君という海に浸かる


※名前変換は『名前』のみ カタカナ推奨
※捏造てんこ盛り
※フレミネの好感度ボイス、正体ネタバレ
※魔神任務4章2幕までの内容を含む




「あ、フレミネくん! こんにちはっ」

「こっ、こんにちは……名前」


優しい声と、眩しい笑顔。
こうして会話を交わせる関係である事が、今でも驚きで不思議だ。


彼女、名前との出会いは本当に些細な事。海の中で落としてしまったものをぼくが拾ったことが始まりだった。
その落とし物は綺麗な宝石が着いたシンプルなネックレスだった。


『ありがとう、本当にありがとう……っ』

『そんなにお礼を言われるような事、ぼくはしてないよ』


大袈裟だと思う程、ぼくにお礼を告げる彼女の勢いはすごいもので。少しだけ困っていたことは内緒だ。

けど、どうしてそこまでお礼を伝えてくれたのか。その理由を名前さんは話してくれた。


『これね、お母様が私の誕生日にプレゼントしてくれたものなんだ。……だから、大切なの』


普通に聞いただけなら、母親が大好きな人なんだな、と受け取れると思う。けど、ぼくはその事を告げた彼女の表情を見逃さなかった。
母親がくれたのだと告げた名前の表情は、どこか悲しさを含んでいて。……その表情から、とある予想が浮かんだ。

彼女、名前もぼくと同じなのではないか、と。
経緯は聞いていないから分からない。けど、”離ればなれになった”という点は共通しているはずだ。



『あ、そろそろ帰らないと! あの、あなたの名前聞いていいかな。お礼がしたいの』



これが、ぼくと名前の関係が始まった時のお話。
あの後名前は、ぼくに伝えた通り『お礼』をしてくれた。ぼくの望む事をしたい、と言われたため、考えた結果ぼくは名前に「一緒に泳ぎたい」と伝えた。

名前は泳げる人だったようで、彼女と自由に海を泳ぐ時間は仕事として泳ぐものとはかけ離れた……居心地の良い時間だった。いつもなら一人で過ごすことが好きなのに、名前と一緒だと気にならないんだ。


それから時間が合えば、ぼく達は一緒に海を泳ぐようになった。何も考えず、何の目的も無く泳ぐだけ。いつしかその時間が楽しみだと思うようになったんだ。


「それでね、昨日……」


……ぼくの隣で笑顔を見せてくれる彼女は知らない。ぼくは君と同じ光景を生きることができない人間であることを。
君にとってぼくは、恐怖の対象なんだよ。

もし君がぼくの正体がファデュイだって知ったら……離れていくのかな。
そう思った瞬間、胸の奥がチクリと痛んだ気がした。



***



「……今日はよく警察を見かけるな」


ある日、用事があり街を歩いていたとき。
警察をよく見かけるなと思いながら通り過ぎた時だった。


「え……っ?」


偶然通り過ぎた人から聞こえた名前。……それは名前の名前だった。思わず足を止めてしまったが、誰もぼくの行動を気にする人はいなかった。

昨日、少女が姿を消したという。その少女の名は___名前。
名前はフォンテーヌでは有名な家系の一人娘で、特に悪い噂もなく人々からの信用が厚い。そんな家系だった。

だからこそ、こんなにも話題になっているんだ。名前が行方不明になっていることが。


「例の事件じゃないといいけど……」


今、フォンテーヌで事件と言えば大体この事件が話題に出てくる。その事件というのは___連続少女失踪事件。
この事件は、つい最近内容の一部が明らかになった。原始胎海の水というものが、連続少女失踪事件に関わっているものだったのだ。

この水はフォンテーヌ人が触れると、身体が溶けてしまうという恐ろしい水だと言う。


内容を聞いた限りでは、連続少女失踪事件でよく聞く『突然消えた』というのもなさそう。であれば、誘拐が可能性として高い……?

だからと言って安心はできない。仮に名前が誘拐されたとしよう……その後、水のように消えてしまったら?


安心はできない。名前を誘拐した人がその後に原始胎海の水を彼女に使用してしまったら___



「……行ってみよう」


名前が向かったという場所に。
どうやら名前は出かける際に行き先を伝えて外出していたようで、それについて周りが話していたのだ。

……もし、誘拐されたとすれば、何か証拠があるはずだ。
彼女が誘拐される際に抵抗していれば、必ず……!



***



「……ここかな」


名前が行方不明となった現場に着いた。
警察官などの姿は見えない……調べるなら今だ。


「辺りで違和感らしきものがないか、調べてみよう」


幸いぼくはこのような手に慣れている。……ファデュイとして調査を行う事も珍しいことじゃないから。この時ばかりは自分の経験に感謝だ。

道端や荷物が置かれた場所は既に警察が調べているだろう。だから、彼らが普段気にしていない場所を重点的に見る。



「……!」



___見つけた。
君がここにいたこと、誰かに攫われたこと。……その証拠を見つけたよ。

そして、君がどこへ行ったのかも、ね。



「待っててね。すぐに向かうから」



手に握りしめた固くて細いもの……名前が大事にしていたネックレス。それを大切に仕舞って、ぼくは続く道を進んだ。


「! どうしたんだい、ぼく? ここには何もないよ」



ここが一本道で良かった。恐らく警察官が多くいたために動けなかったのだろう。……男の後ろには眠らされたのか、気絶させられたのか。定かではないけど、目を閉じた名前がいたのは確かだった。


「……返して貰うよ、ぼくの大切な人を」


”掃討……開始”
氷元素の力を解放し、名前を誘拐した人物へ両手剣を振り下ろした。

ファデュイでも、君を助けるヒーローにさせてくれないだろうか。なんて、目の前の状況を”処理”する中思ってしまったぼくは、君に溺れている。___君という海に潜っていたいと思っている。


「ひいいいいぃぃっ!!? このガキは返すから、殺さないでくれえええぇっ!!」


だから、ファデュイとしてのぼくを見ないで。知らないで。
……この関係性が崩れてしまうことが、怖くてたまらないんだ。

この関係を保つためなら、ぼくは君に嘘を吐き続けるよ。


「……息はある。良かった」


相手を気絶させ、すぐさま名前の元へ駆け寄る。意識を確かめる為に触れる……よかった、無事だ。
あとは此処を離れるだけだ。


「……ちょっとごめんね。すぐに安全なところへ行くから」


横に抱えた大事な君を抱えながら、ぼくはこの場を離れた。……どうか、途中で目が覚めないで。そう思いながら目を閉じる名前を見つめた。






フレミネくん誕生日おめでとう!
優しい君が大好きです。君はもっと自信持っていいんだよ…


2023/9/24


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