第2節「林間合宿 前編」



名前ちゃんは昔個性という事に、この超人社会に対して冷めていた。
表上は楽しそうにしているように見えたけど、実は楽しいとは思っていない。最初はそんな印象だった。

そんな彼女だけど、ある日。
自分もヒーローになりたいと僕に告白した。
それは僕達が幼稚園を卒園したばかりの時だった。


『名前ちゃんもヒーローになるの!?』

『うん、私もヒーローになる』


名前ちゃんは昔から大人っぽい人だった。
同い年のはずなのに何故か歳上のような包容力があった。
今でも、ふとしたときに感じる事がある。
そんな彼女が初めて年相応に見えた瞬間だった。


「……もし、名前ちゃんは両親が物心つく前にいなくなったら、どうなっていたと思う?」


洸汰君の話を聞いて、もし名前ちゃんが同じような状況に陥ったら……。
ヴィラン連合に狙われている彼女だからこそ、不安になった。
無いと分かっているけれど、もし名前ちゃんがヴィランの手に堕ちてしまったら___。


「もしかしたら、道を踏み間違えていたかもしれないね」

「……っ」


洸汰君の事情を聞いた後、名前ちゃんが言った言葉だ。あっけなく、さらっと口にした発言に僕は言葉を失った。その後「でも、」と彼女は言葉を続けた。


「人は誰かがきちんと正しい道へ導けば、ちゃんと正しい道を歩むよ。……だから、その状況に陥ったとしても、手を取って歩み寄る事が大切なんじゃないかな」


こちらを見る名前ちゃんの瞳が何処か寂しそうな気がして。
彼女が口にする言葉がどこか借り物のような、そんな感じがした。

たまに名前ちゃんが分からない時がある。彼女はどこか不思議という言葉が似合っていて、中学までは周りの女子からも「近寄りづらい」って印象が強かったらしい。
独特の雰囲気を纏っている。それが名前ちゃんだった。


「よっぽど洸汰君が気になるんだね」

「うん。だって僕達の周りにはヒーローになりたい!って人ばかりだったから。それに、僕が洸汰君ぐらいの時はオールマイトに夢中だったし、ヒーローが嫌いって思ってるのが珍しくてさ」

「確かに。いーちゃんもかっちゃんもオールマイト、オールマイトって昔からずーっと言ってたもんね」

「あはは……」


そんな君がヴィランなんかに寝返ったら……。
いいや、そんなことは起こらないはずだ。

だって名前ちゃんは何も出来なかった僕の側にいてくれたとても優しい人だ。
それに、あのアクアさんとサナーレさんの娘さんだし!





2023/02/01


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