※海灯祭2023の内容を一部含みます
※捏造の可能性あり



「本当にご心配をお掛けしました……」

「フンッ、まあこうして再び姿を見る事ができた。降魔大聖の苦労も終わったというわけだな」


場所は奥蔵山。ここは留雲さんの住処である。私の気配を感じ取ったのか、足を踏み入れた瞬間、姿を見せてくれた。普段は洞天に篭もっていらっしゃる方なので、姿が見えたときびっくりしてしまった。


「……いや、ある意味また苦労の日々なのかもしれんな」

「え、どういう意味ですか」

「お前と言うより、降魔大聖の方の問題だ。気にしなくていい」

「ものすごく気になるのですが……」


何故か楽しそうな留雲さんを見ていると、人の気配を感じた。振り返ればそこには白髪の女性がいた。


「師匠、戻った」

「申鶴」


振り返った先にいた人間に対し、留雲さんが名を呼んだ。彼女は申鶴という名らしい。どうやら私が璃月を離れている間にまた弟子を増やしたらしい。
しかし、何故だろう……初めて見たはずなのに、彼女に対し既視感を覚えている。


「……」


人間であるのは間違いないというのに感情が読みにくい。私の中では人間という存在は喜怒哀楽が読み取りやすいものなのだけど……。
そう思っていると、申鶴さんがこちらへ視線を向けた。見つめすぎたでしょうか……。


「この者は?」

「彼女は瑞相大聖。前に話しただろう?」

「ああ。確か、降魔大聖の番で、璃月では名の通った仙人だったか」

「え、私が名の通った仙人? 留雲さん、彼女に何を話したのですか」

「間違ってはないだろう。人間は理想の夫婦像にお前と降魔大聖を思い浮かべているのだから。まぁ、話の元が仙人だということしか、今の人間には通っておらんがな」


まさか私とが人間達にそのような形で知られていたとは……。まぁ、仙人であったことしか伝わっていないのは理解できる。恐らくその話を伝えて言ったのは人間だ。伝えて行くにつれ、私達の名前が抜け落ちてしまったのだろう。

……よくある話だ。気にはしていない。


「その話は置いておきましょう。……初めまして、申鶴さん。留雲さんから紹介預かりましたが、瑞相は堅苦しいので名前と呼んでください」

「理解した、名前」


帰終様から賜ったこの名で呼ばれたくないわけではない。ただ、この名を堂々と名乗るには、私が未熟なだけだ。


「そうだ。申鶴、まだやる気があるなら、こやつに修行を見て貰いなさい」

「ふぇっ!? わ、私がですか!?」

「なんだ、嫌なのか?」

「いえ、私は武術に長けているわけではありません……なのに彼女に指導など」

「武術であれば降魔大聖に頼むさ。妾が頼みたいのは仙術のほうだ」


仙術、か。確かに仙術は優れていた方だと思っている。守る力も癒やす力も全て仙術によるものだからだ。前線で戦う事を得意し、楽しむ者が多い夜叉一族としては珍しいほうだっただろう。私と似た様な存在だったのは弥怒さんくらいだろう。


……とは言ったが、だって仙術に長けている。あまり使わないだけである。本人に自覚はないけど、あの人は本当にすごい人だ。

幼い頃から彼を知っている私だけど、まさかあんなにも名を馳せた存在になるとは思っていなかった。……番の契約の後の話だったから、余計に。


ここ最近、ふとした時に思う事がある。私は彼と釣り合っているのだろうか、と。あの人はそういう事に興味が無いから『気にするな』と一蹴りするだろうけど……。

昔はこんなこと気にすることなかった。200年記憶を失っていた事が影響しているのだろうか……。


「どうした」

「え?」

「何か考え込んでいたようだが」

「いえ、お気になさらず。申鶴さんの修行についてですよね? 何故私に頼みたいと?」

「申鶴もお前と同じく氷元素の力を持つ。どうだ? 一度見てやってくれないか」


なるほど、私と同じく氷の力を操るのか。それなら留雲さんがお願いしてきてもおかしくない。……もし彼女が風の力を操る存在だったのであれば、にお願いしていたのだろうか。

……らしくない。今は彼女の願いを聞いているというのに、別の事を考えてしまうだなんて。


「構いませんよ。それに、共に璃月を守る同士ですから。助力するのは当然です」


では、どちらで見ましょうか?
そう尋ねれば留雲さんが場所を指定したため、そこへと私達は向かった。……先程まで考えていた事をかき消すように、留雲さんから教えて頂いた申鶴さんの修行内容を復唱した。



***



「この力……もしや、妖魔退治に使われているものでしょうか?」


場所を移動し、申鶴さんの力を見せて貰った。確かに彼女は氷元素の力を操っていた。それに、その元素力に乗せられた術……間違いない、妖魔退治を生業とする一族が遣っていた術だ。


「さすがだな。人目見ただけで理解したか」

「彼らは私達と同じく璃月を守る同士ですから。彼らの一族について知るのは当然のことです」


しかし、この精度……確かに仙人と呼ばれていてもおかしくない。
ここへ移動する間に申鶴さんが人間にどう認知されているかを尋ねたのだが、どうやら彼女を仙人と勘違いする者が多いという。まぁ、人のいる場所で力を振るうことはないでしょうから、恐らく雰囲気から感じ取った感想だと思いますが。


「名前、どうだったか」

「貴女の力は確かなものです。この才は留雲さんの指導によるものでしょうね。私が修行を付ける必要はないかと。……むしろ、私では役不足です」

「何故そう思う」


留雲さんの問いかけに答えられなかった。
考えないようにしようとしているのに、どうしても頭にの事がちらついてしまう。彼は私にとって番の関係であると同時に、戦う術を教えた師でもある。戦闘に優れた夜叉だというのに、私は戦う事を苦手としている……そんな私に師範などできない。


「……はぁ。ま、何となくだが予想は付く。大方降魔大聖のことだろう」

「えっ!?」

「何故そこで彼が出てくる」

「彼女が彼を愛しているのは紛れもない事実であり、周知のものだ。だが、名前はそれと同時に降魔大聖と自分を比べているのだ」

「りゅ、留雲さん!!」


何故私が考えていることを……!?
そんなに分かりやすかったのでしょうか……。


「どこか人間らしくなったな、瑞相大聖よ」

「……人間、ですか」

「昔のお前は気にすることはあれど、露骨に態度には出ていなかった。降魔大聖に感じているそれは、嫉妬というものではないか?」

「私が、彼に嫉妬……」

「……まぁ、先程聞いた話通り、自分を人間と誤認し200年生きていれば、多少影響されても仕方の無いことかもしれん」


留雲さんの言葉で腑に落ちた。……そうだ、この不思議な感覚は前まで人間だと誤認していた時とよく似ている。
感じる劣等感……ここまで感情を顕にしたことなど昔はなかった。それを受け入れるのが私だったから。


「それに、お前にとっては良いことではないのか?」

「良い、こと?」

「お前は自分の限界を認め、留まっていた。だが、人間と関わったことでそれ以上を望む様になった。人間とは強欲な生き物だ、その部分はお前を成長へと繋げたのだ」

「成長……」

「妾にはそう見えるぞ」


受け入れるのではなく、それ以上を求める……。これは”欲”というものなのだろう。それを自覚した相手が愛する人だというのは、変な話かも知れないけれど。


「瑞相大聖よ。降魔大聖を越えたいのであれば申鶴と共に高め合うというのはどうだろう?」

「高めあう……そうですね。申鶴さんがよければですが」


こんな醜い所を見せてしまったからこそ、彼女からの答えが欲しかった。留雲さんが私についてどのような説明しているのか気になるけれど。


「我は問題無い。貴女の仙術は素晴らしいものだと師匠が言っていた。そんな貴女と共に修行できることは光栄だ」

「話を盛っていませんか、留雲さん」

「妾は事実しか話しておらんが」

「我は師匠以外からも貴女について話を聞いている。他の仙人は勿論、姉弟子の甘雨からも」

「甘雨さん……」


彼女は半分人間の血を持っていることもあり、戦うことより人との繋がりを保つ事に力を注いできた。そのため、私より戦場に関する知識や経験が浅い。ですが、それが帝君と彼女が交した契約ですから、気にしたことはありません。

……だからなのか、同じく氷元素の力を操る仙人同士という共通点故、甘雨さんは私について多少話を盛っている節がある。楽しそうに話すのは構わないのですが、事実から多少逸れている気がしてならないのです……。


「そして、降魔大聖からも貴女について聞いた」

「え、あの人から……?」

「聞いていた通りだった。貴女は昔から自分の力に対する評価が低いと降魔大聖は言っていた」

「……」

「貴女の力は夜叉には勿論、仙人でも珍しいと言っていた。まだ貴女の力を見た訳では無いが、我は貴女と共に高め合いたいと思っている」


そう言って申鶴さんは私に手を差し伸べた。……彼女の方が余程仙人らしい。2000年以上も生きているというのに、数年にしか満たない人の子に元気づけられるとは。

それに、話を聞いただけだというのに私に興味を持ち続けてくれて、惨めな姿を見せても気にすることなく手を差し伸べてくださった。断る理由を探す方が難しいですね。


「ええ。私もまだまだ成長しなければならないようです。なので、貴女と共に成長させてください」


差し出された手を握れば、冷たい中に微かに温もりを感じた。その温度に心地よさを感じていた。



***



「ふん、くだらん」

「言うと思っていた」


高い場所から2人の女を見守る妾の隣には、降魔大聖がいる。腕を組み見下ろすその視線の先には瑞相大聖がいる。

何をくだらんと吐いているのかというと、降魔大聖と比べて劣等感を感じていたことだ。だが、予想していた通り降魔大聖は気にしていなかった。


「我はあやつの能力を見て番に選んだのではない。この一生を共に過ごし、共に終えたいと思った……それだけだ」


それに、醜い感情を持っているのは我の方だ
降魔大聖はそう言って目を閉じた。

共に生き、共に死ぬ……か。妾は惚気話を聞きたいわけではないのだが。


「あやつの持つ浄化の力は、かつて我らを使役した魔神が喉から手が出るほどに欲した力だ。ま、本人には自覚がないようだが」

「教えてやればよいではないか。多少自信のある子になると思うが」

「既に言っている。だが、類の見ないものだと言っても理解しないのだ」

「まだあの子は自分が夜叉一族の恥だと思っているのか」

「ああ」


夜叉一族は降魔大聖と瑞相大聖の2人しかいないというのに……引きずるタイプという奴だな。


「だが、こうして見ていると彼女も夜叉であるのが垣間見れるな。血の本能には抗えぬというわけだ」

「獣を見るような目で言うな」

「我らは仙獣だ。獣であるのは間違いないだろう?」


だが、彼女はその獣の部分を嫌った。力があることで弱き者を傷つけることを恐れた。その優しい心は気性の荒いという夜叉に現れたのは珍しいことだ。

……まぁ、亡き魔神である彼女の影響を強く受けているだろうが。あの楽しげに笑い合う2人を二度と見ることができないのは悲しい事だ。


魔神戦争時も、彼女は優しい心を保ち続けた。……だが、あの時だけは夜叉だと思わせる表情を見せたのだ。それは帰終に危機が迫っていると知らせが入ったときだった。



『名前!!』



降魔大聖が呼ぶも、瑞相大聖は我を忘れていたのか、誰よりも早くその場から離れた。向かった先は帰離原だった。
妾達が向かう途中、血を流し倒れる敵対者を何人も見た。その者達には氷が付着しており、間違いなく瑞相大聖によるものだと分かった。


そして、帰終の元へ辿り着いた時……返り血を所々に付着させた瑞相大聖の背中が見えた。あの瑞相大聖が返り血を気にもせず浴びたという事実……帰終の危機は、彼女の本能を刺激したと同時に、瑞相大聖からは想像できない”怒り”の感情を呼び起こしたのだ。


『どうして……どうして私を呼んでくださらなかったのですか……っ、帰終様……!』


そこには、倒れた帰終を抱きながら泣き崩れた瑞相大聖がいた。

帰終が心優しき魔神であったとしても、その神骸は穢れとなってしまう。いくら守護と治癒に長けた仙人であり、その長所故に丈夫な身体をもっていた瑞相大聖であろうとも毒にしかならない。そんな事、妾が言わずとも彼女自身は理解していただろう。

それでも、帰終は瑞相大聖にとって降魔大聖と同じく何にも変えられない存在だった。その最期を見届けるまで、ずっと側についていた。……あの痛々しい姿は、今思い出しただけでも心が痛む。


帰終を救えなかった事は、彼女の中で深い傷として刻まれている。
そのことを今でも引きずっていて、守ることと癒やすことに力を注いでいることを知っている。


「降魔大聖よ」

「なんだ」

「お前から見て、瑞相大聖の心の傷は癒えていると思うか」

「……完全とは言えないだろう。だが、過去の悲しみを乗り越えようとしているのは分かっている」

「そうか」

「我の元から200年離れ、様々な事を経験したようだ。……こうして自分の問題に向き合っているのは、皮肉だがその経験が背中を押したのだろう」


再び2人の元へと視線を下ろせば、そこには夜叉の血が刺激されたのか好戦的になっている瑞相大聖と、枷を付けているはずなのに力が溢れ出ているように見える我が弟子。……相性は悪くなさそうだ。むしろ、力を抑えているという点や、同じ元素を操る所は似た者同士というのだろう。


「申鶴も楽しそうだ。お前の嫁と高め合うのが楽しいのだろう」

「今日が初対面だろう……?」

「そうだが」

「はぁ……何故こうもあやつは他人を引き付ける……」


額に手を当て溜息をつく降魔大聖。先程彼の苦労が増えると言ったのは、今まさに頭を抱えている降魔大聖が答えを言った。

瑞相大聖はその優しさ故に手を差し伸べることが多い。それ故、相手がよからぬ勘違いを生み、降魔大聖が苦労する……という流れだ。だが、あまりにも他力本願すぎる所があれば瑞相大聖も見放すようだが。

しかし、今回はどちらかというと瑞相大聖は引かれた側のように見えたが……。


「良いものでした。お怪我はありませんか、申鶴さん」

「問題無い。それに、我に敬称は不要だ」

「癖なだけですので、気にしないでください」


どうやら一旦休憩のようだ。移動しようと翼を広げたときには既に隣にいた者の姿は無く。……はぁ、確かに降魔大聖の方が”醜い感情”を持っているようだな。



「欲の強い男に好かれたな、瑞相大聖」



瑞相大聖の隣に立つ降魔大聖。その距離はほぼ0に近い。どうやら申鶴に対し妬みの感情を持っている様だ。対する瑞相大聖は気づいていない様子。自分は鋭い方だと瑞相大聖は言っているが、そう自称するものこそ鈍いとどこかで聞いた。彼女によく当てはまっている。


「うーん……」

「どうした。我の顔に何か着いているか」

「申鶴さんとは初対面のはずなのに、何故か見覚えがあるように感じるのです。何故でしょう……?」


3人の元へ降りると、瑞相大聖は申鶴の顔を見て考え込んでいた。どうやら見覚えがあるように感じるらしい。


「もしかしたら、お前が助けてきた人間の血を持っているのかも知れないな。助けた人間の顔全てを記憶するなど、面倒な事をしているのは瑞相大聖くらいだ」

「面倒だなんて、記憶力は良い方なんです。……外的要因は除きますが」

「当たり前だ」


妾の言葉に対しそう返した瑞相大聖。彼女の返答に対し突っ込む降魔大聖。その件は降魔大聖の怒りに触れるから止めた方がよいのではないか?


「うぅ、気になります……」

「では今日は我と過ごすか」

「え?」

「その方がより我について知れると思ったのだが、どうだろうか」


悩む瑞相大聖に申鶴はそう声を掛けた。あまりにも自分に対し悩むものだから、そのような提案をしたのだろう。……だが。


「駄目だ」

「む」

「申鶴、お前の実力は認めている。だが、お前は名前を必ず守り切れるのか?」

「友を守るのは当然だ。心配せずとも我は必ず名前を守り切る」

「ほう? ならば我にその発言を証明してみせろ。その実力でな」

「降魔大聖との対人か。良い機会だ」


どうやら降魔大聖にとっては不満だったらしい。異性相手だとずっと睨みを利かせていることは知っていたが……。因みに帝君は対象外だ。

しかし、彼の独占欲と嫉妬深さは同性まで対象に入るようになっていたとは……200年間の苦しみが影響しておるのだろうか。


「りゅ、留雲さん止めないと! ここの地形が壊れます!!」

「勝手にさせておけ」

「え、ええぇっ」


勃発する理由になっている事を瑞相大聖は分かっているのだろうか……。まぁ、この光景は見ていて面白い。止めなくて良いだろう。妾は、だが。


「止めるな、名前」

「止めるに決まってるでしょ!?」

「我は勝負を買っただけだ」

「買わないで下さい、申鶴さん……」

「あと、我に対しても敬語を外してくれ名前」

「却下する」

「なんでが答えるの……」


聞いた話だと、降魔大聖は申鶴に対し良い評価をしていた気がするのだが、愛する彼女に関しては例外だったようだ。……瑞相大聖の苦労が溜まる一方だな。


だが、困っている様子の中に楽しみを感じる。……帰終よ、お前が大事にしてきた彼女は楽しそうにしておるよ。

前に自分がいなくなった後の事を話したとき、瑞相大聖について話していたよな。お前の心配は杞憂かも知れぬぞ。



***
オマケ

好感度で開放されるボイスネタ
〇〇について

名前→申鶴
「時間を見つけては申鶴さんと共に力を高め合うことがあるのです。…ですが、彼女を見る度にどこか既視感を感じまして。…うーん、誰かに似ていることは分かるのですが、なんせ助けた人の子が多すぎて、中々一致しないんですよね」

申鶴→名前
「彼女の実力は、この身をもって体験した。師匠に聞いていた通りだった。守る力と癒やす力…その話によって隠れている夜叉としての本能に染まった姿…同じく氷の力を操るものとして、彼女の戦う姿は参考になる」






2023/03/05


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