星がジョージを連れてきた
私が住むこの島は空気が綺麗らしく、流れ星がよく見えた。小学校のころはよく、家の裏に広がる砂浜に寝転んで星を眺めたものだ。
そしてある日、小学生だった私は流れ星に願いをかけた。当時好きだった、隣の家の丈司(ジョージ)くんと仲良くなれますようにって。
誰にも言わないでいた初恋を、私は流れ星だけに教えたのだ。なのに、私の願い事をのせた星はなかなか流れて消えてくれなかった。
驚いたことに、それは星じゃなく、飛行機のライトだったのだ。
誰にも教えなかった秘密を、誰が造ったのかもわからないライトに託してしまったことに私は酷く絶望した。それ以来、私は夜空を見上げることをやめた。
どうかあの飛行機の行き先が外国じゃありませんように。私に出来ることは、私の願いをのせたそれが国内便であることを祈ることだけだった。
丈司くんと仲良くなれますように、なんて子供みたいな願いが海を越えたところまで行ってしまったなら多分私は三回くらい死ねる。
この初恋は実らなかったから尚更だ。
中学を卒業する前に、丈司くんの家族は引っ越してしまった。隣に住んでいたのに、私が気付いたのは空き家になったそれを見てからだ。星は心底意地が悪い。
逃げるようにいなくなってしまった丈司くんは今もどこかで元気にしているだろうか。手紙を交わすほど親しい間柄でもなかったのだ。丈司くんの現在を知る手立ては何もない。
そして今日。
高校二年生になった私の住む家の隣に、新しい家族が越してきた。逃げるようにいなくなった丈司くんの家に、逃げ込むようにその家族はきたのだ。
真夜中、寝ようとしたところにインターホンが鳴る。唯一起きていた私が扉を開けば、あの日見た飛行機のライトのような髪を持つ同い年くらいの男の子が立っていた。どうみても外国出身であろう彼に私は固まる。
どこかでサバイバルでもしてきたというような彼の身なりにそっと眉をよせれば。
「……はじめまして、夜分遅くに申し訳ありません。僕の名前はジョージといいます。どうか、どうか、僕たち家族を助けてください」
「……え?」
星は本当に性悪だ。あの飛行機はどうやら国際便だったらしい。私の願いをのせたそれは、海の向こうからジョージを連れてきた。
確かに連れてきてくれたが、それは明らかにジョージ違いだ。
「詳しくは話せませんが僕たちは今追われています」
しかも、だ。
逃げるようにやってきた、流暢に日本語を操る彼(とその家族)は、リアルに何かに追われているらしい。
【完】
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