第6節「個性把握テスト」



「個性を……、消した……?」


その言葉に一瞬頭が真っ白になる。
この言葉から考えられるに、相澤先生の個性は個性を”消す”能力だろう。
周りが何かざわついていたが私はそれを気にするまで意識が向かなかった。
だって、相澤先生の個性がそのようなものなら……個性が発現していないと成り立たないはずだ。


「指導を受けていたようだが……」

「除籍宣告だろォ?」


飯田君とかっちゃんの言葉が耳に入るが、二人の言葉に反応する余裕がない。
目の前にいるいーちゃんについて頭がいっぱいで、思わず頭に手を当てる。
私が混乱している間にいーちゃんは2回目の測定に入っていた。


「……」


飯田君の発現と相澤先生の個性が正しいというのなら。
私は黙っていーちゃんの行動を見つめる。


「……!」


いーちゃんがボールを投げた。
それは先程と変わらない。……変わってないように見えた・・・んだ。



「うっ, ……ッ!?」


いーちゃんがボールを投げた瞬間、強い風圧が起こった。
その風圧は私の髪を暴れさせるには十分の威力だった。


「705.3m」


その記録は1回目を投げた記録を大幅に超えていた。


「先生……っ、まだ……動けますッ!!」


痛みを抑えながら、相澤先生にそう言ったいーちゃん。
変色した指が、先程の光景は嘘ではないと言っているようで。


「700mを超えたッ!!?」

「やっとヒーローらしい記録でたよー!!!」

「指が腫上がっているぞ……!入試の件といい、おかしな個性だ……」

「スマートじゃないね」


周りの歓声とは違い、私は先程の光景を頭が受け入れられなかった。
でも今の光景と彼の腫上がって変色した指がその証拠でもあって……


「どういう事だァ……」


隣から聞こえた低い声に我に返る。
そして聞き慣れた爆発音に横にいた彼を見る。


「こらァッ!!!訳を言え、デクてめェッ!!!」


かっちゃんが個性を発動させながらいーちゃんに向かって走って行く。……止めなきゃ!!


「かっちゃんッ、だめッ!!」


いーちゃんに突っかかっていく彼を久しぶりに見たこと、先程の光景に頭が混乱していた事で反応に遅れてしまった。
私はかっちゃんを止めようと飛び出した。


「ぐッ!!?」

「わッ!?」


かっちゃんの肩に触れそうになった瞬間、身体が動かなくなった。
その正体は、私の身体に巻き付く“何か”だった。


「なんだッ、この布は……!かてェ……!」


かっちゃんの声が上から聞こえる。
どうやら近くに感じていた温もりの正体はかっちゃんだったようだ。


「……って!」


視界にはいった自分の髪と舞っていた金色の光、そして先程までは普通だったものがなくなっている事に気付く。

___擬態が解けてる!?
待って、私擬態解除した記憶なんて……


「炭素繊維に特殊合金の銅線を編み込んだ捕縛武器だ。……ったく、何度も何度も個性使わすなよ……!俺はドライアイなんだ……!」


何とか相澤先生の方をみると、自分の身体に巻き付いているものの正体が分かった。
相澤先生の首元に巻かれているものだ。
……確かに、これは固い……!

相澤先生の捕縛武器から解放され、その場に膝を付く。
いーちゃんがかっちゃんの様子を窺いながらその場を離れていく。


「……名前」


かっちゃんが私の名前を呼ぶ。
見上げると、混乱しているような表情のかっちゃんと目が合った。


「お前は知ってたんか。……デクの事」

「……知らなかった。いーちゃんには個性がなかったはず……」


本当に知らなかった。
だって私は誰よりも彼の苦悩を聞いて、受け止めてきて……。
だからこそ、無個性だからと彼を嘲笑うものから守ってきたつもりだった。


「いーちゃん……。私を、騙していたの……?」


彼の笑顔が浮かぶ。
その笑顔に苦しんでいた私を、いーちゃんは笑っていた……?
分からない、わからないよ……っ。



***



第6種目:上体起こし



「おい、もっと力入れろ」

「えっ、全力で力入れてるけど……」

「乗っかって良いからちゃんと抑えろ、アホ」

「ア、アホ……」


失礼しま〜す、と思いながらかっちゃんの足に腕を回して体重を掛ける。


「お前、見た目の割には軽いのな」

「………かっちゃん、どこ見て言ってるの?」



第7種目:長座体前屈



「相変わらず、身体やわらけーよな」

「ふふん、これだけはかっちゃんに唯一勝ててるよ!」


身体の柔らかさだけなら、昔からかっちゃんに勝っている。
……とは言っても、彼も身体は柔らかい方なので誤差でしかない。


「……」


先程のソフトボール投げから、いーちゃんは私達を避けるように飯田君と可愛らしい女の子と行動している。
何故だか胸がチクリと痛んだ。



第8種目:持久走



「苗字。個性は使わないのか」

「え?」


軽く準備運動していた所を相澤先生に話しかける。


「お前の個性は既に使えるようにしている。さっさとしろ」

「はっ、はいっ」


言うだけ言って相澤先生はその場から離れた。
……先程から小太郎の反応がないから、どうなってるのか気になってはいたんだけど。


「……擬態、”風魔小太郎アサシン”」


疑いながらも個性を発動させると、髪の色が小太郎のものに変化し、彼の魔力が入ってきた。
先程先生の捕縛武器に捕まった衝撃でとれたヘアピンを付けて、視界を見やすくする。

擬態には応答してくれたけど、声が聞こえなかった。
なので話しかけて反応を確かめたかったのだが位置に着くように言われてしまった。……仕方ない、後で確認しよう。



***



「やった! 持久走、かっちゃんに勝ったぁ!」

「トータルでは俺の勝ちだ」

「……むむむ」


勝手に競ってたことになっていた個性把握テスト。
勝てたのは50m走と長座体前屈、持久走だけだった。……そもそも競うなんて一言も言ってないし!!


「じゃあ、パパッと結果発表」


相澤先生の前に集合し、結果発表を待つ。


「トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ」


一人一人結果をいうのは時間の無駄だから、という事で一斉に発表される事に。……これ地味に嫌な奴……。

相澤先生が持っていた端末から全員の結果が表示される。
うわっ、かっちゃん3位……。私は11位だった。
そして次に気になるのがいーちゃん。


「……!」


最下位はいーちゃんだった。
折角憧れのオールマイトの出身校である雄英に入学したのに……っ。
思わず相澤先生を見てしまう。
……本当に除籍処分にされちゃうの……?


「因みに除籍は嘘な」


……え?


「君らの個性を最大限引き出す合理的虚偽」

「「「はああああああッ!!!!?」」」


笑いながら言った相澤先生の発現に私は勿論、クラスメートのみんなも驚きの声をあげる。
だってあの感じは絶対本気だったよ!?


「あんなの嘘に決まってるじゃない、ちょっと考えれば分かりますわ」


出席番号が私の3つ後ろである、背が高い美人さんの声が聞こえた。
でも、やる気というかそういうのをあげるには『嘘をつく』という方法は有効だったりするけど……。


『いえ、嘘ではないかと』

「!?」


急に聞こえた声にビクッと反応する。


「ア、アサシン……、大丈夫だったの?」

『大丈夫です、ありがとうございます』

「そ、それで……。嘘ではないってどういう事……?」

『はい。その事ですが、彼の情報が纏められた資料を拝見したのですが、去年担当していた2年A組は全員除籍処分されています』


ということは、結果次第では本当に除籍処分にされる所だった……?
小太郎の言葉に身体がぶるっと震えた。
……いや、小太郎。君は一体どこまで調べているの!?


『……あの方が持つ個性というもの、嫌いです……』

「あはははは……」


そうだった。
彼らは私の”個性”なのだ。
ということは相澤先生の個性は最大の弱点になるかも知れない。……気をつけるね、小太郎。


「これにて終わりだ。教室にカリキュラムなどの資料があるから、戻ったら目を通しておけ」


相澤先生の言葉で、もう擬態していても意味がないと思い擬態を解除する。
視界に入った自分の髪が元の色に戻ったのが分かる。


「……ありがとう、アサシン」

『お役に立てたのなら嬉しいです』


小太郎にお礼を言いながら、髪留めを外し髪を整える。
その時に相澤先生から何かを受け取っているいーちゃんが目に入った。


「いくぞ」

「あ……、うん」


かっちゃんに声を掛けられ、一緒にグラウンドを後にする。
……初めてだ。いーちゃんとまともに会話できなかったのが。



***



下校



いーちゃんは私とかっちゃんが教室を出るまで姿を現わさなかった。
相澤先生から何か受け取ってたのは分かってたけど、どこに行ったんだろう……。

少し気まずい空気の中、何とか明るくしようとかっちゃんに声を掛けた。


「……まあ、何はともあれ。私はまた三人一緒で嬉しいけどなぁ〜?」

「デクはいらねェ」

「もうっ、そんな事言わないの!!」


結局今日はかっちゃんと一緒に下校したので、いーちゃんと会話したのは朝が最後になってしまった。
……いつか、三人で下校できる日がくるのだろうか。



第6節「個性把握テスト」 END





2021/07/02


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