2023年生誕日



「こうしてまた、貴方とこの日を過ごせることが嬉しいわ」


各地で桜の木が花を咲かせる季節。
この季節は私にとって大切な時期だ。特に今年は空いた時間分、うんと彼に尽くすつもりだ。

天気は快晴。風に乗って散る桜の花びらが目の前に広がる景色を華やかにする。そんな中、私は隣に座る今日の主役、を振り返った。


「……我も、今日は特に浮かれている」

「? どうして?」

「久方ぶりにお前とこの日を過ごせる。それが何よりも嬉しい」


あら、なんだか今日のは口が柔らかい気がする。お酒に酔ったのかしら。でも、顔が火照っている様子はないし……違う?

毎年この日は二人でお酒を嗜みながら景色を眺めることが日常だ。昼から夜まで景色をながめ、桜の花びら散る光景をその場で眺める時間が私は好きだ。

しかし、はお酒に強いから酔った姿なんてあまり見たことない。だからといって、よく呑んでいる方なのかと言われれば否だ。は好んでお酒は呑まないのだ。

対する私は、酔いが回る事は身体の体温が上がる事と同義であるため、あまり呑むことができない。……つまり、お酒に弱いってことだ。


「酒の摂取量には気を付けろ。名前は酔うと動けなくなるのだからな」

「分かってるわよ……心配しなくても大丈夫だってば」


これを知っているからは『人前で酒を呑むな』と口酸っぱく言ってくる。そりゃあ人前で酔って動けないならまだしも、私は熱さに反応して身体から水を大量に放出してしまうのだ。迷惑極まりない……。


「それに、お酒を飲むのは200年ぶりなの」

「璃月を離れている間に呑まなかったのか?」

「ええ。当時滞在していた場所では、私の事を成人していないと思い込む人間ばかりで。不幸中の幸いってやつね」


当時の私は自分が仙人であることを忘れていたから、当然熱に弱いことも忘れているわけで。……それに関しては、元々お酒に関心が薄くて良かったと思っている。もし知らずに呑んで酔ってしまったら、辺りに大量の水をばらまいていただろうから……。


「あぁでも、砂漠は大変だったわね……」

「砂漠?」

「ええ。実は璃月に戻るまでに砂漠を歩いたのだけど、昼間は恐ろしく暑くて日陰が救いだったわ。その代わり夜は動きやすかったわね」

「よく無事に超えられたな……。確かお前の話では、その地に住む凡人の手を借りたんだったか」

「そうよ」


セノさん。彼は今、どうしているのだろか。因みににはセノさんの名前は伝えていない。

そもそも私達、璃月から離れられないのだもの。だから彼の今は分からないし、約束のお礼も伝えられない……。セノさんが璃月へ訪れてくれたらいいのに。


「……? どうしたの?」


色々考え込んでいると、がこちらを覗き込むように見ていたことに気づく。それに気づいて顔を上げると、どこか不機嫌そうながそこにいた。


「今、我以外の事を考えていたな。それも、男のことだろう」

「な、なんで分かって……合っているけど、当時は子供だったのだから気にしなくても」

「フン」


恐らく私が感知できない番としての繋がりの線を辿ったのだろう。私にもそれができたら良いのに……と思うのだけど、残念ながらできない。私がそれに対し不満を抱えていることも感じ取っているはずなのにね。


「今日は我がお前を独占する日だ。例えそれが記憶の中にある存在であろうとも許さぬ」

「……強欲」

「お前だけだ」


そんなこと言わなくても、貴方が1番私を独占して良い存在なのに。
番ってそういう関係でしょ?


「やっぱり酔っているんじゃない?」

「……そうやもしれんな」


珍しい。
どうやら顔に出ていないだけで、はお酒に酔ってしまったらしい。私はずっと彼にお酒を注いであげていたため、まだ一口も飲んでいない。これから飲もうと思っていたのだ。


「もう止めておく?」

「ああ」

「なら、これからどうする? 夜桜にはまだ時間は遠いわ」


時間帯は昼間。夕刻にもまだ遠い時間帯なので、当然夜まで時間がある。そう彼に尋ねたのだが……


「ちょっと、……!? 大丈夫?」


なんと私の方へ身体を預けてきたではないか!
どうやら私が思っている以上に酔っているらしい。


「ほら、肩を貸すからしっかり」


当たり前だけど、人間よりは力があるほうだとは思う。なのに、私は長い時間を一人で抱えて運ぶほどの力がない。

決してが重いとかじゃないと信じたい……。というより、あまりを抱えて運んだことがないのよね。あったのは、まぁ……ほぼほぼ意識がない状態で、身体が重くなっている状態ぐらいかしら。今の状況と似ていると思う。


「とりあえず望舒旅館の部屋まで移動するわ」


ここから望舒旅館は近い方だ。私の体力も持つだろう。持参したものは……を旅館まで運んだら回収に来よう。そう決めて私はを抱えて望舒旅館へ移動した。


「ほら、部屋に着いたわよ」


先程から何故か一言も喋らない。元より無口な方ではあるけれど、さっき酔っていた影響なのか饒舌だったはず。

……もしかして、眠たいのかしら?
そう思った私は寝台の方へと足を進め、を寝かせようとした……その時だった。



「っ、ひゃっ!!?」



勢いよく引っ張られたと思えば、背中に感じる柔らかい衝撃。驚いて閉じていた目を開けると、天井を背景にがそこにいた。……どうやら組み敷かれたらしい。



「今日は我がお前を独占して良い日だろう?」

「そ、そうね」


……あぁ、こうして改めて聞かれたということは、今年も・・・例外なく、か。200年ほど空いていたというのにね。
そう思っていると、押さえ付けられている手首にかかる体重が増す。同時にの顔が近付き……


「ふぅん、んぅ……っ」


休憩など与えないという程に激しく降り注ぐ口付け。いや、口付けというより『食べられている』と表現した方が正しいかもしれない。それほどの口付けだった。


「……っ、はぁ……、もっと口を開けろ」


そう言いつつも彼は私の口をこじ開けるように口付ける。そして、許可なく私の口内へ舌を入れた。更にはもっと口を開けろなんて言ってくる始末。

私の記憶が正しければ、こんなにも……その、激しく求められることはなかったはずなのだけど。


「……っ、はぁっ、はぁ……本当にどうしたの?」


お酒に酔っているから?
けど、その割には身体のふらつきは見られないし、何よりも口調もはっきりしているような……。

息を切らしながらも、いまだに覆い被さった状態で私を見下ろす金色の瞳へ問いかけた。は暫くの間私を黙って見下ろすと、その顔を首元へ埋めてきた。


「……お前から男の話が出てくると不安になる」

、」

「幼子だからなんだ。我はお前が他に心が移ってしまうことを恐れている。……嫌、なのだ」


先程までの捕食者のような様子はどこへやら。弱々しく私を抱き込むに、彼の心情を汲み取ろうと頭を回す。

……は一人でいることが多かった。彼の回りに他が集まる。そんな人物だった。けど、同胞を失い、兄弟のように信頼していた者たちを失い……彼はどこか寂しがり屋になった気がした。

そんな彼を見て、私は側で支え続けようと決心した。彼に選ばれた番として。けど、私は一度瀕死の状態に陥って、その隙を攫われ……彼を不安にさせてしまった。


あぁ、分かった。
200年の間に私は人とふれあい、自分の存在が彼らにとってどんなものであるか再認識することができた。きちんと説明したつもりだったのけど、はまだ不安要素が残っていたようで。

空いた時間が壁として阻み、は心から信じ切ることが出来なくなってしまっているんだ。


「っ、名前?」

「どうすれば貴女の不安は解消される? 私にできることなら言って頂戴?」


……なんて、堂々と言ってみたけれど心は動揺していて。私の首に埋めていた顔を上げ、何故かこちらを黙って見つめるに段々と気まずさと恥を感じ始めた。


「私は、えっとその……貴方と生涯を誓い合った者として、役目を果たしたいと言いますか、力になれるのなら全力で……きゃっ!?」


頭に浮かんだことを瞬時に口に出していたため、何の纏まりもないまるで良い訳のようなことを言っていたときだ。
隙間を無くすような勢いでが抱きついて来た。


「お前にしか叶えられない、名前にしかできぬことだ」


何もしなくて良いから、ずっと側にいてくれ
静かな声で紡がれた言葉は、もう何度も聞いた言葉で。


「ええ。でも、貴方が破りそうな気がして私は心配よ」

「む、何故だ」

「前から言ってるでしょ、はすぐに敵の元へ飛び込んでいくから心配だって」

「我はそこらの雑魚には負けぬ」

「それでもなの!」


けど、私も人の事は言えないわね。だってこの会話、もう何年やってるんだろうってほどこの時期に交しているんだもの。面白くて仕方ない。


「……。改めて生まれてきてくれてありがとう」

「……名前、我を受け入れてくれてありがとう」

「それは私の台詞よ。……私を選んでくれてありがとう」


そう返せば何故かは深い溜息をつく。……何か変なことでも言ったかしら。


「……やはり我は、お前を離すことなどできぬ」

「?」

「つくづくお前が長寿の存在で良かったと思う。もし寿命の短い存在だったら、我は間違いなく狂っていた」

「もう、やめてよ。そんな冗談今は聞きたくないわ。貴方の生まれた日だというのに、どうしてそんな話になっちゃうの」

「我は本心を伝えているだけだ」


いつのまにか寝台に二人並んで向かい合っていた。話し込んでいたとき、ふと窓から夕焼けの光が部屋に差し込んできた。どうやらやっと夕刻となったようだ。


「もう少しで夜桜の時間ね」

「そうだな。……だが」


身体を起こしたと思えば、また私の上に覆い被さってきた。……え、まさかこの流れから!?


「今、我はお前を感じていたい。夜桜など、桜が散るまでならいくらでも見ることができるだろう?」

「そ、そうね」

「それに今日は我がお前を好きにして良い日なのだ。…………良いだろう?」


そう言って私の服に手を掛ける。……というより、先程の口付けの時に若干脱がされていたのだけど。

……どうやらは毎年の恒例であった夜桜より、私を選んだようだ。



「……勿論よ。貴方の好きにして?」



彼の言葉に対しそう返答すれば、再び彼からの口付けが降り注いだ。けど、今度は先程の激しさは消え、優しさを感じるものだった。



***



「せっかくの誕生日なのに、会えたのは午前中だけだったな−」

「誕生日なのに休んでないのかな。今日くらいは休んで……あ、鍾離先生」

「空にパイモンか。どうしたんだ?」

「今日っての誕生日だろ? お祝いの言葉を伝えたらすぐにどっか行っちゃったんだ。彼奴、今日も璃月を駆け回ってるのか?」

「去年までだったらそうだったかもしれない。だが、今年は彼女がいる」

「あ、名前か!」

「名前さんがいるなら大丈夫だね。きっと止めてくれてるだろうし」

「名前の存在自体がを休めることに繋がるからな。……そうだ、もう日が落ちて来ている時間だが、彼らに用事があったとしても明日にしてやってくれ」

「? なんでだ?」

「そうだな………二人の時間だから、と言っておこう。特にこの季節は、な」

「この季節? ………………あ、なるほど。分かったよ、鍾離先生」

「え? どういう意味だよ。なぁ空、鍾離の言ってる意味がオイラには分からなかったぞ」

「知らなくて良い事もあるんだよ、パイモン」






見知らぬ存在であり、異性であるからこそ不安になる
セノの事を語る名前にモヤモヤし、名も顔も知らない存在に嫉妬しちゃった旦那様こと

ちなみに1度もお酒に酔ってません(お酒に強い&酔わなそうという勝手なイメージ)


誕生日おめでとう、くん!!


2023/04/17


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