第2節「ヒーローと個性」



私の個性として現界した11騎のサーヴァント達。
サーヴァントみんなを使役して戦うとばかり思っていたのだが。



「憑依?みんなが私に?」

「そう。勿論、今まで通りに私達を使役できるけど、個性としては私達を憑依させる事で私達の力のほとんどを使えるようになるよ」



次の日

家の庭に出てマーリンが私の個性を説明してくれた。
………なるほど。この変態は、私が寝ている間に身体を調べまくった、と。何してくれてんだコノヤロー。



「なら、名前の個性は英霊に擬態できる個性……。名付けて『擬態(英霊)』ね!」

「お、お母さんっ。いつからそこに?」



庭に設置されていたベンチにいつの間にかお母さんが座っていた。
膝の上に肘をつき、手の上に顔をのせてこちらを見てニコニコと笑っている。



「どうやら貴女もヒーローという職業に就いている人間の一人のようですね、マダム?」

「あら、バレちゃった?」



マーリンの発言にクスクスと笑うお母さん。……って、今なんて言った!?



「お母さんもヒーローなの……?」

「ええ。折角ヒーローを目指すって言ってるから教えちゃうわ。私のヒーロー名は『サナーレ』。前線には出ない代わりに、怪我人の治療を行っているわ」



確かお母さんは治癒系の個性だと言っていたはず。



「でも、ヒーローって戦う人の事を言うんでしょ?お母さんは戦わないの?」

「あら、ヒーローは戦うだけじゃないわよ?私の個性は戦闘向きではないから戦えない。だけど、助けを求める声があればすぐさま向かう。……名前は悪い人達を倒すのがヒーロー、とっていうイメージが強いかも知れないけど、実はヒーローって元々は自警団ヴィジランテっていうボランティアが現れたのが始まりなのよ」



確かに、私の中のヒーロー像は戦う人のイメージが強かった。
ヒーローというのは戦う人ではない、助けを求める人を救いに来る人の事なんだね……!



「名前は優しいから、ヒーローに向いてるわね」

「そ、そうかなぁ……」

「マスターが優しい子だと言うのは同感だね」

「マ、マーリンまで……っ」



そ、そこまで正面から褒められると……流石に照れる。



「あっ。ね、ねぇ、お父さんはどんなヒーローなの?」



話題を変えたくてお母さんにお父さんについて強引に話題を振る。お母さんの反応からに、私の考えは丸見えのようでまた笑われてしまった。



「お父さんのヒーロー名は『アクア』。個性は『ハイドロリック』って言って自分の水分を使って戦うのよ。簡単に言ってしまえば水人間ね。だから主食は水分よ」



だからお父さんあんなに水分取ってたのか……。個性って面白いなぁ。



「お母さんはお父さんと一緒にパトロールしなくていいの?」

「私は呼ばれないと意味ないからね〜。それに、今は貴女という存在が誰よりも守らなきゃいけない存在だから」



お母さんの手が私を撫でる。……優しい手つきだ。



「どちらかの個性が強く出るが、お互いの個性が混じった個性になるかと思ってたんだけど……。全く別物の個性が出ちゃったわね」



その言葉は、昨夜お父さんお母さんが話していた内容のことだとすぐに分かった。



「……ごめんなさい」

「あらいいのよ♪事例は少ないけど、両親の個性とは全く別物の個性が出る『突然変異』の個性っていうのがあるから。だから気にしないで」

「……うん」



“両親の期待に応える”

それは私にとって当たり前の事だった。だけど、目の前にいる新しい私のお母さんは本当に気にしていないようで。



「私、二人のようなヒーローになれるように頑張るよ」

「ヒーローになってくれるのは凄く嬉しいけど、道のりは厳しいわよ〜?それに、ヒーローになりたい子は沢山いるの。ライバルは思っている以上に多いからね?」



それに、私の気持ちを尊重してくれる。
前の両親は私の意見なんて聞いてくれる以前の話だった。……ただの道具でしかなかったから。
本の中の物語で良く見た両親像を自分が体験するとは思わなかった。



「私達の子供だからヒーローになる。……そんな事は考えないでね。貴女のなりたい自分になってね?」

「!」



どうやら私の考えは思ったよりお母さんに筒抜けらしい。



「でも、私はヒーローになりたいな。誰かを守れるようなヒーローに」

「……なら、志望動機を聞こうかしら?」



そう言ってお母さんは、私の正面に立ってメモを取る振りをした。どうやら面接官になりきっているらしい。



「私ね、ずっとサーヴァントみんなに守られてきたの。……私に戦える力があれば、お別れしなかったかもしれない人がいたの。……だから、戦える力があるなら私は戦えるようになりたい」

「例え、自分が死のうとも?」



お母さんの目が細くなる。……私を試してるのかな。



「私、守れるなら死んだって構わない。……私の所為で誰かがいなくなるのは、嫌だ」



表情が一切変わらないお母さんを見て、少し不安になる。だめ、だったかな……。



「……最近ね、ヒーローという職業を勘違いしている子が増えてきているの」

「勘違い?」

「そう。さっきヒーローという職業はボランティアだったって言ったでしょ?私達ヒーローは見返りを求めてはいけない。……本当は自分を犠牲にしてでも戦う精神がヒーローには必要なの。でも、その点においては名前は合格よ」



そう言ってニコッと笑うお母さん。どうやら私の回答は正解だったみたいだ。



「でもそれはヒーローとして見た場合。親視線から言うと自分を大切にしてほしい、って思っちゃうわ。……ヒーローと親の両立って難しいわね」



困ったようにお母さんはそう言った。……ヒーローは見返りを求めてはいけない、か。



「それがヒーローとしての在り方なら、私は反対だ。マスターは自己犠牲の塊だからね」

「うっ」

「私は二度とマスターを失いたくないんだ」



後ろから抱きついてきたマーリン。それが彼の心情を表しているようだった。



「……私だってみんなを守りたいの。……だめ、かな」



マーリンの顔を見上げる。アメジストのような綺麗な紫の瞳と視線が合う。



「………はぁーっ、そう言うと思った」

「! ならっ!」

「君のためなら力を貸そう。だけどねマスター、私は君さえ生きていれば他の人間はどうだっていいんだ。だから私は誰よりも君を優先して守るよ。死なせるものか。……例え、君が死を求めてもね」



「それに、マスターを守るのはサーヴァントの役目だからね」とマーリンは微笑んだ。……少し物騒な事を言われた気がするんだけど、気のせいかな。



「さて、面接はお終いよ!次は名前の個性を見せて?」



両手で手を鳴らしながらお母さんは話題を私の個性に変える。



「う、上手くできるかな……」

「大丈夫だよマスター。私がしっかり導くからね」



不安な心がマーリンの言葉で除かれる。
マーリンといえば、あのブリデンの王アーサーを導いた魔術師である。指導において彼以上の人物はいない。……私はてっきりギルが見てくれると思ってたんだけどなぁ。





2021/03/17


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