花火の輝きは今も尚、道を照らす



あの子が稲妻を発ってどのくらいの時間が経ったやろうか。今どうしてるかな、大好きな人達と一緒におれることを楽しんどるかな?



「……あんな状態やった名前を見つけたうちを褒めなあかんな」



今でも鮮明に思い出すほどに、あの日名前と出会った時のことはうちにとって衝撃だった。



***



『……誰』



その日は雨が降っとった。雨は花火の敵やから、急いで家に帰ろうと走っとった。そんなとき、誰かが座っとることに気づいたんや。その時だけは花火のことは忘れて、ただその人物に近付いた。


『あんた、どうしたんやその怪我!!』


うちの視界に入った女の子、名前の姿は一言で言えばボロボロ。細かく言えば、泥だらけで刃物のようなものでできた傷___今思えば刀で斬られたものやったんかな___から流れる赤い液体……血。誰がどう見ても大怪我やった。むしろ、意識があることに驚きやった。


『……放っておいて』

『んなことできるわけないやろ! 立てるか?』


そう問いかけたけど、どう見てもボロボロな姿に立てるわけないよな、と自己完結して名前の肩に腕を通した。


『な……っ、降ろして、離し、て……ゴホッ』

『喉痛めるで。後で水飲ませるさかい、少し頑張りぃ』


強引な方が良い。このまま放って置いてくれと言う名前を無視して彼女を抱える。泥や血で汚れることなど知らん。今はその怪我をどうにかせなあかんのが先や!

そう思いながらうちは家へと向かった。雨が降っとったお陰か、人は全くおらず動きやすかった。


『おぉ宵宮、帰ったか……って、誰やその子!?』

『父ちゃんシーッ! 大怪我しとるんや、傷に響いたらどうするんや!』


家に着いて出迎えた父ちゃんは、ボロボロな名前を見て大声を出した。ま、当然の反応やな。けど、追い返そうとはせんかった。
すぐに部屋の奥へと入って休める場所を作ってくれた。うちは父ちゃんの後をゆっくりと着いて行った。あの子の怪我に響かんようにな。


『だめ……っ、汚れてしまうっ』

『怪我人はそないこと気にせんでええねん! ほら、もうすぐやで』


泥だらけなことは勿論、血も流れていることから名前は小さく抵抗した。けど、怪我によるものか、体力がなかったのか、聞いてへんから今でも分からんけど、言える事は弱ひとつ。うちでも簡単に丸め込めるほどに名前は弱っていた。

部屋についてうちは名前をゆっくりと布団に横たえさせる。名前は汚れる布団が気になって仕方なかったのか、そわそわしとったなぁ。


『怪我見るさかい、脱がせるで』


名前はもう抵抗せーへんやった。これは後から気づいたんやけど、名前は酷い熱やったんや。雨に濡れとった所為か、体温だけでは熱を出しとることに気づかんかった。

その熱は雨に濡れとった所為なんか、それとも怪我からくるものやったんか、その両方なのか……うちは仕事を放って名前の看病のために数日付きっきりやった。

名前は布団に入って数分とせずに意識を落とした。口では遠慮しとっても、やっぱり身体は疲労を訴えとったんやな。


『あ、貴方は誰……!』


それから名前は3日ほど眠ったままやった。とは言っても、高熱によって何度か目を覚ましとったけどな。漸く目を覚ました時、初めは警戒されたなぁ。

邪魔やから武器は別の場所に置いとったんやけど、それが余計に当時の名前を不安にさせてしもうたようや。


『そう警戒せんといて! うちはアンタを放っておけんかったから家まで連れてきたんや』

『家まで……あ、』


名前は何かを思い出したような表情を浮かべた。あとから聞いた話やと、自分を運んでくれたのがうちやったって気づいて、申し訳なさを感じとったらしい。

うちは名前が持っとった刀を持って来て渡すと、目の前の少女はゆっくりとした動作で腕の中に抱きしめた。
名前の刀は代々家が継いできた武芸と共に継承されてきたものやそう。伝家の宝刀っちゅーやつやな。


『あの、助けてくれてありがとう……けど、もう私行かなきゃ』

『いーや、逃がさへんで。その怪我、尋常じゃないやろ。うちが見つけんかったらあんた、死んどったかもしれへん』

『……私は、それを望んでた』


震えた小さな声で名前はそう言ったんや。だからあんな人気のない場所で、雨降っとる中座っとったんか……。

当時は深く聞かんかった。いつか話してくれる時を待った。とは言っても、聞けたのは久しぶりの再会やっちゅーのに楓真を預けに来た日やったんやけどな。


『もうこんな事したくないから死にたい。なのに私は死ぬことを怖いと思ってる。だから、他の誰かに私を殺して欲しい。でも、誰も私を殺してくれない。だったら、傷だらけで雨に打たれていれば死ねるかなって……』

『簡単に死にたい言うんやない!!!』


そう言ってうちは名前を抱きしめた。初対面で人に抱きつくなんて流石のうちも遠慮する。けど、名前のときはそうするのが正しいと思った。

だって、死にたいって言うとる名前が寂しそうで仕方なかった。この子には温もりが必要やって思ったんや。


『寂しいんならうちが友達になったる! だから、死ぬなんて言わんといて……!』


名前が傷だらけであることも忘れ、思いっきり抱きしめた。人の温もりは心を落ち着かせるって聞いた事あるから、うちの存在があることを伝えるように、ぎゅっと名前を抱きしめていると……肩が濡れる感覚がしたんや。


『っ、うぅっ……ぐすっ』


それは名前が泣いてるからやった。声抑えて泣く名前の頭に手を伸ばし優しく撫でれば、背中に彼女の腕が弱々しく回った。

……そして暫く。名前が落ち着いた頃に漸くまともに会話出来た。



『うちは宵宮。あんたの名前は?』

『……私は名前。桔梗院名前』



これが、うちと名前が出会った時の話や。



***



「宵宮ー!! 宵宮おるかー!!」

「おーおるでー! どないしたん?」


外の景色を眺めていると、うちを呼ぶ父ちゃんの声が聞こえた。振り返ればそこには当然、父ちゃんがおった。


「おぉ、おったおった。ほな、お前に荷物が届いとる」


そう言って父ちゃんはうちに箱を手渡す。うち何も買ってへんけどなぁ……でもうち宛ての荷物っちゅーし、開けてみよか。
家に入ってうちは荷物を丁寧に解いていく。開いた箱の上にはえらい上品な封筒が入っとった。

それを手に取り、何か書いてないか裏へひっくり返すと、そこには文字が書かれていた___桔梗院名前、と。



「え、これ名前からの荷物!?」


突然の親友の名に驚きながらも、うちは封筒を開けた。中に入っていた便箋を見ればそこには……。



「……ふふっ。ほんと律儀な子やなぁ。それに」


大した物じゃないって書いとるけど、あんたがうちのために考えてくれた物っちゅーだけでそれは価値ある物になんや。というより、結構良いもんに見えるけどなぁ。


「大事にするな。ありがとさん、名前」


名前からの手紙に夢中で今になって気づいたある物。それはうちに、と名前が選んだアクセサリーやった。

へへっ、どこに身に付けようかなー?
どうせなら、あの男が嫉妬するくらい目立つ場所に着けたろうかな!



***



「……宵宮、喜んでくれるかな」


場所は璃月。
とある場所に停泊している死兆星号のとある部屋で、暗くなった部屋に一つの灯。そこにいたのは名前だ。どうやら机に向かって何か書いているらしい。

時折笑みを浮べながらも筆を綴っていくその背中に___忍び寄る影1つあり。その影は名前の背中へ近付くと、彼女を包み込むように抱きついた。



「何をしておるのだ、名前」

「っひゃああっ!!?」


集中していたのか、突然の声に大声を上げてしまう名前。それもそのはず、急に抱きつかれ、静かな空間に声が聞こえたのだから驚いて当然だ。


「……って、なんだ万葉かぁ」

「ふふっ、万葉でござるよ」


して、何をしておるのだ?
再び同じ問いを尋ねると、名前は万葉から紙……元い、便箋へと視線を移した。


「もうすぐ宵宮の誕生日なんだ。稲妻にいたころは直接伝えていたんだけど、今は璃月だから言えない。だから手紙を書こうと思って」

「なるほど、そうであったか。拙者は恋文かと思っていたでござる」

「誰に書くのよ、恋文なんて……」


万葉の言葉に少し呆れ気味に名前が答える。対する万葉はキョトンとした顔で名前にこう返答した。


「それは勿論、拙者であろう?」

「え?」

「お主の想い人は拙者ただ一人。そうであろう?」


当然だ、と言うようにニコッと微笑む万葉。人懐っこい笑みに隠れた独占欲に彼女は気づいているのだろうか。


「なら恋文はもう必要ないんじゃない?」

「む、何故?」

「だって、その……私たち夫婦なわけだし、お互いの気持ちは一緒でしょ……?」


万葉を見上げながら名前はコテっと少し首を傾げた。その様子に自身の旦那の心が高鳴ったことに本人は気づいていないだろう。表情がそれを物語っているのだから。


「っ、きゃっ!?」

「そうでござるな。では、別の方法でお主に愛を伝えなければ」

「べ、別の方法……?」

「惚けた顔をしても、ただ愛らしいだけでござるよ」


方法など1つしかなかろう?
そう言って万葉は愛おしい女性の唇に自身のそれを重ねた。

2人の様子を見ていたのは、後日宵宮の元へ届くアクセサリーだけだった。






宵宮ハッピーバースデー!


2023年06月21日


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