novel3 | ナノ
17.5
行為が終わった後、ディオはずっとリリアンの身体を嬉しそうに抱きしめていて、その日はそれ以上の事はしなかった。
お互い素っ裸だったが不思議と寒くはなく、ずっと素肌を合わせていたいと思えるほどに心地が良い。
流行りの曲や子守唄などを鼻歌で小さく歌うディオは、とても幸福そうだった。
機嫌が良さそうな彼の顔を見ると、見た事がないくらいに優しい顔でリリアンを見つめ返してきた。
リリアンは思わず目線を逸らしてしまった。ディオに見られているだけなのに、何故か照れ臭くなってしまったのだ。
それを誤魔化す為に、リリアンはディオに話題をふった。
「それ、なんの曲…?」
「ああ…なんだったかな…母が気まぐれに歌っていた…子守唄さ」
「そうなんだ…」
彼が母親の事を口にしたのを、リリアンは初めて聞いた。お互いに早くに母親を亡くしている為、聞き辛い話題だった。
リリアンには、自分が赤ん坊の頃に亡くなった母親の思い出は当然ながら無い。
知っているのは肖像画の姿と、父から聞き、教えてもらった母親のぼんやりとしたエピソードだけだ。
リリアンとジョナサンは忙しい父に代わり、乳母や家政婦や召使いによって育てられてた。
父は双子を育てる為に仕事に励んでいたのだが、その愛はリリアン達にもきちんと伝わっていた。そして、その事に関しては何の不満も無かった。
寂しさはあっても、「もし母がいたらなぁ」と考える事もあまり無かった気がする。
けれどディオには、母親の記憶が確かにあるのだ。
その時リリアンは初めて、母親に寝かしつけて貰える事、子守唄を歌って貰いながら眠りにつけた子供が居る事を知った。
そして少し、羨ましいと思ってしまった。母と子の関係とは、どのようなものなのだろう。
母親に関して、というよりも両親が地雷原でありそうなディオには、口が裂けても聞けない事だったが。
「歌詞はあるの?」
「ん…歌詞か…ああ…、母は熱心な神の信者だったからな…一般的な子守唄に、ミサで聞いたありがたいお言葉でも混ぜていたのか…オリジナリティに溢れたものだったぜ」
「…良いね…ディオ専用の子守唄だったんだ…」
「さあ…どうかな…」
ディオは少し複雑そうな顔をして、歌詞、というよりは、聖書の一部に出てきそうな言葉をいくつか口にしながら、リリアンを強く抱きしめ直した。
暫く、そうして背後からディオに抱きしめられていると、リリアンから次第に羞恥心というものが無くなっていった。
ディオの手つきが怪しくなればその度に彼の肌を抓って抗義はしたが。けれども、肌から直接感じる体温は心地良く、次第に眠気を感じてきた。
「…部屋に戻らなきゃ」
「…ここに居ろよ」
「まだ正式な婚約者じゃないからだめだよ…」
「どうしてもか…?朝まで一緒に寝てくれよ…」
流石に血の繋がらない男女間でそれ以上はいけない。
しかし、リリアンがもぞもぞとその腕の中から出ようとすると、ディオは寂しそうな顔をして何度も引き留めてきた。
その切なげな表情にうっと言葉を詰まらせ、後ろ髪を引かれながらも、リリアンはベッドの下に落とされていた衣服を着て、身支度を整えていた。
すると、立ったまま後ろからまた抱きしめらる。
耳元で、ディオが囁いてきた。
「…次は最後までするからな、覚悟しておけよ…」
「…!せ、正式に婚約発表が、父さんから皆に伝えられてから、なら…」
「…、言質はとったぜ…じゃあな、おやすみリリアン…」
「おやすみ…ディオ…」
リリアンは足早にその場から立ち去った。胸の高鳴りと顔の暑さが酷い。
こんな顔誰にも見せられないと、慌てて階を降りて自室に飛び込んだ。
このやりとりと会話は本編の二人もしています。
次からはifルートです。
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