの自信で……」


あ、これ信じてないな。
僕の男性の姿は評判良いんだぞ?


「じゃあじゃあ!いつかうちのクラスのイケメンと対決してみてよ!ズバリ、『どちらが多くの女子を落とせるかバトル』!!」

「へぇ、勝負事かい? いいね、楽しそうだ」

「ノリノリだな」

「で? 誰がこのクラスで一番イケメンなんだい?」

「そりゃあ磯貝っしょ!」


中村が指を指した先にいたのは、目を丸くさせてこちらをみる磯貝。
確かに彼の顔は良い。どこか幼さを残した顔だが男とわかる容姿だ。近くで観察しようと磯貝の元へいくが、向こうが後ずさった。


「苗字、ち、ちか……っ」

「近付いているんだから当たり前だろう?」


磯貝が後ずさるのを止めた。何故なら彼の後ろは教卓。つまり逃げ場がないということだ。


「……んー、まあ確かにイケメンと呼ばれるだけの容姿はある。だけど、僕好みではないな」

「え」


磯貝から離れ、先程の場所に戻る。
興味が無くなるのが早い?そうかな?


「じゃあどんな人が好みなの?」

「僕と同じような中性的な容姿を持つ子は好物だよ」

「……ごめん、もう一回言って」

「好物だと言ったんだけど?」


「「「まさかの食べ物扱い!?」」」と叫ばれた言葉に耳を塞ぐ。
大声で叫ばないでよ、鼓膜が破れたらどうするのさ。


「ま、そのイケメン対決は時間が出来たときにでもやってあげるよ」


僕の男の姿はイリーナが好むくらいの美男子っぷりなんだ。君達が想像するような出来映えを軽く超えてあげよう。

……見惚れないでね?





2021/03/26


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