ガンダム00 | ナノ





日常

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24世紀、人類は枯渇した化石燃料に代わるエネルギーとして太陽光発電システムと軌道エレベーターを実用化していた。しかし莫大な建造費が必要となるこのシステムを所有し、恩恵を受けられるのは「AEU」、「ユニオン」、「人類革新連盟」の世界三大国家群のみであった。それらの超大国間には全面的な対立こそないものの、熾烈な軍備開発競争などにより、実質的な冷戦状態にあった。そして、いずれの国家群にも属さなかった小国は貧困にあえぎ、紛争や内戦が耐えずにいた。





「またテロか……」

飾り気のない部屋に静かにニュース音声が流れる。ブラウン・ゴールドの髪の毛をだるそうに耳にかけた少女は忌々しげにテレビを見やると、すぐに消した。
故郷を離れ、経済特区・日本に身を移した後でもテロや紛争の話題は次々飛び込んでくる。この世界に平和など存在しない、と安全な日本に身を置きながらも彼女は確かにそう思っていた。朝一で見たニュースがこれとは、なんとも言えない目覚めである。ベッドから起き上がると、僅かに光が漏れている窓を開けた。太陽の光をその身に浴びて、ぐぐっと伸びをした彼女の耳にメールが来たことを知らせる音が飛び込んできた。緩慢な動作で確認に向かう。そして、メールを見た彼女は大きくため息をついた。

「そんなに急がせないで欲しいわ、」

通知音と共に大学支給の端末に映し出されたのは、担当からの卒論の催促であった。
飛び級で大学へと進学し、この日本でモビルスーツ工学を学ぶ彼女は息をつくと、再び分厚い本へと目を落としたのであった。紛争やテロを毛嫌いしておきながら、その行為を助長するような技術を学んでいることは、矛盾していると自分でも思う。それ故に彼女が提案するのは常に作業用モビルスーツに関するものだけである。
設計図、資料を机の上にびっしりと並べた彼女の作業は日が傾くまで続けられた。
区切りがついたところで彼女は椅子から立ち上がり、座ったままだった体を伸ばす。そうしてふと、朝から何も口にしていないことに気が付いた。

「今日は外で済まそう」

見事に何もない冷蔵庫を見て、彼女はゆっくりとした動作で着替えを始めた。







夕暮れ時の市街は、学生が多い。一日の疲れも感じさせないような笑顔で友人と歩く女学生や、恐らくこれからバイトであろう男子学生。そんな中を彼女は小さな鞄をひとつ抱えて、少し速足で歩いていた。そう、鞄から端末が零れ落ちたことにも気が付かずに。

「すみません」

後ろからの声にも振り返ることなく、彼女は歩く。まさか自分にかけられた声だとは思っていなかったのだ。そして、もう一度同じ声が後から聞こえた時、彼女はようやく足を止めて後ろを振り向いたのだった。

「なんですか?」
「あ、あの、これ…」

振り返った先には男子学生が、端末を手にし困ったような顔をして立っていた。その端末が自分のものだと気が付き、彼女はそれに手を伸ばして受け取った。そして拾ってくれた男子学生の目をしっかりと見つめて一言、感謝を述べた。

「ありがとう」
「いえ、」

大きめの目が印象的な少年だ。おそらく日本人であろう彼は、僕はこれでと言って背を向けて去って行く。その向こう側で金髪の少女が男子学生を待っていた。それを一瞥してから、手元に戻ってきた端末を今一度しっかりと鞄に入れ、彼女もまた目的とする店へ歩きはじめた。

「いらっしゃいませ」

歩いて15分ほどのところにある小さなカフェで、適当に軽食を頼んで隅の席へ座る。いつ来てもここは人が疎らで、経営の方は大丈夫なのだろうかと不安になるが、あまり騒がしくないこの空間が好きだった。

「久しぶりだねえ、元気かい」

軽食がテーブルに置かれると同時に、柔らかい声が振ってくる。その持ち主はこのカフェの経営者である。にこやかにそう問われたのは、彼女がここの常連であることが理由だった。

「ええ、」
「卒論の方は、」
「順調、とは言えないですね」
「そうかいそうかい、まあ、無理しない程度に頑張ってね」
「ありがとう」

先ほどの学生と言い、この人と言い、日本人はなぜこうも親切なのだろうと困惑するときがある。常連とはいえ、あくまでも店と客という関係だろうに、と彼女はぼんやりと考える。
湯気のたつマグカップにはカフェオレがなみなみと注がれていた。ハムや卵といった具材がたっぷりと挟んであるサンドイッチに手を伸ばすと、彼女はもくもくとそれを口に運び始める。
隣の席で、老人夫婦が仲睦まじげに話しをしていた。

(ああ、なんて懐かしい)

両親の姿がふと頭に浮かんで、そして消える。不意に心に生まれた感傷を、彼女はカフェオレと一緒に飲み下した。



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