第1節「体育祭に向けて」



「遅かったではないか!!もしや、余との約束を忘れて……っ」


目の前にいるのは、大きく綺麗な黄緑色の瞳に涙を溜めている少女……、私が契約したサーヴァントの1人、ネロ・クラウディウスだ。


「あああっ違うよネロ!!ちょっとした通行妨害があって……」

「そうなのか?」


本来ならもっと早くに帰って来れたであろう時間から数十分経っていた。
で、ネロは勿論私がいつも通りの時間に帰ってくると思っているはずなので、その時間に合わせて約束の場所にいる訳だ。

私が普段個性の訓練として使用している場所は、両親が特注で作ってくれたトレーニングルームだ。
サーヴァントみんなの力に耐えられる程の耐久力を備えた部屋らしい。
個性というものと共存する世の中になったこの世界では、意外とサーヴァントみんなの力を持っても壊せないものはあるようだ。
……まあ、修理工事が今まで10回くらいあったけど。ちなみに一番壊しているのはカルナである。


「ほら、やっぱり泣き出したじゃない。面倒くさいわね」

「こらジャンヌ?遅れたのは私の所為なんだから、ネロに意地悪しないの」

「奏者〜!!やはり奏者は余を理解してくれているのだなっ、余は嬉しい!!」



ネロ、抱きつくのは良いんだけどすっごく苦しい……。
あと私を間に喧嘩しないでほしい……。



「そ、そんな事よりっ!訓練始めよ!!」

「ん?そうだな!こんな聖女など置いて二人っきりでやろうぞ!」

「させないわよ泣き虫?」


どうしてこんなにも仲が悪いのだろうか……。もっと仲良く過ごして欲しいものである。



***



「今日も同じく例の特訓だな」

「うん、宜しくね」



先日のヴィラン襲来事件で判明したもの……現在の擬態状態から更にランクアップした状態を保てるように特訓中なのだ。
このときの状態は今まで以上にサーヴァント達の力を発揮できるらしく(マーリン談)、使えるようになればレベルアップ間違いなしだろう、と思っている。

しかし、強さが増すのならそれに伴う代償も大きくなると言うもので、2段階目の擬態状態を維持するだけでも魔力消費をかなり削られるのだ。
昨日から始めた特訓だが、これが中々きつい。

昨日はエドモンが稽古をつけてくれたのだ。実は相手をしてくれるサーヴァントは日替わりである。……誰得情報なんだろう。


「よし。ジャンヌ、貴女の力借りるよ」

「好きにしなさい」


先程無理矢理喧嘩を止めるために令呪を使ったのだが、そのお陰ですっかりジャンヌの機嫌を損ねてしまったのだ。
あれ以上喧嘩が酷くなれば訓練場壊れるから……。


右腕に令呪が浮き上がり、赤い光を放つ。


「擬態、”復讐者ジャンヌ・ダルク”!」


その言葉に擬態の意思を示す。
刹那、身体にジャンヌの魔力が入ってくる。


「うむ、擬態には成功しているようだな。では次の段階へ行くぞ」


本来ならここから対人訓練に入るのだが、2段階目の擬態状態が発見されてしまった今、私が次にできる様にならなければならないのは、この2段階目の擬態状態を保てるようになることだ。
状況に応じてこの力が必要になるかも知れない。


「恐らくエドモン・ダンテスアヴェンジャーも言っておっただろうが……、擬態したサーヴァントの姿を浮べるのだ。”イメージ”は必要だからな」

「うん……!」


ネロのアドバイス通り、現在擬態しているジャンヌの武装した姿を思い浮かべる。
暗めの鎧に、所々服装の端が火に当たって燃えたかのような………


「上手くいったぞ奏者!」

「本当?」

「うぬ!聖女そっくりだ!これが現代でいうコスプレというものか」


コ、コスプレ……。まあ間違ってないかも知れない。
自分の格好をみると、確かにジャンヌの武装した姿だ。聞き心地のよい金属音も聞こえる。


『私の格好をした名前……。悪くないわね』

「鎧着けてるのに、意外と重くないんだね」

『あらそうなの?貴女、軽いと思えたのね』

「力なくてすみませんね……」


擬態状態は憑依しているサーヴァントのステータスが反映されるから結構補正されてるけど、素の力は凄く非力である。
偶にそのことで弄られる事があるんだけど、もう認めてるからいいもん!!


「では、その状態で対人訓練と行こうではないか!!」

「……よろしくお願いしますッ」


ネロが真紅の剣……原初の火アエストゥス・エストゥスを構える。
私もジャンヌの旗を出現させて構える。


「いつでも良いぞ?」


ネロの挑発に口元が動くのが分かる。
旗を持ったまま接近し、ネロに向かって振り下ろした。





2021/07/04


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