第5節「轟焦凍」
「おはよう」
「「「おはようございます!!!」」」
ガラガラ、と音を立てて教室のドアが開く。
入ってきたのは相澤先生だ。あっ、包帯取れてる!治ったんだ!
「今日のヒーロー情報学は、ちょっと特別だぞ」
相澤先生の放った言葉に教室の雰囲気が変わる。
特別とは、何を意味しているのか。
黙って相澤先生の言葉を待つ。
「コードネーム、『ヒーロー名』の考案だ」
「「「胸膨らむ奴来たああああっ!!!」」」
みんなの反応とは反対に私は固まっていた。
……ヒーロー名、全く考えてなかった!!!
相澤先生が個性を発動したことでシーン…と教室は静かになる。
なーんかこのくだり、前にもあったような……?
このヒーロー名考案が、プロヒーローからのドラフト指名に関係してくるらしい。
指名が本格化していくのは経験を積み、即戦力と判断される2、3年からだが、今回の指名は将来性に対する『興味』に近いようだ。
また、その興味も卒業までに削がれる事があり一方的に断られる事も良くあるそうだ。
「頂いた指名が、そのまま自身へのハードルになるんですね!」
「そう。で、その集計結果が……こうだ」
透ちゃんの言葉に肯定し、相澤先生は持っているリモコンを操作した。
黒板に現れたのは指名の結果だ。
えーっと、何々……?
「3120……あ、かっちゃんに負けた」
「ハッ、まだまだだな」
ちょっと嬉しそうなかっちゃんは置いておいて。
私を指名した所は3120件。
どうやら今年は私、かっちゃん、轟君に集中したらしい。
「あの試合でこの件数の指名が貰えたのは……良い方なんだよね?」
「俺と比べて見ろよ……どう見たって良い方に決まってるだろぉ……」
隣の席である瀬呂君にそう尋ねると、落ち込んだ様子でそう返事が返ってきた。
な、なんかごめん……。
「この結果を踏まえ指名の有無関係なく、所謂『職場体験』に行って貰う」
職場体験か……!
私が行きたい場所は既に決まっている。
ヒーロー『アクア』と『サナーレ』が共同で運営している事務所だ。事務所名はアクア事務所らしい。
実際にこの目で見たいんだ。……憧れたヒーローがどのような活躍を、貢献をしているのか。
「お前等はUSJの時に、一足先に敵との戦闘を経験してしまったが……。プロの活動を体験して、より実りのある訓練をしようってこった」
「それでヒーロー名か……!」
「俄然楽しみになってきた!」
砂藤君の声が聞こえ、肩がビクッと跳ねる。
ヒーロー名……ヒーロー名どうしよう……?とりあえず仮で適当に付けとく?
「まぁ、そのヒーロー名はまだ仮ではあるが……適当なモンは___」
「付けたら地獄を見ちゃうよ!!」
相澤先生の言葉を遮ったのは、ミッドナイト先生だ。
ミッドナイト先生が言うには、学生時代に付けたヒーロー名がそのまま世に認知された事でそのままプロ名になっている人が多いらしい。
……そんなぁ。それじゃあ適当に付けられないじゃない……!!
「まぁそう言う事だ。その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。俺はそういうのできん」
そう言って相澤先生は寝袋を取り出した。……え?
「将来自分がどうなるのか……名を付けることでイメージが固まり、そこに近づいていく。それが、名は体を表すって事だ。オールマイト、とかな」
オールマイト先生は間違いなくオールマイティから来てるよね。分かりやすい。
でも本当にオールマイティだもん。そりゃ、いーちゃんもかっちゃんも憧れる訳だ。
かっちゃんからボードを受け取り、後ろの席に座るいーちゃんに回す。
「……いーちゃん?おーい」
「……はっ!ご、ごめんっ」
いつまでも受け取る気配がないので後ろを振り返る。
ボーッとしているようだったので彼目の前で手を振ると、やっぱりボーッとしていたようだ。謝りながらボードを受け取り、いーちゃんは後ろの席に座る峰田君に回した。
「どうしたの?考え事?」
「いやぁ……ヒーロー名どうしようかなぁって思ってて」
「いーちゃんも悩んでるの?実は私も!」
いやいや、同じ人がいたからって喜んでる場合では無い。
この状況を打破するには、適当にでは無く真剣にヒーロー名を考えなくては……!
2021/07/25
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