novel3 | ナノ



06

1905年、6月6日、スピードワゴン石油の社長、R・E・O・スピードワゴン氏と、ジョースター貿易会社兼MJ商会の名誉会長、リリアン・メアリー・ジョースター嬢 結婚──
そのニュースは地方の小さな新聞に載り、実業家や起業家が集う社交界に瞬く間にリリアン達の入籍の事実が広まった。
爵位をジョージJr.に継承した時期が近かったのもあって、口さがない者はリリアンは貴族の位を捨ててまで一般人のスピードワゴンと結婚した変わり者だと言ったり、スピードワゴンは元貴族のお嬢様と金の為に結婚したなどと囃し立てられはした。
けれど、多くの人は以前から自分達の関係を微笑ましく思ってくれていたようで、圧倒的に祝いの声の方が多かった。
ついでにリリアンはその若さの秘訣を問われて、波紋法に関して正直に答えた。
ワインでその技術を披露し、テーブルクロスを使って技を披露すれば、素晴らしいマジックだ!とパーティでは大盛り上がりになった。
意外と沢山の人間に好意的に受け止められたので、リリアンは少しほっとした。
何人かに本気で波紋の修行をつけて貰えないかと言われたので、チベットへの紹介状を書いておいた。
イタリアで修練場を作ろうとしている事を伝えると、そこでなら是非!という人も居た。

ちなみに陰口を叩いた者達はその後影も形も見なくなった。ロバート氏が良い笑顔だったので何かしたのかもしれない。

式は身内だけの簡素なものにしようとしたが、それにプラスして会社の人間を招待する事になった。
イギリスからはエリナとジョージとエリザベス、そして複数名のメイドと、会社の経営を任せている家臣、ジョースター家に長年支えてくれている家令とその息子達。
そして、ロバート氏のかつての子分たち。アニキアニキ!と賑やかな彼等は、スピードワゴン石油会社の社員とあっという間に意気投合し、その後何人かの就職が決まった。

チベットには、少し悩んだが手紙を送っていた。
かつてそういう関係だったストレイツォに知らせるかどうか、招待するかどうかも迷ったのだが、知らせない方が逆に不義理だと思い、そうした。
流石に地球の反対側までは遠いだろうと思っていたが、ストレイツォはアメリカに来てくれた。
現地に来れない師匠達の祝いのメッセージも、直接届けてくれた。
久々に見た彼はリリアンと同じく全く容姿は変わっていなかったが、その雰囲気は少し変わっていた。
そして、式の後の身内だけのパーティで、その終わりがけに、彼と少し話をした。


「──いずれこうなるとは思っていたさ…お前は出会った時からずっと、スピードワゴンを目で追っていたからな」

「えっ、そ、そうでしたか…」 

「…その焦りが、私にはあった…お前の心を手にしたかった筈なのに…。無理やり迫ったこと…本当に悪かった。
だがひと時の間でも、私と共に居てくれたあの日々の事を、私は忘れない…」

「ありがとう、ございます…私も貴方と過ごせた日々を、忘れません」

「……お前は本当に…素直で…純粋で…眩しくて…、良い女だよ…ずるいくらいにな」

「…ストレイツォ…」

「では、さらばだリリアン…幸せにな…」


ストレイツォはそう言って、一人静かにその場を離れて、去っていった。その背を見送っていると、こちらの様子を離れたところから見ていたエリザベスが号泣し始めた。
母が結婚するという寂しさ、父と慕うストレイツォの恋が破れた悲しさ、スピードワゴンが家族になったことの嬉しさ、家族が増えた喜び。色んな感情が混ざってしまったらしい。
泣きながら沢山の言葉を吐き出す彼女をおろおろと慰めていると、そんなエリザベスを、なんとジョージが宥め出した。
ジョージはこの一年の間にぐんと背が伸びた。170cmまで背が伸びたエリザベスをもいつの間にか軽々と追い越した彼の身長は、まだ15歳だというのにもう180cm程ある。
流石ジョナサンの息子だなあと、リリアンはますますジョナサンそっくりになった逞しい甥っ子を見る。


「リリアンちゃ…リリアン伯母さんが困っているだろう。ほら、あっちで飲み物飲んで落ち着いて」

「うん…」


エリナとリリアン、ロバート氏を含めて、周りの大人達は二人のやり取りに顔を綻ばせていた。
それに気が付いたジョージが顔を赤らめていたが、しっかりとエリザベスをエスコートする彼は、紳士としての振る舞いも完璧だった。


「エリナ、二人はそういう感じなの?」

「うふふ、そうね、いつも喧嘩しているけど、仲直りする時はいつもあんな感じで、見ていて微笑ましいわ」

「そう…ふふ」


リリアンは掌を口に当ててにやける口元を必死に隠した。
バレたらきっと、エリザベスに叱られてしまう。
娘の恋愛事情に親が喜べば、だいたいの思春期の子供は照れ隠しから怒るものだ。
エリザベスは自分に似て恐ろしく気が強く、加えて、少し天邪鬼だ。揶揄わずとも尋ねるだけで逆方向に意固地になりそうだ。
せっかくジョージと良い雰囲気になっているのにそれの邪魔をしてはいけないと、リリアンはによによとしてしまう顔をなんとかいつもの表情に戻した。
その後なんとか落ち着いたエリザベスは、涙を拭い、改めてリリアンとロバート氏の結婚を祝福してくれた。
そうして、パーティはストレイツォが抜けた事を機に、終わりを迎えた。 

リリアンはその日以降、リリアン・メアリー・ジョースターではなく、リリアン・メアリー・スピードワゴンとなった。
養子であるエリザベスも戸籍上はエリザベス・スピードワゴンとなったが、イギリスではエリザベス・ジョースターの通名のまま過ごす事となった。


──そして、更に時が流れる。
スピードワゴン石油会社とジョースター貿易会社とMJ商会は、完全に経営を統合した。
名前を夫であるスピードワゴンの名前で統一しつつ、人材や経営状態はそのままに、会社を合併したのだ。
SPW貿易会社とSPW商会を含めて、SPW石油は世界各地に繋がりを持つ大きな組織となった。
あらゆる伝手を活かし、躍進を続けた。

そして、式から5年後の1910年、その莫大な資産を持って、財団法人を設立する事となる。
名前はスピードワゴン財団。
人類の福利厚生のため、さまざまな分野を助成することを目的として、それは結成された。
かつてのMJ商会、現SPW商会で慈善事業で関わりの深かった医療、薬学の関係者の力も頼って、財団の名は広がり、その活動は確立されていった。
そして、考古学などの分野への助成も、惜しまずに成されていった。
それはロバート氏の真の目的が、全てのきっかけとなった石仮面の謎を追う為、そして妻であるリリアンにかかった能力を解き明かす為であったからだ。


「古代文字も読めるようになってしまうなんて…レオさんはジョナサンの夢も、受け継いでくれたんだね」

「成り行きだが、そうなるのかな。あの人の夢であった考古学者…その仕事に近い事をしているのは確かだ。
その動機は違うが…きっと、ジョースターさんなら、褒めてくれるさ」

「そうだね…石仮面の秘密も…私の力の事も…ジョナサンが生きていたらきっと、その謎を追い求めていただろうから…」

「…リリアン」

「ん、なに?」

「あの人は…優しい人だった。エリナさんと新婚旅行に行く前も、ずっとお前の事を気にしてた。出発前にも、お前を頼むと、俺に言ったんだ。
それが、ジョースターさんと俺との最後の会話だった」

「うん…」

「だから、お前の身体に起こっている謎の原因が、ジョースターさんにあるかもしれなくても、絶対に“悪意”である筈が無い。」

「うん…分かってる…」

「きっと、何か理由がある…意味がある…。俺は生涯をかけてでも、それを解き明かすぜ」

「…レオさんの…負担で無ければ…」

「負担な訳ないだろ、好きな女の為に何かするってのは、男冥利に尽きるってもんだ」

「…ふふ…あなた…本当に私のこと、好きだよね」

「当たり前だろ?お前は俺の星だ。初めて見たあの時からずっと、俺だけの特別な、光だ」

「お、大袈裟だよ…。でも、私も、私を助けてくれたあの時からずっと、あなたは私の特別な道しるべだと、思ってるよ…」


ロバート氏と──レオと夫婦になり、契りを交わしてから、リリアンは彼に対しても砕けた口調で話す事にしていた。
尊敬している彼にタメ口というのは、始めのうちはなかなか慣れなかったが、共に年月を重ねていくと、その内だんだんと馴染んできてしまった。


「俺がお前を守る。寿命が尽きても守り続けられる仕組みだって、作る」

「寿命とか…言わないで…」

「すまん…だが、あの夜に誓った約束を、俺は必ず果たすぜ」

「ありがとう…その言葉だけで私、本当に、充分幸せだよ…」


リリアンは彼の優しさに溺れそうだった。
夫の腕に抱かれ、心から安心しながら、リリアンは自然と涙を溢していた。


「大好きだよ…レオさん」

「ああ…俺も…愛してるぜ…俺の、たった一つの一等星」


額にキスが降ってきて、強く抱きしめられた。
そのまま二人でベッドに沈む。
なんでもない日々、日常がただただ幸せだった。
リリアンはゆっくりと目を閉じて、その腕の中で安心して眠りに付いた。








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