第2節「林間合宿 前編」



夕食の準備を手伝った後、私も晩御飯を頂くことに。
やっぱりみんなで食べるご飯が美味しいよね!
いーちゃんとかっちゃんの間にお邪魔させてもらった。


「英霊全員を呼び出してたから先に着いてたの!?」

「うん。いーちゃん達よりボロボロではなかったけど、精神的に痛い思いはしたかな……」


そういえば前世でも多くても6騎同時にしかレイシフトしてなかったな……。
ここにマナが少し満ちてて良かった……なかったら絶対その場で倒れてる。まあマナがあったからこんな判断をしたんだけどね!


「見たかったなぁ!今見た事ある人はルーラーさんとキャスターさん、アサシンちゃんと……そういえば名前が一緒の人いるよね?」

「正確に言うとあれは名前じゃないんだ。英霊をサーヴァントとして召喚する為の器の事を『クラス』っていうんだけど、彼らをその器の名前で呼んでるだけでちゃんとした名前はあるんだよ」

「そうなのか……。それって僕も知ってるかな?」

「うーん、知ってるかも知れないし、知らないかもしれない。歴史の人物に詳しいならわかっちゃうかもね」


特に、日本出身である小太郎と四郎はもしかしたら分かるかも。

個性の事になるととことん追求しちゃういーちゃん。
……これがもし『個性』としてではない別の概念だった場合、いーちゃんは興味を持ってくれたのだろうか。


「名前、エビフライ」

「はいはい、お皿頂戴」


「ん、」と差し出されたお皿を受け取り、いくついるのか尋ねる。
指を2本立てたのでエビフライを2つお皿へ乗せ、本人に返す。


「いーちゃんも何か取って欲しいのある?」

「あ、じゃあ唐揚げを3つ」


いーちゃんからお皿を受け取り、唐揚げを3つ乗せて本人に返そうとした。


「いーちゃん?」

「あっ、ごめん。ありがとう」


ボーッとしていたので声を掛けると、こちらを見て謝った後お礼を言いながらお皿を受け取った。
いーちゃんの視線の先には小さな男の子、『出水 洸汰』君がお手伝いをしている所だった。

先程みんなが帰ってきた時に、マンダレイさんの従兄弟のお子さん…つまり従甥だと紹介された。
態度は現在私の隣に座っているかっちゃんにどこか似ている気がする。そういえば轟君にも言われてた。


「気になるの?あの子の事」

「うん……」


どうやらいーちゃんは洸汰君が気になっているようだ。
夕食の時間が終わるまで、いーちゃんは洸汰君を目で追っていた。



***



「名前ちゃん!みんなでお風呂はいろっ!」


……と、お茶子ちゃんに誘われて現在
私はA組女子と一緒にお風呂に入っている。

小学生の時も中学生の時もこういった団体で入浴する事はあった。もっというと前世でもサーヴァント達とお風呂に入ったことはあるので他人の前で裸体を晒す事に抵抗はない。……あ、勿論同性に限った話ね?
流石に異性に対しては恥はあるよ……。


「やっぱりサナーレの娘さんってだけあってスタイル良いわ〜」

「お茶子ちゃんもスタイル良いよ?」

「もう名前ちゃんったらお世辞は良いってば!」

「お世辞じゃないのに」


顔を少し赤く染めながら手をぶんぶんと振るお茶子ちゃんは乙女らしく可愛い。

……私にはそういう時期がなかったからなぁ。
これも出世が原因だったんだけどさ。あと年齢かな。
見ていて微笑ましい。


「まあまあ、飯とかはねぶっちゃけどうでもいいんスよ。求められてんのってそこじゃないんスよ。その辺分かってるんスよオイラ〜。求められてんのは、この壁の向こうなんっスよ〜」


……なんか聞こえたような。
気のせいじゃなければ聞き覚えのある声が……。


「……もしかして」

「峰田ちゃんかしら」


鋭いな、百ちゃんと梅雨ちゃん。
うん、やっぱりこの声は峰田君だったか。


「まあ、思春期男子って感じだね」

「なんか前から思ってたけど、名前って大人みたいな事言うよね」

「そうかな?」

「わかる〜!経験豊富って感じ!」


これがガールズトークという奴か。
経験豊富、ねぇ……。まあある意味豊富と言えるかも。


「この際はっきり聞いちゃおっかな〜?……ズバリ!あの幼馴染二人とサーヴァントさん達、どっちが好きなのか!」

「なんか前にも似た様な事聞かれたような……」


ビシッ!と人差し指をこちらに向ける三奈ちゃん。
これは逃げられそうになさそうだ。


「そんなこと言われてもサーヴァント達もいーちゃんもかっちゃんも大事だよ。勿論、三奈ちゃんやみんなだって」

「上手く誤魔化そうったってそうはいかないぞ〜!えいっ!」

「ひゃっ!?ちょっと三奈ちゃんどこ触ってるの!?」


三奈ちゃんにくすぐられ、我慢できず笑っていると飯田君の声が聞こえた。


「峰田君、止めたまえ!!君のしている事は己も女性陣も貶める、恥ずべき行為だ!!!」


そう。
この温泉、男子側と女子側で分かれているのだが、その仕切りが壁1枚だけなのだ。
なので、飯田君ほどの声量はこちらにはっきり聞こえるわけで。


「峰田の奴……!」

「反省してないわね」


前回女子更衣室にあった小さな穴の件で、A組女子が抱く峰田君の印象はかなり最悪の様だ。


「ま、まあ峰田君は素直だよね。……欲に」

「流石の名前も上手いフォローできなかったか」

「響香ちゃん。人間には大きく3つの欲があるって言われていてね、峰田君は食欲と睡眠欲よりそっちの欲が強いんだと思う……」

「苗字さん、無理しなくていいんですよ?」


なんとか峰田君をフォローしてあげようと思ったが、残念ながら手遅れのようだ。
今までの行いで既に彼は救われない運命なのだろう……。


「壁とは……乗り越える為にある!!プルスウルトラアアアアアア!!!」


まさか此処で校訓を出すとは。
峰田君、君の今の行動は我が校の校訓を穢しているんだ……。

だって声が段々はっきり聞こえるようになってきてるんだもん。あと、このブヨンブヨンって音、峰田君が登ってきてるって事じゃないの?


「えっ!?峰田マジかよっ!?」

「登ってくるん!?」


素晴らしい行動力である。
逆に賞賛してしまった……。
これはもう苦笑いを浮べるしかない。

誰もが男女の仕切りとして存在する壁の上を見ていた時だった。


「ヒーロー以前に、人のあれこれから学び直せ」


ヒョコッと現れた人物…洸汰君だ。
刹那、ペしっと音がしたと思えば「クソガキイイイイィィィ!!!!!」と峰田君の声が聞こえた。
……多分、落ちたんだと思う。
バシャアンッと音がしたので湯に落ちたんだろう。


「やっぱり峰田ちゃん最低ね!」

「ありがと洸汰く〜ん!!ウェイウェ〜イ!」


こちらに振り返った洸汰君に私もお礼の意味を込めて手を振った。
……その瞬間だった。


「!? わっ、わああああああっ!!?」


バランスを崩したのか、洸汰君が落下してしまったのだ。
……危ない!!
カルナを呼ぼうとした時、「危ないッ!!」といーちゃんの声が聞こえた。


「デク君の声がしたね?」

「緑谷がなんとかしてくれたのかな?」


お茶子ちゃんと響香ちゃんの言葉を聞きながら安心したその時だった。
カンっと金属音が男子風呂に聞こえたのは。……嫌な予感がする。





2023/02/01


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