魅入られた者の末路
※名前変換は『苗字』『名前』両方対応。 漢字・ひらがな・カタカナ可。
※現パロ
※捏造てんこ盛り
世には未解明なものがある。その数すらも正確に測ることは出来ない。
例えば、神様は本当にいるのかって話。他国では神様の存在を強く信じる宗教とかあるけど、私が育った国ではそこまで信仰心はない。むしろ、人間を信じている節がある。
姿形も定まらない見ぬ存在より、きちんと目で見ることができることを信じる。例えを上げるなら、研究成果とかそうじゃないかな。新発見ってニュースに大きく取り出されることがあるくらいだし、きっと誰もが心の中でそう思ってる。
昔は神様の存在を信じていただろう。神社とかがその証拠だ。
ロマンがないとか、つまらない人間と思われるかもだけど、私の中ではそんな印象だ。
例えとして神様を出しただけで、他にもいろいろある。未確認生物とか、ファンタジーの中でしか出てこない空想の生き物とかもそれに含まれる。
「我はお前を好いている」
けど、想定外のことがあると、信じる前に否定が割り込んでくる。今まさに目の前で起きた状況のように。
自分とは釣り合わないだろうと思う存在が、自分の事を好きだと告白した。おおげさかもしれないけど、雲の上の存在だと思っていた人。
「え、えっと……冗談だよね、
くん」
彼の名前は金鵬
。私は彼を
くん、と名前で呼んでいる。
高校へ上がると同時に引っ越してきたそうで、知人がいないらしい。偶々席が隣だったということもあってか、話す機会が多かった。だからなのか、いつの間にか異性のクラスメイトの中では1番話す人だと思うようになったし、実際クラスメイトの認識も私と
くんはセット扱いされることが多々あった。
くんは文武両道で___男の子に使うのは変化もだけど___才色兼備という言葉が似合う人だ。私には才能とかないし、普通の人間だ。そんな人間である私と
くんが『そういう関係』なんて、想像することすらおこがましい。
「冗談などではない」
……そう思っていたのに。
反射的に出た疑いの言葉に対し、
くんははっきり違うと答えた。唐突に告げられた
くんの言葉は、私が決めた覚悟を揺らぐもので。
覚悟なんて大袈裟なことを言っているように聞こえるかもしれないけど、私は頑張って彼を異性として、一人の男の子として
くんを見ないようにしてきた。……顔が綺麗なのは勿論なんだけど、何よりも___
くんは優しかった。
不器用なところがチラホラ見えてはいたけれど、優しさはちゃんと伝わってきていたから……いつの間にか、彼を好きだと思うようになった。
「お前はどうなんだ、名前」
「え、」
「我が決して冗談を告げるものではない事を、お前は良く知っているはずだ」
一緒に過ごすことが多かったから、当然彼の人物像なんて自然と分かるもので。
くんは冗談や嘘と言った本心とは違う発言や意思表示を苦手としている。それは自他共に、だ。
「そうだろう、名前?」
彼の琥珀のように綺麗な金色の瞳に見つめられると、こちらの考えている事を見透かしているのではないか、という感覚に陥る。
くんを見ていると、本当に同じ人間なのかと疑うことがある。だって漫画とかアニメでよくあるじゃない。人ならざる者が人型を取る時、浮世離れした美人であることが多い、なんてさ。
「それで、お前は我の言葉に返答してくれないのか?」
「へ、返答……」
「後日でも構わない。我としては、今すぐ返事がほしい」
腕を組み、まっすぐこちらを見る
くん。
……彼に対し恋心を自覚してから、彼と目を合わせて話すことが難しくなった。何故って、照れるからだけど……。
やっとの事で、彼と目を合わせる事に慣れた。……と言っても、恋心を自覚する前の感覚を思い出して、無理矢理慣れたようなものだけれど。そして、それにかなり時間がかかった。
「だが、期限は提示させて貰おう。……卒業までに、お前の答えを聞かせてくれ」
卒業まで……か。
私達の学年は3年。私が通う学校では最終学年にあたる。
そして、今は1月で三学期目。……期限はそう残っていない。
幸い進路については二学期の間に決まっており、既に確定している。だから受験と同時に彼の返答に悩むことはないけれど……これは、受験よりも難しい気がする。
「良い返事を待っているぞ、名前」
さあ、早く帰ろう。
そう言ってこちらに笑みを向け、手を伸ばす
くんの背後には、窓から差し込む夕日。その光景が更に彼が人間とは別の存在ではないかという考えを膨らませていた。
***
『お兄ちゃん、怪我してる! ばんそうこういる?』
……これは、小さい頃の私?
その背中には赤いランドセル。そして、目の前にいるのは……民族衣装を彷彿させる服を纏った男の人。
幼い私が見上げた視界に、その人物だろう人が映っているけれど、何故か上手く見えない。
『……我はこんなものが無くとも、傷は癒える』
『あ、お兄ちゃん強がってるんだー! 痛いときはちゃんと痛いって言わないといけないんだよ?』
我……この人、
くんと同じ一人称だ。意外と多いのかな、自分の事を我って言う人。
それに、声も似ているような……。声が篭もっていて、はっきりとは分からないけれど……。
『強がりなどではない』
『いいから! はい、ばんそうこう! 私が貼ってあげる!』
痛いの痛いの、とんでけー!
そう言いながら幼い私は、男の人に絆創膏を貼る。
『お兄ちゃんはいつもここにいるの?』
『……我はここを守る事が使命だ。言い換えれば、この地に縛られているとも言えよう』
『しばられる? しばられるってなあに?』
『幼子にも分かるように言うなら……ここから動けない、と言えば分かるか?』
『お兄ちゃん、ここに閉じ込められてるの!? かわいそう……っ』
どうやら幼い私と男の人がいるのは、古びた小さな社のようだ。古いとは言え、社というのは神様を祭る建物だ。
なんで此処に来たんだっけ……?
『じゃあ私、学校帰りにここに来てあげる! そうすれば、お兄ちゃん寂しくないでしょ?』
『……好きにするといい』
ほら、雨ならとっくに上がってるぞ
そう言って男の人は空を指す。……あぁ、思い出した。雨宿りのためだ。
天気予報では雨は降らないとあったから傘を持っていかなかった。けど、下校時間になると突然大雨が降り出したから、止むまでどこか雨宿り出来る場所を探して……見つけたのが此処だったんだ。
そして、そこでぐったりとしていた男の人を見つけて……怖かったけど怪我していることを知って、声を掛けたんだ。
その日から私の日常に、男の人と会う事が加わった。初めは名前など気にしていなかったけれど、ふと聞いていなかったことを思い出して、聞いたんだっけ。
『ねぇお兄ちゃん。そう言えば、お兄ちゃんのお名前はなあに?』
名前を聞いたのは、あの男の人と会うことが当たり前になってから暫く経ってからだ。
『凡人の身で我の名を問うとは。……まずはお前から名乗るのが筋ではないか?』
『えっと……私から自己紹介するってこと? ……分かった! えっと、私の名前は苗字名前だよ! お兄ちゃんのお名前、教えて?』
普通なら知らない人に名前を教えるなど危険だけど、当時の私はその危険は知らなかった。むしろ、会いに行くほどの人なのだ。疑うことなく自分の名前を告げていた。男の人の名前を知りたくて。
『……我の名は___』
自分の名を明かした後に、男の人が告げた彼の名前。
その名前は……
「起きろ、名前」
「!!!」
身体を揺さぶられる感覚と、自分の名前を呼ばれたことで、意識が浮上する。
目を開ければ、目の前には
くんがいた。
「あれ、私……?」
「寝ていたのだ。それはもう無防備にな」
「む、無防備って……」
「事実だろう」
して、寝言を呟いていたが、夢を見ていたのか?
腕を組みながら私に問いかけてきた
くん。その言葉で私はさっきまで寝ていて、そして小学生の頃の記憶は夢だった事に気づく。
「小学生の頃に会った、不思議な男の人の思い出……かな」
「ほう。幼きお前はさぞかし愛らしかったのだろな」
「うっ、また始まった……」
先日、私に胸の内を明かした
くんは、甘い言葉を囁くようになった。
幼稚園、小学校低学年の頃は異性と過ごすこと何て気にならなかった。あの男の人と会っていた時期も、丁度その頃だ。
けど小学校中学年頃になると、思春期もあってか段々と意識し出すようになって、男の人と話すことに緊張を覚えるようになったんだよね。だから私、その位の歳になってから男の人と話す事が減ったんだ。あったとしても、連絡することがあるときくらい。
「我はお前と初めて会った時から、名前のことを愛らしいと思っていたが?」
「う、嘘だぁ」
「嘘はつかぬ」
事務的な話ではなく、日常的な会話を異性と交すのは小学校低学年以来だ。高校に進級して
くんと出会い、話すことが当たり前になっていた。……そして、いつの間にか恋に落ちた。
でも、その気持ちは明かさず、そのままお別れするつもりだった。現に私は、高校卒業後、生まれ育った町を離れて大学へ進級する予定だったから。
告白する度胸がなかった私は、この気持ちを胸に留めたまま彼を忘れる事を決めた。……決めたのになぁ。
「初めからって言われると、その……一目惚れって奴になるんだけど」
「そのように言ったつもりだったが、伝わっていなかったか?」
「も、もう止めてっ。頭が追いつかない!」
「ふっ、そのまま受け入れてくれれば、我も嬉しいのだが」
そんな顔で見つめられたら、決心が揺らいじゃうよ。
私の机に肘を付き、その掌に小さくて整った顔を乗せてこちらを金色の瞳で見つめる
くん。彼は分かっているのだろうか、自身が作る笑みがどれだけ綺麗で、かっこいいのかと。
「話を戻すが、お前が幼き頃に会っていた男とは、今どうなっているんだ?」
「あ、それについては……」
あの夢を見たからなのか、男の人の姿形は思い出せなかったけれど、その後の事については思い出せた。
……あの夢に引き寄せられるように、その後の事を思い出したんだ。
「実はあの後、男の人と会っていた場所……古い社だったんだけど、取り壊されちゃってね。今は公園になっているんだ」
私が小学校中学年頃……さっきも言った、異性を意識し出す年頃。実はそれを明確に意識しだした存在が、古い社で出会っていた男の人だった。
そのきっかけは……古い社が取り壊された後、彼に会えなくなったこと。彼に会えなくなって寂しさを覚えた私は……それが恋心だという事に気づいた。それも、初恋ってやつだった。その相手の名前も、顔も……覚えていないというのにね。
「……会いたいとは思わないのか」
「実はその人の名前と顔を忘れちゃって。だから、会えたとしても気づかないかも」
「人間は記憶が薄れていく生き物だ。断片的に覚えているだけでも我は良い思う。……全て忘れるよりは、な」
「
くん……」
くんは優しい考えの持ち主だね。忘れる事は悪い意味に捉えられやすいのに、少しでも覚えているなら大丈夫なんて、本当に優しい人だ。
「さて、そろそろ帰ろう。この時期は日が落ちるのが早いからな、夜道お前に何か遭ってはならぬからな」
席を立ちながら荷物を肩に掛け、こちらを振り返って手を差し伸べた
くん。……この手を握ることも随分慣れたな。この行為と同じように、
くんの気持ちに頷けたら良いのに___。
「うん。帰ろう、
くん」
私が
くんの告白に返事ができない理由は、自分と彼が釣り合わないと思う事と、もう1つあった。
***
「よくも3年まで耐えられたわね、もう諦めたら?」
今私がいる場所は、人気がない体育館裏だ。私の背後は壁、前には……クラスの女子グループの一人で、その中心人物だった。
いつもは周りにいる子達……所謂取り巻きから受けていたんだけど、少し前から姿を見かけないのだ。
まあ、私のクラスは早めに受験を済ませている子が多いから、進路が確定した子は登校しなくても良いという方針だ。だから最近見かけないのかな。
「どうしてあんたばっかりなの? あたしだって好きなのに!!」
そう、彼女は私と同じで
くんの事が好きなのだ。だから、いつも一緒にいる私が気に入らないようで、前々から嫌がらせを受けていた。
今までは嫌がらせの手紙を送りつけられてたり、陰口を叩かれたりだったけれど……まさか、直接呼び出されるなんて。
「な、何……ひゃあッ!!?」
「アンタが悪いのよ、金鵬くんを独り占めして!! この、このッ!!!」
突然相手が腕を振り上げたと思えば、頬に走った痛み。……暫くして気づいた。頬を叩かれたのだと。その衝撃で私は地面に尻もちを着いてしまう。
じんじんと痛む頬を抑えながら、目の前の人を見上げると……視界に入ったのは靴裏。まさか、踏まれ___
「かは……っ!?」
突如目の前にいた女子が消えた。……いや、吹き飛んだ。あまりの速さに消えたと思ったのだ。
ゆっくりと女子が吹き飛んだ場所へと首を動かせば、ピクリも動かない彼女がそこにいた。
一体、一体何が起きたと言うんだ。
視界に映った彼女の様子を見て、身体が震えだした。……その時だった。
「もう大丈夫だ。お前にとっての脅威はこれで
すべて
・・・
消えた。怯える必要はない」
後ろから聞こえた声。……その声は聞き慣れてしまった声で。ゆっくりと振り返れば___
「しょ、くん……!?」
くんであることは分かっていた。けど、身に付けている服がいつもと違った。……あれ、この服見覚えがあ……!!
「そ、その服……!」
「気づいたようだな」
目の前にいる
くんの服は___幼い私が恋をした男の人が着ていた服だった。それが分かった瞬間、当時の記憶が蘇った。
……ただ蘇ったわけじゃない。分かったのだ、今まで顔を思い出せなかった男の人の顔が。幼い頃の密かな楽しみだった男の人と過ごす時間。その本人は、
くんとそっくりで。
けど、今
くん『気づいたようだな』って言った……?
まさか、いやあり得ない。だってあの人と会っていた時、私は小学生だ。そして今は高校生で、18歳で……普通に考えたらあの男の人が当時の記憶のまま現れるはずがない!
「お前からあの日々の記憶が消えていたのなら、我はお前を忘れようとした。だが、お前は完全に忘れていなかった……断片的に、当時のことを覚えていた」
「じゃあ、本当にあの時の?」
「ああ。探し出すのに苦労したぞ」
私の目線に合わせるように、
……くんが片膝を付く。そうだ、そうだった。あの男の人の名前も『
』だった。私は『しょうお兄ちゃん』って言ってた。
「酷い怪我だ。名前の前だったから手加減したが、やはり抜かないほうが良かったか」
「へ……? 何を言って、」
引っかかっていたあの男の人について分かり、嬉しさで満たされていた時だ。
くんの言葉で現実に引き戻された。
そうだ、あの子……!
思わず立ち上がって状態を見に行こうとした。
「っ、!?」
「何故心配する必要がある」
掴まれた手首。
それは
くんが私を引き留めたもので。……そして、その発言で確定してしまった。いや、そもそも初めから分かってた。
「どうしてあんなことを……?」
あの子を吹き飛ばしたのは、
くんだってこと。
思いたくなかったんだよ、
くんがやったという事実を……認めたく、なかったの。
「お前は隠していたようだが、我は気づいていた。凡人のくだらない事に巻き込まれていることに」
「そ、そんな……っ」
「本来なら早々に消してしまいたかった。だが、それでは感づかれる可能性がある……だから、機会を窺っていたのだ。今の時期のように登校せずとも気づかれぬ機会を」
その発言に、ある事を思い出した。あの女子の取り巻きだった子達が登校していない事を。
「そんなこと、しなくても……っ」
「そんなこと? お前はこれまでの仕打ちをそんなことで片付けられるのか?」
「そ、それは……っ」
「できぬだろう? だからこの町を離れて、逃げようとした」
後ろへ引き寄せられ……背中に何かがぶつかった。いや、何かを言う必要なんてない。ぶつかったのが何なのか分かっているんだから。
「同時に、我を忘れようとした」
「……っ」
耳元で囁かれる声。私を後ろから包むように抱きしめる
くん。
何故だろう、嬉しいはずなのにどうして身体が……震えているの?
「それは許されない事だ。何故なら我とお前は既に『契約』を結んでいるのだから」
「けい、やく……?」
「我らは互いに名を明かした。お前は聞いた事があるか? 真名を明かす意味を」
胸元に回った
くんの腕に力が入った気がした。同時に、
くんの匂いが強くなる。彼の息づかいが耳へダイレクトに響く。
「真名は字の通り、真の名。その身に刻まれた名だ。それを知るということは、相手を支配する権利を与えられる」
「!」
「我らは互いに名を明かし合った。契約する条件は十分満たされた」
「でも、それだったらクラスメイトのみんなも含まれるんじゃ……」
「名を明かしただけで契約は成立せぬ。お前は忘れたのか? 名を明かした後、契りを交したのを」
くんの片腕が離れていき、私の手へと伸び、触れた。そして、私に見せつけるように指を絡ませた。……指を、絡ませて?
「!! ゆび、きり……」
「そう。交わしているのだ、契約を」
指。そうだ……指切りをした。
幼い頃、何気なく使っていたけど……指切りって約束するときにやるもの。契約と言い換えても変わりない。
「その様子だと、当時交わした誓いを覚えていないようだな」
「……っ」
「構わぬ。交わした誓いは破れない、現にお前は名を忘れても我の存在があったことは覚えていた。故に契約は存続している」
ふと、
くんの服が目に入る。民族衣装を彷彿させる服は、以前から思っていた事を強くさせた。
「……ねぇ、
くん」
「なんだ」
「
くんは……人間じゃないの?」
同じ人間とは思えない……綺麗な顔。そう思った時、ある事を思い出した。漫画やアニメの設定によくある事___人ならざる者が人の形を取るとき、同じ人間とは思えない綺麗な容姿で現れる、と。
それは単に設定的に美形にしたいだけだから、と思う事があるだろう。けど、私はこうだと思っている……人とは違う存在であることを分かりやすく描写するためだと、私は思ってる。
「……我は人間ではない。お前が生を受ける遙か昔から、この地を守ってきた」
「はるか、むかし……」
「だが、時と共に力は衰え、遂には朽ちることだけを待っていた時……お前が我の前に現れたのだ」
そうだった。初めて会った彼はボロボロだった。じゃあ、あの時
くんは本当にまずい状況だった……?
「信仰心は必要ないと思っていたが、誰かに存在を認知して貰える。……お前が我の元に通うようになってから、次第に力が戻りだしたのだ」
「力が戻るって、私にはそんな力は……」
「言っただろう? 信仰心……我を人ならざる者とは分かっていなくとも、我の存在を信じたお前の気持ちが、我をこの地に……俗世へ留めさせてくれた」
我の心ごと、な。
抱きしめられる力が強くなると同時に、温もりを強く感じた。そして、視界の端に暗い緑色の髪が見え、彼の顔が私の肩に乗っていることが分かった。
「まさか、我が簡単にお前に名を明かしたと思っているのか?」
「違うの?」
「違う。お前だから名を明かした。だから、我の名をお前以外には呼ばせなかった」
たしかに、私以外に
くんを名前で呼ぶ人はいない。男子でさえも。
私だけが彼の名を呼んでいる。……それも、初めから私であったことを知っていたからってことだよね……?
「……だが、お前と同じ時間を過ごして思った。本当にこの世にいる意味などあるのか、と」
「……え?」
「我が目を離せば、お前は傷付いてしまう。身体だけではなく、心もだ」
くんの腕から解放された、と思えば身体を回転させられた。そのことで、
くんと対面する形になった。
同時に、金色の瞳と目が合い……逸らすことができなくなった。
「そうだ、我の洞天へ行こう」
「どうてん?」
「我が作りだした空間、そこならばお前は傷付かぬ。……そして、悠久の時を過ごすことが可能になる」
「ゆうきゅ……え?」
言葉が難しくて分からない事が多いけど、何となくまずい状況であることは分かる。……
くんが作った空間、人ならざる者が作る空間と言われたらとある単語が浮かぶ。
___神隠し
ある日、突然人が姿を消してしまうことをそう呼ぶ。
まさか私……今まさに、”それ”をされそうになっている……!?
「待って
くん、私は」
「拒む理由などもうないだろう。あの人間が最後だったのだ。もうお前が我の気持ちに迷う理由はないだろう」
怖がる必要はない、これからは二人きりなのだ……誰も我らを割くものはいない
そう耳元へ囁かれた瞬間、心臓が大きく脈打った。同時に息苦しさを覚える。上手く、呼吸できない……!
「ゆっくり眠れ。目が覚めた時、お前は解放される」
目元が
くんの手に寄って塞がれ、視界が真っ暗になる。
同時に眠気が私を襲う。それに抗う隙も無く、私は意識を落とした。
「___気づいていないとでも思ったか? お前が必死に隠していた胸の内を……我に対する気持ちを」
「これを人間は『両想い』と言うのだろう? ……我らの心は同じ。であれば、もう抑える必要は無い」
___人ならざる者に魅入られた者の末路
魅入られたら最後、その者は人間ではなくなる。同時に、その者と同等の存在となって生きることを強制させられる。
仕方の無いことだ。何故なら彼らは失うのが怖いのだから___人間は自らを残してすぐに死んでしまうから。それを防ぐには、自分と同じ存在にするしかないのだ。
「あぁ、後悔するなら幼き頃のお前に言うんだ。我の心に踏み入り、住み着いたお前を」
彼は周りがいなくなり、一人となった。自身の命を救った存在へ恩を返すため仕えた者でさえ、彼を残していなくなった。
それでも彼は、彼自身に課せられた使命を守る為に土地を守り続けた。だが、長い時間と共に彼は忘れ去られていき……孤独となっていった。
人からの信仰心を失った彼は、次第に弱まっていった。力がなくなっていき、時期に訪れる消滅を待っていた時に現れた少女。少女は確かに何の力も無かった。だが、彼の存在を認知するという行為だけでも力が回復するには十分だった。
……その日から彼は、少女のために生き、力を振るった。
自身の拠点であった社がなくなるまでは。
「もう我らを絶つ者はいない」
社は彼が現世で姿を保つために必要な住処……帰る場所であった。だが、彼はそこを失ったことで、その姿を現世で保つ事ができなくなった。
少女と会えなくなった理由は、社が取り壊されたことによって少女が彼の姿を認識出来なくなったからだった。
しかし、完全な消滅は免れた。……何故なら、彼が少女と契約を交わしたからだった。だから少女は彼の名と顔を忘れても、存在だけは覚えていた。
「これからは……ずっと一緒だ、名前」
その繋がりがあったことで、彼の少女に対する気持ちは年月を重ねる度に肥大化した。そして、少女が18歳となった後、少年の少女に対する気持ちは、せき止められなくなった。
「愛している」
鋭い金色の瞳が見つめるは、愛おしき人間の少女。
人ならざる者……神仙の寂しさを埋めた少女は、彼に魅入られた。少女は彼が抱くその大きな想いを受け止められるのだろうか?
それは彼らのみが知る___
あとがき
原神夢初の現パロでした。いかがでしたでしょうか?
実はこのお話、とある楽曲から思い着きました。終焉ノ栞プロジェクトの楽曲「テレーゼの溜息」です。
実はこの曲を
の中の人が歌唱していますので、気になった方は聞いてみて下さい!
一部お話の構成は、誰もが知っているだろうアニメーション、スタジオジブリ作の「千と千尋の神隠し」を参考にしました。勿論、
はハクのポジションです。ということは、
に本来の姿があるのかも……?
最後にタイトルについて。
タイトルは魅入られた者の末路ですが、真タイトルは作中にありました「人ならざる者に魅入られた者の末路」になります。気づいてくれた方がいたら嬉しいです…!
2023/11/04
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