認めない、信じない



『家から出るのを控えてほしい?』



久しぶり帰ってきたと思えば、名前は突然そんなことを言った。

現在、夜。
今日の夕食はばあちゃんが作ってくれた甘納豆がある。名前が材料を買ってきてくれたんだ……って違う。なんだよ、突然家から出るなって。


『何かあったの?』

『ああ。最近、流魂街でちょっとした事件が起きていてな。潤林安でも少し起こっているらしい』

『なんなんだよ、その事件って』

『教えたいところだが、死神以外に話すのは禁止されていてな。そもそも、一部の死神しか知らない情報なんだ』


どうやらかなり曖昧に、限定的に話しているらしい。
だけど、それでも納得できなかった。


『ばあちゃんと桃、冬獅郎を危険な目に遭わせたくないんだ。……頼む』


名前はそう言って頭を下げた。
その声が少し震えているように聞こえたのは気のせいだろうか。


『……分かった! 名前お姉ちゃんの言葉、信じる!』

『! 桃……』

『し、しかたねーから聞いてやるよ』

『冬獅郎……』


俺も桃も、ばあちゃんも名前の事を信じているから。
だからその言葉にみんな頷いた。分かった、と。


『ありがとう……。詳しく話せないのに、信じてくれて』

『……で? いつまで家に閉じこもってればいいんだ?』

『ずっと閉じこもっていろとは言わない。ただ、外出を抑えてほしいんだ。……私が終わったことを伝えにここへ来るまで』

『死なないよね?』

『なーに言ってんだ、桃。私は桃の師匠なんだから、強くて当然だろ? 何、ちゃっちゃと解決してみせるからさ』


食事の席を暗くして悪かったな。さ、冷めちまう前に食べてしまおう。
名前がそう仕切り直すと、また賑やかな雰囲気が戻ってきた。



***



『もう行くのか』


まだ日の登っていない時間帯。
戸の開く音に目が覚め、そこを見ると名前の背中が見えた。

俺の声に名前は足を止め、こちらを振り返った。


『ああ。……早く解決して、みんなを安心させないとだからな』

『……絶対、死ぬなよな』

『冬獅郎まで言うか! 大丈夫だよ、ちゃんと生きて帰ってくるって』


おっと、まだばあちゃんと桃は寝てるんだった……。
慌てて口を塞ぎ、囁き声でそう言った。


『冬獅郎』

『なんだよ』

『私が戻ってくるその時まで、ここを頼むな』


名前は俺の頭を優しく撫でた後、朝霧の中へ消えていった。
___それが、最後に見た名前の姿だった。



***



そして、時は100年経過した。
俺は死神になり、今では十番隊隊長に就いている。
隊長という事もあり、その権限としてある資料を見ていた。その資料というのは……名前についてだ。


「は……?」


名前について記された書類。
そこに書かれていたのは___行方不明。
経歴なども記載されていたが、何よりも目に止まったのが……中央四十六室の裁定で重罪人となっている事だ。
後の記述には、処罰する前に浦原喜助と四楓院夜一、握菱鉄裁らによって他の重罪人と共に尸魂界を逃亡しているとあった。


「……名前が、重罪人?」


書類がクシャッと音を立てた。
……どうして彼奴が重罪人になるんだ?


「そんな訳がねぇ……」


認めたくない
信じたくない
彼奴が……名前が、重罪人だって事を。


「どこに行ったんだよ……なぁ、名前」


俺の問いは、誰に返答されることなく、空間に霧散した。






続きます

2021/07/24

追記:2023/9/30


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