船上の結婚式?


※名前・万葉はお酒が飲める年齢設定



「今日は宴だ!! 名前と楓真の新たな門出と同時に、万葉と名前の再会、そして祝言を挙げたことを盛大に祝うぞ!!」


北斗さんによって開演した、私と万葉、そして楓真が主役となった宴。船が出発してしばらくして始まった宴だが、楓真は乗船する子供達とすぐに打ち解けたようで、私達の元を離れ、子供達の輪に入っている。遠くから楽しそうな声が聞こえ安心する。

対する私と万葉、北斗さんの元にいた。


「名前、お前は酒が飲める口かい?」

「年齢は問題ありません。ですが、任務でしかお酒は口にしなかったので、楽しめるかどうか……」

「だったら今日、その楽しさを知ろう。仕事じゃない、お前達のための宴なんだからな!」


北斗さんの言葉に思わず笑みが零れる。……こんなに賑やかな宴、いつぶりだろうか。任務として参加したときは、酔った勢いで情報を漏らさないか常に集中していたから、楽しむと言うより油断しないように、という気持ちが強かった。


「……!」

「どうだ、口に合うかい?」

「はい、とても美味しいです!」


沢山の種類のお酒を飲んだわけではないので、確かな事は言えないけれど……これまで口にしたお酒と比べ、美味しいと感じた。


「きっと場の雰囲気……特にアンタの場合は任務が頭の中にあっただろうから、酒を楽しめなかったんだろう」

「そう、だったんでしょうか」

「拙者もそう思うでござる。今宵は拙者が良い酒を選ぼう」

「ふふっ、じゃあお願いしよっかな」


隣に座る万葉がお酒を選んでくれると言ったので、彼に任せてみようかな。正直万葉がお酒を呑んでいる所を想像できなかったけれど……というのは黙っておく。



「うむ、任された」



どこかご機嫌な万葉にその旨を伝えると、「こうして名前と酒を飲めることが嬉しくて、浮かれているのでござる」と返ってきた。
私もこうして賑やかな場で嗜む為に飲むお酒は初めてだから、彼と同じく浮かれていた。……衝撃的な事実・・・・・・を知るその時までは。



***



「う、う〜ん……」

「か、万葉? ちょっと大丈夫??」


お酒を飲むこと数分。……私に寄りかかる万葉の頬は赤く染まっていて。誰がどうみても酔ったと分かる。


「実はだな、万葉は酒に弱いんだ……」

「え、」


船員の方によると、万葉はとんでもなくお酒に弱いらしい。なのにお酒が好き……私はお酒についてのノウハウなんて分からないから主観でしか言えないけど、お酒に弱いのに好きってアリなのだろうか……?

頭の中で色々考えていると、船員の男性が「君は平気なのか?」と尋ねられた。


「はい。任務中に酔って襲われたとき、反撃できませんから」

「思ったより怖い返答が来た……」

「あっはっはっは! 強い女だってことさ! アンタのこと、更に気に入ったよ!」

「あ、ありがとうございます、北斗さん」


彼らに伝えた内容は事実だ。
潜入任務の場合は特に気を使った。お酒を飲む場であることがほとんどであるため、まずはお酒に慣れる事から始めた。付き合って頂いた綾人様には頭が上がらない……。

予定ではトーマさんだったのだが、どうやらお酒が苦手らしく相手に出来そうにないとのことだったため、綾人様が直々にお相手して頂いたのだ。


「その酒の場は男なのか」

「へ?」

「男だったのかと聞いておる」


どこか抑揚のない口調で万葉が私に問いかける。酔っ払っているけれど、どうやら意識ははっきりしているようだ。私達の会話も聞いていた様子。


「そうだけど……あの男と繋がりの強い人を対象にしていたから、その人物が男性だっただけだよ」


万葉の問いかけにそう答えると、こちらを見上げる紅色の瞳が細くなる。その表情はどこか不満そうで。


「今すぐその者の特徴を教えろ。拙者の女に手を出すなど……!」

「どうしたの急に」

「拙者はやっとこうして触れ合うことができて、酒を交わせるまで時間が掛かったというのに、その者等は……」


何かブツブツと言っている万葉に頭が疑問で埋まっていく。いつの間にか万葉の腕が身体に回ってるし、なんだったら力が段々強くなっている気がする。


「どこを触れられた」

「はい?」

「汚らわしいその手でお主に触れたこと、許しはせぬ……!」


なんか勘違いをしていないだろうか……?
きっと万葉は私が敵の攻撃を受けたことについて言っているんだよね?


「大丈夫だよ、一度も怪我はしてないから」

「いや、万葉が言いたいのはそれじゃないと思うぜ……」

「え?」

「君の言ってる酒の場の話は、情報を聞き出すために媚を売る……所謂色仕掛けに近いやつだろう? その……万葉の前で言いたくないけど、触れられたっていうのは、そういうことだと思う」


船員の男性の言葉を受け、どうして万葉が突っかかってくるのか分かった。……た、確かに彼の言っている事は間違ってない。むしろ、正解だ。


「あ、合ってます……いたたっ、痛いよ万葉!」

「あの社奉行もよくやらせたなぁ……」

「い、いえ。これは私が必要な事だと判断してお願いしたのです。綾人様は反対されていました……万葉、痛いってば!」

「なんだ、そうだったのか。だが、感心しないな。いくら武芸に優れているからってアンタは女の子なんだ。もっと自分の身を大切にしないと」


アンタにべったりくっついてる男が嫉妬で狂っちまうよ?
そう言って笑みを浮べる北斗さんから、万葉へと視線を移した。……そっか、万葉は心配してくれていたんだね。


「ごめんね、万葉。約束したもんね」

「……」


……万葉を心配させることはしないって。
そう心の中で思いながら私に抱きついている万葉に自分の腕を回す。……暫くすると、万葉から小さな息づかいが聞こえることに気づく。少し離れてみれば目を閉じて眠っている万葉がそこにいた。


「ね、寝ちゃった……」

「よくあることだよ、万葉はすぐに寝ちまうのさ」


本当にお酒に弱いんだね……船員の男性の言葉に苦笑いを浮べつつも、寝落ちしてしまったのなら横にさせてあげたほうがいいだろう。


「折角宴会を拓いてくださって申し訳ないのですが、部屋まで万葉を運んできてもよろしいでしょうか?」

「おうおう、いいぜ!」

「嫁さんの前で痴態を晒したなんて知れば、万葉のやつ恥ずかしがるだろうなぁ」

「弄るときのネタになりそうだな!」


こうして見ると、万葉と南十字船隊との関係値が見えてくる。……大切にして貰っているんだと目に見えて分かる。改めて思う……この人達を選んで正解だったと。


「では、万葉を部屋に運んできます」

「戻ってこなくてもいいぞ〜」


あ、介抱が必要だからってことかな?
そう解釈し私は彼を支えながらその場で軽く頭を下げ、昼間に案内して貰った万葉の部屋へと足を進めた。


「名前のことだ、間違いなく別の言葉で解釈しただろうな」

「あの嫁さんが人斬りだったなんて想像できないですね……」

「強制させられていたってだけだろ? 素はあーだったってことさ」



「というか、よくバレなかったよなぁ___万葉の狸寝入り」


その場を去った後、後ろで北斗さん達がそんな会話をしていたことに私は気づかなかった……。



***



途中ですれ違った船員の方によると、楓真は船に乗ってる子供達と遊び疲れて眠ってしまったそうだ。宴会が始まってすぐに子供達に誘われて、子供達の輪へと向かったのを覚えている。
所謂子供部屋なる場所にいるようで、少し心配だけど楽しかったんだろうから今日くらいはそっとしておこう。


「よっ、と」


というわけで万葉の部屋に着いた私。月明かりが差し込む部屋を進み、寝台へとそっと万葉を横たえる。……意外と重かった。その、太ってるという意味ではなく、恐らく筋肉の問題だろう。所々筋肉が付いているな、と感じる出来事があったから分かってはいたんだけど。

……え?
どの出来事の事を言ってるのかって?
で、できれば聞かないでほしい……いくつか思い出すと恥ずかしいものがあるから。


「うーん、お酒に酔った人の介抱って何すればいいんだろう……?」


残念ながら綾人様から習った時の内容にも、亡き家族から教わったことにも、お酒に酔った人の介抱についてはどこにも存在しない。そもそも実家がまだ在った時、私は幼かったからお酒については何一つ習っていない……。


「うぅん、名前……」


色々考え込んでいると、万葉が私を呼んだ。……多分、寝言かな。
振り返れば、こちらに寝返りをうったのか寝顔を覗かせていた。……改めて思うけど、当時より顔つきは凜々しくなって、所々で男性と思わせる部分がある。それでも、寝顔は昔一緒の寝台で眠っていた頃とそう変わっていない。


「私は此処にいるよ、万葉」


万葉が眠る寝台へそっと腰を落ち着かせ、彼の寝顔を見る。……こうして安心して眠ることができるのも、万葉がこの船を信用しているから。

元々万葉を受け入れてくれたこと、今日まで彼を支え続けてくれたこと……これらがあったから、不信感はなかった。

危険な場所では安心して眠ることはできない。万葉が安らかに眠れていることは、そういうことだと私は解釈するかな。



「___ひゃあっ!!?」



そんな事を思いながらまた考え込んでいると、急に引っ張られる。警戒態勢に入ろうとしたが、その必要は無かった。


「んふふ、名前」


何故なら、目の前で柔らかい笑みを浮べている万葉に抱きつかれているからだ。そもそも、この部屋には私と万葉しかいないんだった……。


「名前、名前……」


そう名前を連呼されると、ちょっと恥ずかしい……。
あと……万葉、寝てるんだよね?

現在万葉に抱きしめられている状態なんだけど、段々力が強くなっているような……。なんとか出ようと試みるも、更に力が入ってる気がする……。


「う〜ん……」


頑張れば万葉の腕の中から出られるだろうけど、こんなにもぐっすり眠っているんだ。誤って起こしてしまっては可哀想だ。
……明日はここで朝を迎えることになりそうだね。そう思いながら私は目を閉じた。



「……無防備でござるな、名前」

「信頼して貰えていることは嬉しいが、その優しさが利用されぬか心配でござるよ」

「まぁ、拙者が気を張ればよいこと。……良い夢を、名前」






タイトルは某有名曲に敢えて寄せました
全然結婚式要素なかったですね……


2023年05月13日


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