紅葉と桔梗が行く先は、水の国

※2023年楓原万葉生誕日
※タイトルの通り、舞台はフォンテーヌですが、魔神任務後の話前提&捏造
※最後、若干R指定を仄めかす内容あり
※魔神任務第四章第一幕の内容を若干含みます
※以下番外編の内容を少し含みます
L二人を繋いだ架け橋なる存在の君へ
L旦那様の悩み
L親友の冒険譚(こちらの話の続きですが、読まなくても大丈夫かと思います)



「ここが、フォンテーヌ……!」


拙者の隣には目の前の景色に目を輝かせる、愛おしき妻がいる。……そう、妻だけだ。


「楓真も来たかっただろうなぁ……」

「次に機会があれば、そのときは楓真も連れてこよう」


今回、楓真は船に置いてきている。……実はフォンテーヌへ訪れたのは南十字船隊の皆からの厚意があったからなのだ。
5年ぶりの再会を果たしてから、羽目をはずして2人で出かけることがなかった拙者達を見かねた姉君……北斗の姉君が提案したのだ。

楓真も乗船している子供らと打ち解けてきたこの頃合いを見ての提案だった。拙者は楓真の事も考え、一週間ほど名前と旅行もいいだろうと思っていたのだが……。



『拙者も行きたいでござる!』



楓真も行きたいと言い出したのでござる。いや、予想は出来ていたのではあるが……。我が息子の悲しげな顔に心が揺らぎそうになったが、拙者も譲れなかった。


『次は3人でスメールへ行こう。それで今回は譲ってはくれぬか?』


楓真には悪いと思っている。そして、自身がものすごく大人げないことを楓真に頼んでいることも自覚している。
……勝手な父を許してくれ。5年も離れていた時間を埋めるために、今回だけは譲ってほしい。


『……承知した。だが、スメールは絶対に拙者も連れて行くと、忘れるでないぞ』

『うむ。かたじけない、楓真』


……と言う事があり、楓真は置いてきたのだ。
無理を言って納得して貰ったのだ。フォンテーヌで何か土産になるものを買って帰ろう。


「それより……なんか、人に見られてない?」


辺りを目線のみで確認する名前に、確かに周囲から目線を感じると気づく。まあ、大方見当は付いているが。


「恐らく拙者達の身なりが気になるのだろう。どうしてもフォンテーヌでは浮いてしまうからな」

「あ、確かに……。フォンテーヌでは見ない格好だもんね。だから目立ってるのか……」


そう。
拙者達の身なりは稲妻では馴染むが、フォンテーヌは違う衣服が主流だ。故に、馴染みのない稲妻の衣服は浮いてしまうのでござる。

拙者は璃月とモンドの2ヶ国を訪れたことがあるが、その国ごとに合った服がある。璃月ではそこまで浮いてはなかったと思っているが、モンドでは浮いていたであろう。


「……おや? あれは衣服を売っている店ではないか?」


ふと目に入った店。その店の前や窓越しに見える店内には、衣服が展示されている。そのデザインから見るに、フォンテーヌの衣服で間違いないだろう。


「わあぁ……綺麗な服だね。私には似合わないかも……」


展示された服と自分を見ながら言う名前。
……ふふっ、言葉と態度が噛み合ってないでござるよ。


「着てみたいのであろう?」

「えっ!? えっと、その……」


少し頬を赤くして顔を俯む名前。そして、小さく縦に頷いたのを拙者は見逃さなかった。


「うむ、正直でよろしい。では参ろう」

「え、本当に行くの?!」

「当然であろう? 折角の記念なのだ、フォンテーヌの衣服を身に纏うのも一興であろう?」


愛しい妻の願いを叶えない訳がないであろう?
そう告げて名前の手を取った。……が、名前の顔は少し暗くて。


「私がいい思いをするのは駄目だよ。こうしてフォンテーヌに来たのは、万葉の誕生日祝いを兼ねているんだから、貴方が楽しく思ってくれないと」


この旅行の主旨を話していなかったが、フォンテーヌを訪れたのは新婚旅行と同時に、拙者の誕生祝いも兼ねていた。
名前の誕生日より、拙者の誕生日が近かったというのもあり、フォンテーヌへの旅行の目的が2つになったのだ。

……因みに、船に戻った後は拙者の誕生会という名の宴が待っている。出る前に船員達から予告されたのだ。まあ、戻るのは拙者の誕生日の次の日の予定なので、一日遅れでござるが。


……と、話が逸れてしまった。
どうやら名前は自分が楽しむのは違う、と思っておるようだ。


「名前。拙者はお主が笑顔を浮べている様子を見ているだけで楽しい。それが拙者にとって誕生日の祝いの品でござる」


名前の行方が分からず、稲妻を彷徨うこと5年。その時間が拙者は何よりも長かった。愛おしき存在が傍にいることが、何よりも幸せで安心する事を身を以て理解したのでござる。

だから、お主の笑顔を見るだけで、拙者は心が安らぐのでござるよ、名前。


「……そう言われると、反応に困るんだけど」

「此度の旅は拙者のためのもの。名前、お主言ったであろう? 拙者が楽しく思わねばならぬと」

「うぅ……」

「さあ、拙者は先程お主の問いに対し、ちゃんと返答したでござる。では、フォンテーヌの衣服を見に行こう」

「はい……」


恥ずかしがる名前の手を握り直し、目的の店へと踏み入れた。内装は稲妻では中々見ない装飾が施されている。名前は子供のように辺りを見回しており、興味津々のようだ。愛らしいその姿に、無意識に笑みが零れてしまうのは仕方がないであろう?


「ふむ、拙者はあまり衣服を見立てる事が得意では無いが、名前の好みの色は把握しているつもりでござる」


この服はどうだろうか?
そう名前に伝えながら、手に取った服を彼女に見えるように前に出す。


「お主は派手めなものは苦手だっただろう? この配色はお主の好みに近しいと思ったのだが、どうでござるか?」

「! よく分かったね、私の好み」

「当たり前であろう?」


名前は拙者が提示した服を気に入ったようだ。拙者の手からその服を受け取ると、自分の前に広げて自分に合うか鏡を前に確認をしている。


「あ、私ばっかりは駄目だよ。ほら、万葉も服選ぼう?」


気づいた、と言わんばかりの可愛らしい反応の後、名前が口にしたのは、拙者もフォンテーヌの衣服を着るべきだ、という意見だった。

ふむ、拙者はあまり服にこだわりはない故、今の服で構わなかったのだが……。


「そこまで熱烈に言われてしまえば、拙者も名前に併せて服を変えた方が良さそうであるな」

「じゃあ万葉も服を選ばなきゃね!」

「しかし、拙者は服選びのセンスはないのでござる。故に、お主に選んでほしいのだが、どうだろう?」


どうしても拙者にフォンテーヌの衣服を着てほしい名前の願いを、叶えてやらねばならぬな。それに、名前が選んだ服であるなら、拙者はどんな服でも喜んで身に纏おう。


「わ、分かった。万葉に合う服、頑張って探すね」


拙者が選んだ服を胸に抱え、男性用の服を置いてあるコーナーへと名前は駆けていった。ふふっ、そう焦らずとも時間は沢山あるというのに。
そう思いながら拙者はゆっくりとその後を追った。



***



「ありがとうございました〜!」


買い物を終え、店を後にする。
拙者達の手には、元々着ていた服が入った紙袋。そう、今の拙者達はフォンテーヌの衣服を身に纏っているのだ。


「よく似合っておるな」

「万葉もね」


お互いが選んだ服を身につける……こんなにも心が満たされることなのだな。名前が選んだという事実だけで頬が緩んでしまう。


「この格好であれば人の目を集めることはないだろう。さあ、フォンテーヌの観光を再開しよう」

「なんか、私ばかりが楽しんでる気がしてならないんだけど……」


どうしても拙者より自分が楽しんでいる気がしてならないらしいようだ。……そうか、であるならば。


「では、宿泊場所に戻った際に良い事をして貰おう」

「良い事?」


首を傾げる名前に少し不安を覚える。純粋な所は美徳ではあるが、少々危機感が足りぬのでは、と感じてしまう。本人的には大丈夫とのことだが……。


「普段は船の上で、仲間逹がいる。更には部屋では愛しい我が息子もいるのだ、2人きりでしかやれぬ事も気軽にできぬであろう?」


一応外なので、多少暈かして告げたが……どうやら伝わったようだ。

何故そう思うのか、だと?
名前の赤い頬がその証拠だからでござる。


「楓真が寝ている隣で行うのは、将来に響く可能性があるからな。このような機会を利用せねば、名前に触れられぬのだ」

「う、でも……は、恥ずかしいよ」

「なら、この話を聞いても恥ずかしいと言えるか?」

「な、なんの話?」

「先日楓真が言っておったのだ、兄になりたいと」

「!?」

「確か、楓真が望むことは何でも叶えたい、と話していなかったか?」


空いた片方の手を。名前の小さな手に重ねる。そして、細く綺麗な指に自分の指を絡めた。


「うぅ……わ、分かった! 分かったから!!」

「言質は取ったでござるからな。夜、楽しみにしておるでござるよ」


確か、フォンテーヌにはルキナの泉と言うものがあり、フォンテーヌの新婚夫婦は子宝祈願をする習わしがあるのだとか。
フォンテーヌ人ではないが、少し行ってみるのもよいだろう。勿論、次の日名前が動ければの話であるが。






2023年10月29日


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