親友の冒険譚
※宵宮の伝説任務 第二幕の内容を含む
「久しぶり、宵宮」
「おっ、名前! 稲妻に帰っとったんか!」
「うん。けど、今日は仕事としてだよ」
仕事で稲妻に訪れた私は、一段落着いた後に親友、宵宮の元を訪れていた。宵私は私に気づくと、作業を止めてこちらへ駆け寄ってきた。
「あ、ごめん。仕事中だった?」
「いいや、大丈夫や。ちょっと整理しとっただけさかい、気にせんといて」
と言うわけで、私と宵宮はお互いの近況を話すことにした。立ったままも変なので、腰を落ち着ける場所……木南料亭へと向かった。
「それで? どこの国に行ったんや?」
「璃月だけだよ。ねぇ聞いて宵宮! 璃月港って場所、どこか稲妻の雰囲気に似ていて、とても好きなの! あんな綺麗な景色が他の国にもあるって考えたら、楽しみでしたかないの!」
「うんうん、名前が楽しそうでうちも嬉しいわぁ」
「それに、面白い歴史が残ってるみたいでね。一度読んでみたらハマっちゃって!」
璃月を訪れた日がとても印象に残っていて、気づけば宵宮を置いてけぼりにし私ばかり話してしまった……。
「ご、ごめん……つい」
「構わへんで。それだけ名前にとって良い場所やったって分かったしな」
「そ、そういう宵宮はどうなの? 鎖国令はもう解除されているんだし、旅行の1つ2つないの?」
自業自得だけど、ちょっと恥ずかしい思いをしたので、無理矢理宵宮に話を振る形になってしまった。
宵宮はどこか意味深な顔を一瞬浮べた後、「そうやなぁ」と考え始めた。さっきの顔、もしかして私が無理矢理話を振ったことに気づいてるってこと?
「うちはな、スメールに行ったよ」
「確か、璃月の隣にある国だっけ?」
「そうそう。名前はもう行った?」
「まだ行ったことないなぁ。けど、またどうしてスメールに?」
「初めは流星雨を見るために旅しようって思ってたんやけど、丁度蛍とパイモンちゃんに会ってな! んで、スメールには星空を研究する学派があるっちゅうから聞きに行ってみようってなったんや」
確かスメールは知恵の国と呼ばれているんだっけ。知識を蓄えるならスメールの学院に入ってみるのも手だけど……うーん、今はいいかな。
あと、自然豊かな場所だとも聞いている。奥へ行けば砂漠という場所があるらしい!
宵宮はスメールに行く前、偶然稲妻を訪れていた蛍、パイモンと一緒にスメールへ行ったんだって。2人はもうスメールにいるのか、流石各地を旅しているだけある。
そして、稲妻を救ってくれたように各地に名を残していくのだろう。確か、モンドと璃月でも名を残しているんだったっけ?
「砂漠には行っとらんなぁ。森やったよ。たしか、マウティーマ稠林っちゅうキノコみたいな形のものがぎょうさんあってな!」
「キノコみたいなのって、キノコじゃなかったの?」
「ちゃうちゃう! 多分、木やないかな?」
「キノコの形をした木……な、なるほど」
私が知っているスメールについて話すと、どうやら宵宮は砂漠までは行っていないらしい。けど、不思議な存在に出会ったのだとか。
「アランナラ?」
「そ! 蛍とパイモンによると、スメールに住んでる妖精なんやって!」
妖精、か。稲妻で言う妖怪と似た存在なのかな?
「けど、スメールでは大人になると見る事が出来なくなるらしい。だから、大人はアランナラの存在を信じとらんらしい」
「不思議な存在だね、そのアランナラって妖精」
当然だけど、実物を見た事が無いからアランナラがどんな姿をしているのか分からない。
けど、宵宮がスメールで体験したことに強く関わっている存在であることは分かった。
「で、話を戻すけど、アランナラっちゅう妖精と友達やって言う女の子と会ったんや。その子、足が悪くて車椅子がないと動けへん子でな」
「足が……」
「うん。そんで、どうしてもアランナラに会いたかったらしい。だから、探す事にした!」
宵宮は困っている人を見て見ぬフリしない、優しい人だ。前に彼女はこう言っていた、うちはヒーローになりたかったのだと。そんな彼女だからこそ、その女の子の助けになりたかったんだろう。本来の目的を置いてけぼりにしてまで、ね。
ヒーロー……救世主。宵宮、貴女が気づいているかどうか分からないけど、私にとって貴女はヒーローなんだよ。知ってた?
「え、流星雨は?」
「大丈夫、ちゃんと見たで」
「えぇ?」
「ちゃんと順を追って話すさかい、そうせかさんといて」
宵宮によると、そのアランナラというのは夢の世界という場所で生きている存在なんだって。だから、女の子の友達だというアランナラに会うには、夢の世界に入らなければならなかったそうだ。
「さっき話したマウティーマ稠林っちゅう場所で、その女の子の友達やって言うアランナラと会えたんや!」
「会えたんだ、良かった……」
「そん後に見れたんよ、流星雨をな!」
「もしかして、頑張った宵宮のご褒美だったりして」
「! へへっ、そうかもしれへんなっ」
一瞬だけ驚いたような顔を浮べた宵宮だけど、すぐに照れたような顔を見せたので、多分気のせいだろう。
「せや! スメールに行ったときに、あんたに似とるアランナラの人形を買ったんや!」
「へ?」
「丁度食べ終わったとこやし、家に行こ!」
「ご馳走様でしたー!」と、宵宮は店員に声を掛け、先に行ってしまった。私もご馳走様でした、と声を掛けて宵宮の後を追う。あ、ちゃんとモラは払ってるよ。
「これこれ! ほら、あんたに似とるやろ?」
宵宮が見せてきたのは、どこか愛らしさのある人形だった。たしかに、髪型は私に似てるかも……。
「名前に似とると思って、いつか渡そうと買っといたんや。もらってな!」
「ありがとう、宵宮。大切にする」
「ふふんっ、うちやと思ってええよ?」
「私に似てるのに?」
私の言葉に、宵宮は笑いながら「確かにそうやな!」と言った。彼女の笑顔は良い意味でつられる。宵宮の笑顔は花火のように明るく眩しい。……いつまでも、その人柄が変わらないことを願うばかりだ。
***
「おや、その人形はどこで?」
仕事が終わり、璃月へ戻る船へ乗っていた私。その隣に座ったのは万葉だ。今回の稲妻での仕事は、出身というのもあって、私と万葉は真っ先に指名されたのだ。
因みに楓真は璃月でお留守番だ。旅行でも里帰りでもなく、これは仕事としてきているからね。本人は不満そうだったけど。
「宵宮から貰ったんだ。スメールで買ったんだって」
「スメールか。名だけは知っておるが、実際に足を踏み入れたことはないな」
万葉も行った事ないんだ。だったら、家族3人で行ってみたいな、なんて。
「いつか行きたいね、3人で」
「そうでござるなぁ。それに、まだ2人はモンドを訪れたことがないであろう? モンドは酒が美味な故、一度呑んでみて欲しいのでござる」
「それ、万葉が呑みたいだけじゃ」
「うっ、それは否定せぬが……」
モンドには言った事があるんだ。確かにモンドと言えばお酒が有名だし、ちょっと呑んでみるくらいは良いかも。
「だが、拙者は新婚旅行にも行きたいでござる」
「し、新婚旅行?」
「うむ! 場所は今の所、フォンテーヌが第一希望でござる」
フォンテーヌかぁ、確か水の国なんだよね?
楓真が友達に聞いた話だと、とても発展している国なんだとか。確かに気になるところではある。
「家族旅行はスメールで、新婚旅行はフォンテーヌね。分かった、いつか行こうね。絶対だよ?」
船に戻った後、楓真にスメールに旅行をしようという話をした。「楽しみでござるっ」と嬉しそうに話していた我が子を見て、絶対に忘れてはならない約束となった。
……けど、なんでフォンテーヌは新婚旅行って言ったんだろう?
別に家族旅行でも良いじゃない、なんて思ったけど、まあいっか。
2023年10月19日
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