第3節「林間合宿 後編」


side.マンダレイ



苗字名前さん

林間合宿当日、クラスメイトの誰よりも早くこの施設へやって来た子だったから印象に残っていた。……個性と共に。
彼女の個性は『擬態(英霊)』という今までに聞いた事のない個性だった。サーヴァントと呼ばれている存在は私達と同じ人間にしか見えないのに、苗字さんの個性であると知り驚いたのは最近の事だ。

それと、彼女がNo.5ヒーローのアクアさんとサナーレさんの娘だという事にも驚いたっけ。確かに個性は二人のものを継いでいないけれど、私は別の所が気になっていた。……私の従兄弟の子供である洸汰だ。

彼女は洸汰とある共通点がある。……両親がヒーローだと言う事。だから苗字さんがヒーローを目指しているという姿を見て、もし洸汰も真っ当に育っていれば彼女の様に……と密かに思っていた。

そんな苗字さんは過去に起きた『USJ事件』で今目の前にいるヴィラン連合に狙われている事をイレイザーから聞いていた。確かに彼女の個性は強力だ。合宿中に見ていた。

あれは確かにヴィランも欲しがるだろう。彼女一人の為だけではないだろうけど、雄英が警戒した上で私達に合宿の件を依頼してきたのも納得ができる。


『マスターが危険な状況にあるのなら、その規則とやらを破ってでも俺は戦う。……大切な人が目の前でいなくなる瞬間は、もう見たくない』


ランサーさんは前に言った事を本当に目の前でやってみせた。
訓練中は苗字さんの相手をしていた為実際の実力が高いのは分かっていたが、明らかに人間離れした動き……あれがサーヴァントの実力……!

スピナーと名乗ったヴィランの武器とランサーさんの武器がぶつかり、重々しい金属音が辺りに響く。武器事あのヴィランを斬ろうとする勢い……パワーだったら完全にランサーさんが上だ。


「だめっ、落ち着きなさいランサー!!」


彼女も分かっているようだ。……このままではランサーさんがあのヴィランを殺してしまう可能性があることを。


「___でも、今はその優しさが仇になったわね」

「……かはッ」


マグネと名乗ったヴィランは苗字さんの項を叩いた。その衝撃で苗字さんは気絶してしまった。……その瞬間だった。


「消えた……!?」


苗字さんが気絶させられた瞬間、ランサーと呼ばれていた青年の身体が輝きだし消滅した。……まるでその場に初めからいなかったかの様に。


どれだけ強くとも、必ず弱点はある。
いろんな事に使われる言葉だけれど、それは苗字さんも例外ではなく。


『でもうちのサーヴァント達は、はっきり言って強いですよ。そう簡単にヴィランには負けません』


そう言っていた苗字さんの言葉を思い出す。
個性というものは身体能力の1つであり、弱点だって限度だってある。サーヴァントと呼ばれていたランサーさんかれの……サーヴァントかれらの一番の弱点は何よりも守りたいと言っていた彼女だったのだ。

苗字さんの意識がなくなってしまえばサーヴァントは存在する事ができない。
……どういうからくりなのかは詳しくは知らないけれど、今目の前で起こったことから考えるとそれだけは分かる。


「流石に貴方達英霊を相手にするのは厳しいから、必然的に彼女を気絶させるしかないのよねぇ」

「こらマグ姉、傷つけるなって言われてるだろ」

「大丈夫よ、項を叩いただけだから」


ピクシーボブは苗字さんを庇って重傷、彼女が庇った苗字さんも気絶させられてしまった。
この二人が離れてさえくれれば苗字さんを安全な場所に……いや、ヴィランがそんな隙を与えてはくれないだろう。何せ目的があって此処にいるのだから。

しかし、苗字さんが目的だったならば既に達成したはず。何故撤退をしない?させる訳ないけど、その素振りが見受けられない。
……まだ何か、目的があるというの?


「っ!?」

「おいで〜飼い猫ちゃ〜ん」


これは___マグネの個性!!
だめ、このままじゃ……!


「そう同じ手、させぬわ!!」


虎が割り込んでくれたお陰で助かった……!


「何をしに来た犯罪者……!」

「虎、おかしいよっ。まだラグドールの応答がない!いつもならすぐ連絡寄越すのに!」


そう、ラグドールからの応答がまだないのだ。


「さぁ?何故かしらね?」


マグネの声はどこか含みのあるものだった。
まさか、ラグドールに何かあったの?

予想外のヴィランの襲撃。彼らの目的の1つは苗字さんで間違いないはず。だけど、虎の尋ねた言葉にあの返し方……まだ他に目的があるのは間違いないはず!!

ピクシーボブと苗字さんを安全な場所へと移動させたいけど……!?


「苗字さん……?!」


ピクシーボブの側にいたはずの苗字さんがいなくなっていたのだ。
彼女のものと思われる少々の血痕を残して。





2023/8/5


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