※出会い編「煙緋」の続き
※再会編「浮舎」の内容を含む



「な、なんだか緊張してきました……っ」



場所は煙緋法律事務所。何故私がここにいるのかと言うと……。


「大丈夫だぞ! 確かに夜蘭はミステリアスな奴だけど、良い奴なんだぞ!」

「その例えで名前の緊張を解せないと思うよ、パイモン……」

「えぇっ!!?」


空さんとパイモンさん、そして煙緋さんを通して知り、会いたいと思った人間、夜蘭さん。実は彼女と今日会う日なのだ。

度々煙緋さんの元を訪れ、日程を調整し、やっと今日が訪れた。因みに私にそれらを知らせてくれていたのは、空さんとパイモンさんだ。

前に夜蘭さんについて何かあれば私の名を呼んで欲しい、と伝えていたことを覚えてくださっていたようで、今回は何度も彼らに助けられた。


「そう緊張しなくて良い。いつも通り気楽にいてくれ」

「彼女はを諭してくださった方です。彼の妻として、誠意を込めて礼を伝えねば」

「名前も結構堅っ苦しいよなぁ……」

「そうでしょうか?」


私はただ、本当に思っていることを口に出しただけなのですが……そう思っていたとき、出入り口からコンコンッと音が聞こえた。


「どうぞ」

「失礼するわね」


煙緋さんの返事と共に開かれた扉。そこから現れたのは、青と黒が印象的な女性だ。


「名前、紹介しよう。彼女が夜蘭さん。貴女が会いたがっていた人だよ」

「貴女が……!」


思わず座っていた椅子から立ち上がる。夜蘭さんも私に気づいたようで、こちらに視線を向けた。


「夜蘭さん。彼女が前に話した、瑞相大聖だよ」

「初めまして、瑞相大聖。いえ、銀凰大将と読んだ方が良いでしょうか?」

「! まさか、銀凰の名まで知っているとは」

「私の祖先は夜叉に助けられた。ですから、自然と夜叉について知る機会がありました。貴女について知ったのは、その時です」


なるほど……夜蘭さんの家は夜叉について何かしら資料でもあるのかしら?
璃月には夜叉の存在を知る者は少ないって聞いていたけれど……これまで会った人達は夜叉について知っている方ばかりだった。もしかすれば、私が思っているより知っている人はいるのかもしれない。


「改めて、私は夜蘭と申します。3人から貴女について話を聞いて、この日をずっと待っていました」

「では私も改めて。煙緋さんから紹介ありました通り、普段は名前と名乗っています。気兼ねなくこちらで呼んでください」

「……では、名前仙人とお呼びします」

「はい、夜蘭さん」

「私に敬称は不要です」

「これが私ですので、どうかお気になさらず」


互いに改めて自己紹介を行った後、この日の為にと煙緋さんが用意してくれた席へと案内された。その机の上には、美味しそうな料理が!


「う〜ん、良い匂いですね!」

「あっはは、甘雨先輩から名前の好きな料理を聞いて置いて良かった」

「う、甘雨さんったら……」

「私のオススメは、熱々のまま料理を頂くことなんだけど、確か名前は熱いものが苦手なんだよな?」

「ある程度なら大丈夫ですよ。私の力で平気な温度まで下げられますから」

「流石、氷元素の使い手……なのか?」

「さあ?」


うぅ、夜蘭さんがいるからもう少し格好が付くようにしたかったのに、良い匂いに負けちゃった……。
煙緋さんとは時間を見つけて食事に出かけており、私が大食いであることが既にしれていた。空さんとパイモンさんについては言わずもがな、である。


「確か、名前仙人はハスの花パイがお好きだと聞いた事があります。ですので、僭越ながら作ってきました」

「まあ! よろしいのですか?」

「はい、貴女のために作った料理ですから」


そう言って夜蘭さんは包みを私に差し出した。そこからは私の大好物であるハスの花パイの匂いが漂っている。
ゆっくりと丁寧に包みを解けば、そこには勿論ハスの花パイが!


「夜蘭さん、いただきます! ……ん〜っ、美味しいです!」

「喜んで頂けたようで、嬉しいです」

「夜蘭さんは料理がお上手なんですね!」


サクッと心地よい音を立てたハスの花パイ。その後、口の中に広がる甘み。……やはり、いつ食べても美味しいですね!


「お前、ハスの花パイだったら誰が作った奴でもいいんじゃないか……?」

「そんなわけありません! 作った方の気持ちが込められているからこそ、美味しいんです!」

「それもそうだな!!」

「パイモン……」


作った人の気持ちが込められているから美味しい。それは確かですが、私は料理が美味しいと思うもう一つの理由がある。


「それに、こうして誰かと共に食べることも、料理が美味しいと思える理由の1つだと、私は思います」

「うんうん、それは私も同感だね」

「オイラもオイラも!」


誰かと会話しながら食事をする。賑やかな食事は、戦争の最中でさえも癒やしの時間だった。辛いこと、苦しい事があっても誰かが傍にいる……それが心の支えとなっていた。


「夜蘭も、今だけは気を抜いていいんじゃないか?」

「え?」

「お前いつも気を張ってるだろ? 折角のご飯が美味しくなくなっちゃうぞ!」

「まあ、そうだったのですか? もし貴女を狙う輩がいるのなら、私がすぐに教えますよ?」


だから、私も誰かの心の支えになれるよう、皆の不安や悩みに寄り添った。これも、守護の名に必要な事だと今でも思っています。


「……そうですね。せっかく貴女と会うことができたというのに、自分の立場のことを考えてしまうのは不敬でした」

「え、そこまでは思っていませんよ!? それに、貴女の立場はとても気を使うものだと聞いています。気が利かず、すみません」

「いえ、これは私の失態ですから。気にしないでください」

「そうですか? なら、お互い様ということにしましょう。何か怪しい気配がしましたら、すぐにお教えしますね」

「名前仙人のお手を煩わせてしまうのは……」

「慣れですので、無意識に感じてしまうのです。一種の危険察知のようなものです」


またの名を、野生の勘とも言う……というのは抑えておきましょう、うん。
食事の場は賑やかな雰囲気へと変わっていき、それぞれ料理へと手が伸びていく。……だって、美味しいんですもの。手が無意識に伸びてしまうんですっ。


「あ、そうでした。夜蘭さんにはお礼を言わなければ。空さんとパイモンさん、そして煙緋さんから貴女がを諭してくださったと聞いています。ありがとうございます、夜蘭さん」

「彼の行動は私にとって見て見ぬフリできないものでした。今でも思う事ですが、仙人に対し不敬な発言でした」

「いえ、むしろ彼に言ってあげて下さい。昔からなんです、自分の身を顧みない部分は」


食事の美味しさに夢中になっていましたが、ちゃんと本来の目的も忘れていません。夜蘭さんは私の隣に座っていましたから、すぐに本題に入れました。


「やっぱり何度見ても名前が姉に見えるな」

「煙緋もそう思うか? オイラもずっと思ってたんだぞ」

「けど、が名前について話していると、ちゃんと夫婦だなって思うよ」

「私には重たいタイプの旦那にしか見えなかったんだが……。たまにそう言った依頼が来るのさ」

「おもたいたいぷ?」

「知らなくても大丈夫ですよ、名前仙人」

「そ、そうですか……?」


煙緋さんの言葉から始まった会話内容が全く分からない……悪い事を言われていないことだけは分かるのですが……。おそらく人間社会の中で生まれた言葉なのでしょう。もう少し勉強が必要ですね。


「夜蘭さんは、とても人思いなのですね」

「え?」

「層岩巨淵で起こったことについては、ある程度把握しています。ですから、当時の背景も想像できるのです。閉鎖的な空間で他を気遣えるのは、心が優しい証拠ですよ」


私の幼少期は、ある意味閉鎖的な空間と言えると思う。誰も私を見ない、いないものとして見る。見たと思えば、口から出てくる言葉は棘のあるものばかり。

……そんな場所に現れた、緑色の光。それがだった。彼の優しさに私は救われた……彼がいなかったら、私は他に気を配ることを知らなかっただろう。

あの人は気づいているだろうか。今の私があるのは、のおかげだということを。


「その言葉、貴女にそっくりそのままお返ししますよ、名前仙人」

「?」

「貴女が守護夜叉と呼ばれている理由が、この短い時間でも実感しました。私が知識として知った貴女そのままでした」

「貴女の期待通りだったのであれば、嬉しいです」


ねぇ、
そろそろ自信を持って言ってもいいかしら……私は他を支えられる力が身についたって。



***



「今日は時間通りだな」

「前に貴方が遅いって言ったからよ。もう、夕方に解散だなんて早すぎると思うのだけど」

「フンッ」


時間は夜。
場所は望舒旅館。

最上階の見晴らしが良い場所で、私とは帰離原の景色を眺めていた。


「確か、今日は夜蘭と会う日だったか」

「ええ。とても良い方だったわ。けど、同時に危険さもあると思った」


話は今日の出来事について。夜蘭さんとは沢山話をしたのだけど、聞いていて思った事がある。


「危険?」

「夜蘭さんは他のことばかり気遣って、自分の身を顧みらないのではないかと思ってる。……貴方のようにね、


夜蘭さんの優しさは、どこかに似ていると思った。だから、彼女も危険な場面に堂々と向かっていく人なのだろう。それも、進んで向かって行く方だろう。


「……」


あ、目を逸らされた。
自覚があるようで何よりだわ。


「話を聞いていたら、に似ていると思ったのよ」

「いや、我よりお前の方だろう、名前」

「私?」


私と夜蘭さんの何処に共通点があると、は思ったのかしら?
……うーん、考えても思いつかないわ。


「我は他を気遣うなど、誰にでもせぬ。だが、お前は知りもしない輩にも手を差し伸べるだろう」


夜蘭さんの他を思う気持ちが、私と似ている?
……そうは思わないわね。


「そうかしら……? 私は当然のことをやっているだけなのだけど……」

「我は優しさだけで手は差し伸べん。帝君に課せられたから行うだけだ」

「……そう言う事にしておくわ」


だったら、どうしてあの時私に声を掛けてくれたの?
……今の言葉、初めて私達が会ったときのことと矛盾していると思うのだけど。


「……なんだ。言いたい事があるなら言え」

「貴方はずっと優しい仙人ひとなんだな、と思っただけよ」

「好きにしろ」


片方だけ立てた膝の上に肘を突き、その掌に顔を乗せた。再びそっぽを向いた彼の表情はどんな顔だったんだろう?
……耳が赤いのだけは分かったんだけどね。



***


オマケ


好感度で開放されるボイスネタ
〇〇について

・名前→夜蘭
「夜蘭さんと出会ったあの日から、彼女の行動を気に掛けるようにしています。他人思いな所が彼女の美徳であることは分かっていますが、同時に危なさも感じています。彼女も璃月の民、私が守るべき存在です」

・夜蘭→名前
「名前仙人を資料で知った時、優しい仙人だと思った。そして、彼女が璃月にいないことを知って、その優しさが仇になったのではないか、とも思ったわ。だけど、それを否定してしまったら、あの方の良さを潰してしまう。そうね、やはりファデュイが悪い事にしておきましょう。……何故知っているのか、ですって? 本人に聞いたからよ」






2023/10/24


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