番外編:猪突猛進は周りを見えなくする


※元ネタはアルベドストーリーPV「スケッチと創生」のとある台詞
※安定の捏造あり



「まさか、アルベド先生に個人的な付き合いの女性がいたなんて……」

「友達なだけだよ……?」


数日前にアルベドを通して知り合った女の子。名前はスクロースと言って、獣人っていう種族なんだって!
ものすごく興味があったんだけど、本人が嫌がっていたから止めたよ。嫌がることを自分の好奇心のためにあれこれするのは違うもん。

あ、でも敬語はやめさせた。だって仲良くなりたいんだもん。タメで大丈夫だし呼び捨ててで良いよって言ったんだけど、さん付けは外れなかったんだよね……。

というわけで、ちょくちょくモンド城内で会っては話す関係になったんだ。見た目が同じくらいの女の子は蛍以来だから、ちょっと嬉しい。
……年齢はアタシのほうがうんと上なんだけどね。

ちなみにこの会話は、アタシとアルベドの関係を知りたいと聞いて来たスクロースに「友達」と伝えたものである。何か解釈された内容がアタシの思ってる事と違うような気がするのは気のせいかな……?


「それでもだよ! アルベド先生の私生活ってかなり謎めいているんだ」

「そうなの?」

「うん。とは言っても、私があまり先生の私生活を知らないだけなんだけど……」


そういえば前々から思ってたんだけど、どうしてスクロースはアルベドを先生って呼んでいるんだろう?
話を遮ってしまうけど、どうしても気になってしまったので訊いてみた。


「アルベド先生は『白亜の申し子』と呼ばれている天才で、モンド屈指の錬金術師なの。騎士団に来てすぐに首席錬金術師という称号を得たんだ」

「お、おぉ……」


なんか難しい言葉がいくつか会った気がするけど、スクロースの口ぶりに勢いがあるので、すごいことであるのは分かった。

そして、そんなすごいアルベドに弟子入りしているから、先生呼びなのも分かった。
けど、アタシはそれよりも……


「錬金術って難しいことなのかな?」


こっちの方が気になった。

カーンルイアで錬金術はそう珍しい話ではなかった。練度とかはあるけれどね。一応アタシもカーンルイアに生まれた人間だから、それなりに錬金術は使える。

けど、アルベドから事前に釘を刺されたんだよね。モンドであんまり錬金術の話をしないようにって。アルベドったら予知でも出来るのかな。こういう場面を想定してたともいえるけど……。


「誰でも出来る事ではないかな。ナマエさんは錬金術を見た事が無いの?」

「見た事が無いわけじゃないけど、よく分かってないのが本音かなぁ」


嘘である。でも、アルベドほどできるかって言われると難しい。だってアルベドの錬金術、生粋のカーンルイア人でも中々見ないものなんだけど、何あれ??

そう言う意味では、よく分からないってのは本当だったりする。


「だったらアルベド先生に聞いてみたら? 友人である貴女の頼みなら、きっと喜んで教えてくれると思うよ!」

「は、はは……アリガト」

「最近のアルベド先生はとても楽しそうなんだよ? 定時で帰れるように作業しているし。たまにクレーちゃんのことで休む事があったんだけど、最近はそれ以外でも休暇を取ることが増えたの。それはきっと、ナマエさんの影響だね」


スクロースは心からアルベドのことを慕ってるんだなぁ。そう思っていると、胸が少し痛んだ気がした。
……微笑ましいことなのに、どうして痛んだのだろう?
あれかな、胸の辺りがどこか故障したのかな。後でキィちゃんに見て貰わないと。


「それと同時に驚いたこともある。さっきもちょっと口に出しちゃったけど、貴女は職業上で関わりがあるのではなく、プライベートとして付き合いのある方。私の中でアルベド先生は、対人関係を面倒そうにしているように見えていたの」

「そ、そうなんだ」


アタシと会った時のアルベド、そんな感じだったかなぁ……?
記憶力はこの身体になってから良くなったけど、面倒そうには見えなかった気がする。


「それに、アルベド先生は興味のあることにしか関心が向かないんだ。だからきっと、ナマエさんはアルベド先生にとって___」


なんて思っていると、スクロースが放った言葉が頭に響いた。
きょ、興味のあることにしか関心が向かない、だって……!?


「……って、あれ? ナマエさん?」


アルベドはどうしてアタシと関わってくれているのだろう?
スクロースの言葉をそのまま受け取るなら、アタシの中にアルベドの興味を引くものがあるから。

___じゃあ、アルベドの中でアタシに対する興味がなくなったら?
そう考えた瞬間、さっき感じた胸の痛みが襲ってきた。それも、ずっとずっと強く痛いものだった。


「い、いや……っ」

「へ?」

「ね、ねえスクロース!! ずっと関心を持つためにはどうしたらいい!?」

「と、唐突だね……うーん……」

「スクロースが思う事で大丈夫だから!!」


アタシの無茶ぶりなお願いに、スクロースは真剣に考えてくれた。そんな彼女を見て思うのは、さっきスクロースがアルベドについて話している時に感じた胸の痛みだ。

女の子って観点で言えば、クレーちゃんと蛍、そしてパイモンも入るのに。どうしてスクロースちゃんにそう思ったのかな。


「私だったら……そうだなぁ。知りたいと思った事をメモに残しておいて、1つの謎が解決したら次の疑問を解明するかな。そうやって知りたいと思う事に関心を持ち続けているよ。モチベーションとも言えるかも」


ずっと分からない事を追い求めることで『知りたい』という気持ちを持ち続ける……なるほど!


「アルベドの知らない事を探して、見つければいいんだ……!」

「えぇ?」

「知らない事を知る為には、やっぱりそれについて調べる事! アタシ、今まで外に出たことあまりなかったから、知らない事だらけなの」

「そ、そうなんだ」

「だからアタシが知りたいことを知って、その中でアルベドの知らない事を見つけたら、アルベドはアタシに興味を失わないよね!」

「え、ええぇっ!? なんでそんな話になって……」


何故かあたふたしているスクロースをよそに、座っていた椅子から立つ。
あ、言ってなかったけど今アタシとスクロースはモンド城にいて、鹿狩りっていうお店でランチをしてたんだ!
食事が終わってからこの話になったんだ。結構話し込んじゃったなぁ〜。


……え?
機械になったのに人と同じ食事ができるのかって?

できるよ?
確かにアタシは普通の人間ではなくなったけれど、半分は人間だから。肉部分を切れば、ちゃんと血が流れるしね。……あ、例えが食後に良くなったかも。

というわけで、ありとあらゆる生命が取る食事もできる。ただ、半分は機械でもあるから、エネルギーも必要なんだ。そのエネルギーはあらゆる方法で生成できるんだけど、その一つに食事も含まれてるよ。


……って、話が逸れちゃった。
とにかくアルベドが知らなさそうなことを見つけるためにはどうするか!

……そう、見つけに行くということ。つまり、冒険だ!!


「よし、見つけるために冒険者協会へ行かないと!」

「ナマエさん、一旦考え直そう?」

「大丈夫だよ、これでもアタシ強いから!」

「まず冒険から離れない?」

「ダメだよ! 冒険はもう確定事項なんだから! うーん、となったら遠い場所がいいかなぁ、前に稲妻と璃月に言った事があるって言ってたからもっと遠い場所……そうだ、スメールとかフォンテーヌ辺りかなぁ!?」

「あ、ああああああ」

「でも冒険者協会に入るためにはどうすればいいんだろう……あ、こういうときに蛍とパイモンだ! 今モンドにいるかなぁ?」


よし、思い着いたら即行動だ!
スクロースの手を取って椅子から立上がらせた後、冒険者協会へ行こうと告げようとした時だ。


「随分と仲良くなったようだね」

「あ、アルベド!」

「アルベド先生! 良い所に!!」


後ろから聞こえた声。
振り返ればそこにはアルベドがいた。


「良い所? どういう意味かな」

「ナマエさんを止めてください! 急に冒険者になると言い出して……」

「ダメなの?」

「まず、どうしてそんな話になったのか教えてくれるかい?」


アタシとスクロースは、さっきまで話してたことをアルベドに伝えた。アルベドは口元に右手を当て、何か考えている様子。


「……ナマエ。まだ君はモンドについて知り尽くしたと言えるのかい?」

「え?」


暫く考えた後、アルベドが口に出したのはそれだった。


「ボクはまだ君にモンドの全てを教えきったつもりはないんだけど」

「そうだったの?」


アタシ、まだモンドで知らない事があるんだ……。それに、アルベドはそれらを教えると言ってくれた。
でも、アタシばかり教えて貰うのは……そう思っていた時だ。


「だから、旅に出るのはモンドを知り尽くしてからでも遅くないさ。それに、君と共に未知を探して解きに行くのも悪くないしね」


まるで、アタシが何を思っていたのは分かっていたように言われたその言葉。一緒に未知を探しに行く……考えてもなかった。


「そ、そっかぁ……」

「だから冒険はやめてくれ。君が強いのは分かっているけど、危険が無いとは言い切れないんだから」

「はぁーい」

「それじゃ、これからでもモンドを周りに行こうか。近場にナマエの好きそうな場所があるんだ」

「ほんと!? 行く行く!」

「え、アルベド先生お仕事は……」


アルベドの言葉につい喜んでしまったが、今日はお仕事だったはず……そう思っていたとき、同じ心情だったのかスクロースもそれについて問うた。


「急遽午後半休をもらってきたんだ。今日の作業については、もう伝えているから大丈夫だろう?」


どうやら突如午後で退勤することにしたらしい。あまり働く人についてよく分からないけど、確かに言えるのはアタシは無職であり、アルベドに養って貰っている現状だという事……。そう、今日のランチもアルベドから貰ったお小遣いから出してるのである。


「はい、大丈夫です。それじゃあこれ以上お二人の時間を邪魔するわけにはいかないので、これで失礼しますね!」


勝手に一人で落ち込んでいると、スクロースがこちらに声を掛けたことに気づく。顔を上げると、何故かものすごく笑顔なスクロースがそこにいた。
そして、笑顔のままこの場を去って行った……。


「ナマエ」

「うん? なあに?」

「君は余計な事は考えなくて良い。ボクは君という存在に興味を無くすことはないからね」


スクロースを見送った後、アルベドはアタシにそう声を掛けた。その内容は、アタシとスクロースが話していた内容に絡むことだった。


「ほんとう? でもアタシ、教えて貰ってばかりだよ」

「知ってるかい? 人に教えることは教える側にとって復習になる。頭に定着しやすくなるから、それに対する理解が深まるんだよ」


なるほど、そんな考えが!
これも新たな発見だね!


「分かった! じゃあ1人で冒険のことは一旦忘れるね!」

「一旦ではなく、一生忘れていてほしいけど……」

「? 何て言った?」

「いいや、ただの独り言だよ。気にしないで。ほら、行こう」

「アルベドお昼ご飯は?」

「取ってるから大丈夫だよ」

「分かった!」


差し出された手を当然のように握った。今から見に行くという場所に胸を躍らせながら、アルベドの横を歩くのだった。さっきまで感じていた胸の痛みなど、最初から無かったかのように忘れて。

……暫く時間を置いた後、ふと思った。
あれ、アタシが必死に考えてた事、良い感じに丸め込まれなかった?





2023/11/26


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