番外編:滅んだ国が引き合わせた縁
※番外編「逃げる太陽と改造人間」の内容を含む
※安定の捏造あり
「わああ……っ、ここがモンド城……!」
ボクの隣には、モンド城内を見て目を輝かせているナマエがいる。ただし、あの服装を隠す為にナマエにはローブを着て貰っている。フードで顔を隠すと、本当に怪しまれてしまうため、首下だけを隠している。
……約一週間弱。これは、ナマエの手続きに時間を要した時間である。
ナマエはモンドの人間ではない。滅んだ国の出身だ。
彼女の身分を作る事にかなり頭を悩ませたものだ。……どうやったのかって?
ボクがモンドへ訪れた時のものを参考にしたんだ。そう、アリスさんの手法さ。使えるものは利用する、当然だろう?
……まあ、丸々利用できたわけじゃないから、時間がかかったんだけれどね。けど、ナマエの笑顔を見る事が出来たからなのか、苦労した甲斐があったものだ。
「ねえねえ、あれってお花!?」
「そうだよ。ドラゴンスパインには花がほぼ生息していないからね。それに、あの店で売られている花たちはこの道中では見かけなかったものだから、気になるなら見に行こうか」
「いいの!? やった〜!!」
時間ならある。この日の為に、ボクは中々とらない休日を取得してきた……とりあえず5日間。けど、この調子だと5日では足りなさそうだ。モンド城の隅々まで回った後、その周辺にも行きたがるだろうしね。
そう思いながら展示された花を眺めるナマエを見ていた時だ。
「おや、珍しく長期休暇をとったアルベドじゃないか」
「!」
後ろから聞こえた声にボクは振り返る。そこには、ボクと同じく西風騎士団に所属している存在、騎兵隊長ガイアだった
「まさか長期休暇をとった理由が……なるほど」
「何かボクに用かな」
彼の特徴的な瞳がボクを捉える。その瞳の中にある特徴的な模様……ナマエと同じ星のマークから見るに、彼とナマエは同じ国の血が流れている証拠だ。
……また、彼の思考は読みにくい。正直、仕事以外ではあまり関わりたくない相手だ。
「何、女性関係のイメージがないアルベドに、女の影があったことに驚いただけさ。それで、同僚である俺に、そこの彼女を紹介してくれないのか?」
……まぁ、すぐ隣にいるのだから目に入って当然か。
そう思いながらボクは隣にいるナマエの方へと振り返る。……隣で別の人と会話していたというのに、気づいてないらしい。
「……ナマエ」
「うん? どうしたの、アルベド……あ、知り合い?」
ボクが名前を呼ぶと、ナマエはやっとこちらを振り返った。そして、その後ろにいるガイアに気づいた様で、その瞳に彼を映し出す。
「初めまして! アタシはナマエ、貴方は……って」
初め、人懐っこい様子でガイアに近付いたナマエ。しかし、その勢いは段々と小さくなり……そして、固まった。ガイアを見た状態で。
「これは驚いた。……まさか、こんなところで罪人と会うなんてな」
「貴方……カーンルイア人……!?」
カーンルイア人の特徴として、多くの人が印象に残るものがある。それが、先程も話した瞳の中にある星のマークだ。ナマエはそれを見て、ガイアがカーンルイアの血が流れている人間だと気づいたのだろう。
「ナマエ、だったか? 俺はガイア。ガイア・アルベリヒだ。お前の言う通り、俺の身体にはカーンルイアの血が流れているよ」
「ガイアさん……」
「おや? アルベリヒに聞き覚えはないのか?」
「え? 知らないけど……」
「ほぅ……これは驚いた」
ガイアの言いぶりだと、彼の姓はカーンルイアでは名の知れたものだったんだろう。だが、ナマエの反応を見る限り、どうやら彼女はガイアの姓を知らないらしい。
「アルベド、少し彼女と話がしたいんだが、借りても良いか?」
どんな内容を話したいのか?
そんな事、疑問に思うまでもない。十中八九、カーンルイア関係だろう。
「えっと……っ」
ナマエは不安そうな顔をしながら、ボクとガイアを交互に見ている。……大丈夫だよ、ナマエ。
「ガイア。君を信頼していないわけではないけど、ナマエはモンドに慣れていないんだ。それに、交友関係も狭い。突然、初対面の人と二人きりにさせるわけにはいかない」
「これはこれは。警戒心の強い騎士だな。分かった、同席を許すぜ」
ここでは難だから、場所を変えよう。
そう言ってガイアはこちらに背を向けて歩き出す。
「……嫌ならボクが説得するよ」
「ううん、大丈夫。……怖いからって自分の罪から逃げるのは違うから」
ナマエは自分が無意味な殺戮を行ったことに責任を持っている。それは、前にキィちゃんと呼んでいた存在___やはり造られた人格の彼女のことだったらしい___によるものだ。だが、1番の原因はナマエに人格を埋め込んだ『先生』と呼ばれていた存在だ。彼女達は悪くない。お互い利用されてしまっただけなのだから。
……しかし、利用されていたからと言って、彼女達が何も悪くないと言うのは違う。出来ればそう思いたくないけれど、それが事実だから否定することはできない。
だからボクはナマエにこう伝えた___過去は取り消す事はできないけれど、償うことはできる、と。
自分の罪が洗い流されるほどの良い行いをしようと、ナマエに伝えた。取り消す事ができないなら、それを上回るほどの”良いこと”をすればいい。
「ちゃんと向き合わなきゃ。アルベドが言ってくれたことだもん」
……ナマエは以前伝えたことを元に、ガイアと話すことを決めたようだ。ならば、彼女の覚悟を否定してはいけない。
「分かった。それじゃあ行こう、ガイアも待ってる」
無意識に差し伸べた手。その手にナマエの手が重なった。手を繋いだままガイアの元へ行けば、何処かからかいを感じる笑みを向けられた。
***
「さて、ここなら人気もないから話しやすい」
場所は、モンド城近く。目の前にはシードル湖が広がっており、いつもだったらナマエは目を輝かせていただろう。だが、状況も状況だから、どうやら目に入っていないらしい。また今度、ここに連れてきてあげよう。
「ここでなら、そのローブも脱げるだろう?」
……なるほど。ボクが傍にいたとは言え、怪しい雰囲気はあったらしい。それでガイアは話しかけてきたのだろう。更にはカーンルイア人……知っている人は知っている、カーンルイア人は罪人だと。
だからガイアはナマエを疑っている……このモンドに害をもたらす存在ではないのか、と。
「……分かった」
ナマエはガイアの言葉に従い、ローブの結び目を解いていく。……そして、現れたのは見慣れたあの身なり。遺跡守衛を彷彿させるあの衣装だ。
「! ……まさかとは思っていたが、その本人だったとは」
「え?」
「お前の事は良く知ってるよ、改造人間。人間の身でありながら、古代兵器と同等の力を持つと言われた人間兵器だってな」
「っ、!」
ナマエの表情が明らかに変わった。……そんなに分かりやすかったら、向こうの思うツボじゃないかい、ナマエ。
「カーンルイア人は皆、罪人だ。その中でも、お前の罪は群を抜いている」
「……っ」
「その表情、どうやら図星のようだな」
「分かってる。分かってるよ……、自分が何をしたのかってこと。全部覚えてる」
「だと言うのに、お前はのうのうと生きている。その罪を知らないように、だ」
段々とナマエの顔が下がっていく。何をどう見ても、ガイアの勢いに負けている。……ナマエの覚悟を無駄にしてしまうかもしれないが、見ているだけなどできない。
「お前はどんな気持ちで人を殺したんだ? 沢山の人を亡き者にしておいて、あれだけ笑えるものだ」
「アタシは、そんなつもりじゃ……っ」
「だから何も悪くない。それは違うんじゃないか、お嬢さん?」
……我慢の限界だ。
これ以上、辛そうな顔のナマエを見ていられない。
「ガイア、これ以上彼女を愚弄するなら___」
ガイアに向け、口を開いた……その時だった。
「___”オリジナル、私が出ます”」
「え?」
一瞬だけ聞こえた、彼女の声を使う別の存在の声。その声を認識したときには。
「っ!?」
今まで下に顔を向けていたナマエが、ガイアに掴みかかっていた。その力は、華奢な彼女からは感じられない程の強さ……まさか!
「君、」
「オリジナルを侮辱するのは……私が許しません」
その声色で分かった。
ナマエの中に住まう造られた人格、ナマエが名付けた名で言うなら、キィのものだった。
って、今はそんな話をしている場合ではない。
「キィ、」
「今貴方が語ったものの全ては私が行ったもの。オリジナルは関係ありません」
どうやらガイアの言葉を全て聞いていたようで、それに耐えられず出てきたって所か。その行動原理は、彼女の発言から考えればナマエだろうか?
「ほう、これがお前の本性か」
「本性? 違います。私はオリジナルの中に存在する異端者。かつて、設計者によって殺戮の為に造られた機械こそ、私の事です」
先程の発言、オリジナルに謝罪しなさい。
キィが握るガイアの服に皺が深くなる。それが彼女の怒りを表していた。
「貴方はオリジナルが傷付く様子を見ていながらも、発言を止める事はなかった。どうやら貴方は、私が知らない人間のようですね」
「……」
「そして、こんなにも不快な気持ちにさせたのは、貴方が初めてです。ガイア・アルベリヒ」
ガイアは先程の発言していた際の勢いはどこへやら、ジッとナマエ……の身体を借りて表に出てきたキィを見つめている。その目はどこか探っているようなものにボクは見えた。
「お前がやったと言うなら聞こう。お前は人を殺すとき、どんな気持ちだった?」
「当時の私は感情が分からなかった。ですから、人を殺すことに対し、何も思いませんでした」
ですが、感情を知ってから、この行為を後悔しています。
ガイアから手を離しながら告げたキィの声音は、淡々としているように聞こえるのに、どこか悲しさを含んでいるような気がした。
「ですから、これからは無意味な殺戮は行わない。そう誓いました……オリジナルとアルベドに」
胸に手を当て、その言葉に偽りはないとキィは行動で示した。
キィが現れてから、あまり喋られなくなったガイアだが……キィの言葉を聞いて、何を持ったのだろう。
「機械は決まった通りにしか動かない。それはある意味、こうとも解釈出来る……嘘を付かない、と」
「虚偽を告げても何も得られませんから」
「……お前のその言葉、信じよう。そして、お前と入れ替わる前に会話していたナマエに謝罪を。どういう原理で入れ替わったのかは気になるが、今は置いておくとしよう」
ガイアの目が変わった。それは良い意味の方で、先程までの疑いの目はなくなっていた。……少なくとも今は、って所かな。
もしナマエを、キィを。
過去に起きたような目に……暴走させてしまえば。その時、ガイアは迷わずナマエを壊すだろう。
「アルベド。俺はお前が善意で彼女と共に行動していることを信じてるぜ」
「ナマエはボクの古い友人なんだ。……そして、この事も知っている。ボクは当時のナマエを救う事はできなかった。だから、今を変えて過去を清算するようにと提案したんだ」
「ほう、実にアルベドらしい提案だな」
「ボクがいる限り、ナマエに無意味な殺戮はさせないと誓う。どうか、彼女を信じてくれないか」
けど、ボクがナマエと共にいる限り、あのような目に二度と遭わせない。ナマエを人の理から外したあの魔物のような事は絶対にしない。
そして……壊れたい等と言わせない。
「その真剣な顔に免じて、今は信じてやるとしよう。ただし、少しでも妙な動きをすれば容赦しない」
「ならば、用心するのは私のみでよいです。オリジナルはそのような事はできない人ですから」
「”それ、アタシを貶してない?”」
突然聞こえた声。
それはナマエのものだった。
「先程のお嬢さんの声じゃないか。どこから聞こえているんだ?」
「”このヘッドホンって奴からだと思う。初めて今の状態で話しているから、ちょっと不安だったんだけど、ちゃんと聞こえてて良かった”」
このまま引きこもって出てこないのかと思っていたが、別の形で姿を現わしてくれたので、とりあえず一安心だ。
大分ガイアの発言に傷付いていた様子だったけど、大丈夫なのだろうか?
「色々聞きたいことはあるが、また今度にしよう。次は友人として会おう」
「友人? 何を言っているのですか、ガイア・アルベリヒ。貴方がオリジナルの友人になど、認めません」
「”え、キィちゃん??”」
「オリジナルの友人を名乗るなら、まずは私からの信頼を得てからです」
「随分と手厳しい騎士だな」
「貴方は初対面にも関わらず、オリジナルを傷つける発言を多数告げました。それらは私の中で貴方の評価を大幅に下げました。反省しているのならば、今後の行動を改めてください。一定基準を満たせば、顔見知りの評価にあげます」
「”じゃあキィちゃん、今のガイアさんの評価ってどうなってるの?”」
「できればランク付けしたくありませんが、するとなれば他人です」
……と思っていたんだけど、それよりもキィの中でのガイアの評価がかなり低い事に意識が向いてしまった。
それと同時に、ナマエとキィの関係が以前よりも良い方向へ向かっていることも知る事が出来た。
「とりあえずは、一件落着としてもいいかな」
未だにガイアに対し冷たい言葉を吐くキィと、そんなキィに声を掛けるナマエ、そしてキィに冷たい言葉を投げられているガイアを見て、無意識にボクはそう言葉を零していた。
2023/10/26
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