プロローグ
ピッと電子音が短く響く。
その音をかき消すかの用に雨音が大きくなる。
「……依頼完了です。後日報酬を受け取りに参ります」
暗い路地裏に充満する悪臭は鉄の臭い____血の臭い。
転がる死体を避けながら携帯を仕舞おうとした瞬間、手に振動を感じた。
その振動源は今手に持っているこの携帯だ。
やれやれ、忙しいな。
「……合言葉を」
「____」
……うん、正解だね。
ちゃんと丸をつけてあげなきゃ。
「こんばんは。私『レオン』と申します。本日はどのような案件でお掛けになられましたか?“依頼人”?」
「こんばんは、日本政府の者です。レオン様で間違いないですね?」
「ええ、合ってますよ」
日本、か。
日本政府がしがない殺し屋に何を依頼するのかな?
「依頼内容なのですが、“国家機密”でして電話でお話しする事ができません。今どちらにいらっしゃいますか?」
へぇ、“国家機密”ねぇ……。
電話で話すこともできないほどの依頼か……。どんなターゲットなんだろうか。
「アメリカです。……では、日本に向かえば良いのですね」
「はい。……こちらでお待ちしております」
「因みに……報酬金をお聞きしても?」
「報酬金は___100億です」
100億……へぇ、それくらいの金額を提示する程の人物なのか、ターゲットは。
どんなターゲットなのかな、早く知りたい。
「ほぅ……。手強そうなターゲットだ」
ピッと電子音が短く響く。
今度こそ通話は終了し、再び路地裏に雨音が響く。
雨の威力が弱まってきた。……見上げるとそこには三日月が浮かんできた。
「待っててね。___必ず、助けるから」
三日月に手を伸ばし、その手を固く握った。
その時に出た声は、自分の本来の“声”だった。
2020/12/26
戻る