第1節「水泳」



「クソがっ!勝負の邪魔しやがって!」

「まあまあ」

「気持ちは分かるけど、少し落ち着けよ。緑谷も轟もクラスメイト、仲間だろ?」

「うっせェ!!」


太陽が沈みかけ、空が夕焼けに染まっている現在。
先程の水泳競走決勝戦を邪魔されて機嫌が悪いかっちゃんを私と切島君が落ち着くよう声を掛ける。


「……誰だろうが俺の横に、ましてや前にいさせねェ!オールマイトを超える事……No.1ヒーローを超えるって事はそういう事だろうが」


今でもかっちゃんの前にいるのはオールマイト先生なのだろう。
かっちゃんを間に挟んで歩く切島君と目が合い、互いに微笑んだ。


「なるほどな。面白い奴だな、奏者の幼馴染とやら!」

「あぁ? 誰だテメェ」

「余を知らんのか?まぁ良い、教えてやろう。余は至高の芸術にしてオリンピアの花!ネロ・クラウディ……むぐッ!?」

「ちょ、ちょっとセイバー!?ダメでしょ真名言ったら!」


先程相澤先生の個性にかかってしまい、ネロ達は一時的に消えていたのだ。
(皇帝なので当然なのだが)上から目線で自分について語りだしたネロの口を慌てて塞ぐ。


「むぅ、何故だ」

「保険だよ、ほ・け・ん!」

「心配せずとも余は真名が割れた所で負けるサーヴァントではない。奏者も”よく”分かっておるだろう?」


彼女が強いのはよく分かっている
しかし、前世の頃の名残がある所為で真名を言わないよう注意してしまうのだ。

名残
私が前世で生まれる際に埋め込まれた知識の事だ。
聖杯戦争についての知識も入れられていた私には、その事についても詳しく脳に刻まれている。……今現在も、一ミリも忘れることなく。


「ネロ? どっかで聞いたことあるな……」

「えっ!?」


待って待って!?
確かにネロは有名だけど、世界的な知名度を誇っている訳ではない。
普通の生活では知る事がないはず……。


「あ!思い出した!ゲームのキャラにいた気がする!」

「げ、ゲーム?」

「そう!でも、ゲームでは男性だったような……」


ゲーム?
有名人を題材としたゲームがあるのか?
切島君の言葉にそう思っていた時だ。


「『ネロ・クラウディウス』。……ローマ帝国の五代目皇帝。女だったら女帝だろ」

「おー、爆豪詳しいな」

「調べたんだよ」


ん、と切島君にスマホの画面を見せながら、かっちゃっが私を見た。
その鋭い視線から目を逸らせなかった。


「……これはもう誤魔化せないなぁ」

「じゃあ本当にネロ・クラウディウスなのか?」

「そう、その本人だよ。男性として伝わっているみたいだけど」


これはもう隠す事は出来ない。
なので彼女の真名が『ネロ・クラウディウス』である事を伝えた。


「だけど、この事は他言無用でお願い」

「なんで?」

「サーヴァントにとって真名……自分の名前を知られるのは『弱点』を知られたと同義なの。だからネロの名前は私達だけの秘密にして欲しい」


かっちゃんと切島君の目を見て伝える。
切島君は「分かった」と頷いて了承してくれた。
未だに黙っているかっちゃんに視線を向ける。


「そこの女の名前が分かろうが、俺にはかんけーねぇ」

「……そっか」


意外とかっちゃんは秘密を守ってくれるのだ。
だからこの事を広げられる事はないだろう。
……いーちゃんが絡むと面倒になるだけである。


「何!?余の事がどうでもよいと申すか!!」

「こら、ネロ?」

「おい名前、そこの女どうにかしろ」

「かっちゃん? 女性に向かって女って言っちゃダメでしょ? そんなんじゃ女の子に嫌われるよ?」

「うっせ!!!」


なんかさっきよりも強く怒鳴られた気がする……。図星だったのかしら。
切島君とかっちゃんとそれぞれ別れ、ネロと二人で帰り道を歩く。
ネロの真名について最後まで口酸っぱく言ったのでうっかりバラしてしまう、なんて事はないと思うけど……。
いくら向こうの世界と違うからって用心するに越したことはない。何が起こるか分からないのだから。


「……もう、この自分大好き皇帝め」

「そんな余が好きなのは誰だ?」

「……私ですよー」

「うむ!余も奏者が大好きだぞっ。いや、愛している!!」

「お願いだから此処で大声出さないで……。恥ずかしいから」


ここどこだと思ってるのだろうか……住宅街だよ?住宅街。
聞こえてる所は聞こえるんだよ?
まあでも、この皇帝様はそんなの気にしないんだろうなぁ……。


「……そういえばセイバーは復活したけど、アヴェンジャーとアサシンはまだだね?」

「この根性無しどもめ。気合いが足りんのだ、気合いが」


これって耐久度の話なのかしら……。
あれ、でもジャンヌはネロより耐久ランク高いよね?
……あれ、もしかしてスキルの話?



***



「しかしこちらでは余は男なのだな」

「そうだね。前の世界でもネロは男性だと思われてたみたいだよ?」

「ふむ。しかし気になるな、男の余!きっと美少年だったに違いない!こんなにも余は美しいのだ!うむ、間違いない!」

「……はぁ」



第1節「水泳」 END





2022/2/17


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