第3節「林間合宿 後編」



「肉ウウウウウ!!!!」


まずい!障子君の元にヴィランの攻撃が!!
しかし、運良く黒い影のお陰で攻撃を受けることはなかった。それと、あの黒い影がヴィランを捕まえたようだ。
ありがたいけれど、あの黒い影は一体……


「! 常闇君……?」


何故あの黒い影の中に常闇君が?……いや、よく見ればあの形は彼の個性の黒影ダークシャドウでは……!?
しかし、なんて威力だ。普段から見る彼の個性とは大違いだ。言い表すなら……“暴走”と言った所か。


「早く光を!常闇が暴走した!!」


やはり暴走だったか。
確かにかっちゃんと焦凍君の個性は常闇君にとっては最大の弱点だ。二人なら常闇君を助けられる。


「見境なしか……。名前、こいつを頼む」

「うん」


焦凍君からB組の子を受け取り、両手で抱える。
……意識がないだけか。どうやら有毒ガスにやられているようだ。……大地から魔力を借りてこの子の中にある有毒ガスを取り除く。


「よし、炎を……」

「待てアホ」


かっちゃんが焦凍君の言葉を遮る。
かっちゃんはジッとヴィランを見つめている。……まさか、暴走した常闇君にあのヴィランを倒させるって事?


「なるほど……使えるならとことん利用するって訳ね」


確かに私達には地形の相性の悪さと攻撃の手数のなさで圧倒的に不利だった。しかし、今の常闇君ならばあのヴィランを倒す事が出来るはず!!


「肉……肉……!ダメだ、許せない……この子達の断面を見るのは僕だァ……。横取りするなあああああ!!!」

「強請ルナ……三下ァ!!」


なんて力だ……!
あれだけ私達が苦戦していたあのヴィランをいとも簡単に……!


「暴れ足りんぞおおおおおお!!……ひゃんっ」


かっちゃんと焦凍君の個性のお陰で、先程の凶暴性はどこへやら。黒影ダークシャドウは大人しくなった。


「……てめェと俺の相性が残念だぜ」

「……すまん。助かった」


弱点があるからこそ、強さって輝くと思う。
だって弱点がないただの強さって理から外れていると思うんだ。……私が良い例だと思う。

どれだけ異常な魔術回路を持っていようとも、結局負けて死んだ。……どれだけ強かろうとも、負けるときは負ける、死ぬときは死んでしまうのだ。
そんな弱点を抱えながらどう扱うのか。……それが戦うって事なんだと私は思うんだ。



***



「いーちゃん、障子君……その怪我」

「あっははは……」

「……」


いーちゃんは苦笑いを漏らし、障子君は無言で目を逸らした。
どちらにせよ、その怪我を放って置くわけにはいかない。


「ほら、怪我してる所を見せて」


いーちゃんは見れば分かるとおり前までよく見かけていた異常なまでの腕の腫れ具合に骨折、障子君は複製した腕をさっきのヴィランに切断された事による出血だそうだ。
障子君の怪我は出血を止めれば解決だけど、いーちゃんの怪我は相当負担がかかりそうだな。


「待って名前ちゃん!確かに君の個性だったら怪我は治せるけど、名前ちゃんに負担が……っ」

「そんな今は関係ないよ。……その場で応急手当ができるよう使えるようになりたかった。だから職場体験で学んで、この合宿で実践した。ここで使わなきゃ、学んだ意味がない」


未だに出血している障子君の手に触れ、魔力を注ぐ。
複製した腕であろうとも、怪我である事に変わりない。

それに、こういう状況の為に使えるようになりたかった。……あの時の飯田君の様にさせたくなくて。此処で使わなくて、どこで使えというのか。


「さ、次はいーちゃんだよ。腕、触るね」


まずは酷く腫上がっている右腕から……。
いーちゃんが痛がらないようそっと腕に触れ、魔力を流し込んでいた時だった。


「!?……げほッ」


急に心臓が大きく脈打ったと思えば身体を武器で刺された感覚がした。実際に刺されたわけじゃないのに、身体が貫通したような痛み……そして、口の中に広がる鉄の味。
思わず口を手で塞ぎ咳き込むと、掌に何か生暖かいものが付いた。……ゆっくりと掌を見ると、そこには血が付着していた。


「名前ちゃん!?」

「うっ……なんで……?」


同時に擬態状態も強制的に解除されてしまった。
マナを使っていたから魔力という部分では自分に対しての負担はないはず……いや、ある。
恐らくこれはサーヴァント達から魔力を分けて貰う奴と同じものなのでは?

前世ではマナを使う事なんて造作もない事だった。
……まさか、個性となってしまった事で私の知っている魔術と別物になってしまっている……?





2023/9/16


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