マルコ長編 | ナノ






main >> chapter


リハビリが無事に終了し、彼女はごくごく普通のことは一通りできるまでに回復した。
戦いについて彼女が覚えているのかさえわからないため、今は非戦闘員の扱いを受けていた。
船員たちとも大分打ち解け、今はハルタと二人でステファンとじゃれあっている。

「くすぐったい…!!」

ぽかぽかとした陽気の中、甲板の隅でごろりと寝そべると、それはそれはいい気持ちだ。

「俺眠くなってきた」
「私もですー……」

二人がうとうととしてきたその時、フッと影が現れた。

「お前ら、こんなところで寝るんじゃないよい!」
「うわっ、マルコだ!」

ハルタがステファンと共に走っていってしまう。そういえば、書類を出していないと呟いていたのを聞いた気がする。

「あ、マルコさん…」

体を起こして彼を見上げると、ため息をつくのが見えた。

「いくらこの天気だからって油断してると風邪ひくよい」
「へへ、すみません」

へら、と笑うと彼女は立ち上がった。
その時だ。大きな声が聞こえたのは。

「エースが帰ってきたぞーー!!!!!」

甲板にいた船員がワッと沸いた。

「………エース……?」

ひとり、彼女はそう呟く。
そして、その声のした方へいきなり走り出した。

「おい、名前?!」

マルコの驚いたような声を背中に感じた。
しかし彼女はそれどころではなかった。
もしも、もしもそのエースという人物が、自分の知っている人だとしたら。

「すみません!通してください、」

船員たちの隙間をするすると器用に走り抜ける。
その、エースという人にはやく会いたくて。

しばらく走ると、目的地らしい人の輪を発見した。

「ごめんなさい、」

その輪をなんとか抜けると、その先にはオレンジ色のテンガロンハットを被った半裸の青年が立っていた。
彼は、船員と笑顔で話をしている。

「………エース…」

帽子から少し覗いている癖のある黒髪、そばかす、生意気そうな目。
特徴は、全て重なる。

「…ポートガス・D・エース……!」

それはとても小さな声だったが、彼の耳には届いたようだ。
彼は名前を見て、口を開いた。

「?…誰だおまえ?しんい」

言葉は途中で遮られた。目の前の女性が突然飛び込んできたからだ。

「エース…っ!!」

ぎゅ、と抱きついてくる彼女をなんとか引き剥がして、その顔をまじまじと見た。
少なくとも、知り合いにこんな女性はいないはずだ。というか、モビーディック号でこの人を見かけたことさえない。

「だ、誰だよ…」
「……わ、私は……名前。…ポートガス・D・名前…」

エースの目が見開かれた。
同時に、周りにいた船員たちが驚きの声を上げる。

「…ね、え……ちゃん」

確かに、髪の色も目の色も姉と同じだ。

「…元気そうで、よかった……!海へ出たのね…」

目に涙を浮かべた彼女はそう言って彼に微笑んだ。
そこへ、騒ぎを聞き付けたサッチがやってきた。

「おいおい、こりゃどういうことだよ…」

人ごみを掻き分けてみれば、末っ子エースと名前が向き合っていて、彼女の方は今にも泣き出しそうだ。
まさか帰ってきて早々にエースが彼女にちょっかいを出したのかと、ため息が漏れた。

「……姉ちゃんなんで海賊船にのってんだよ…!!!」
「は!?姉ちゃん?!?!」

エースの言葉に、思わずサッチは大きな声をあげた。

「サッチ!!」
「エースおまえどういうことだ?!」
「こっちが聞きてえよ!!」

ぎゃあぎゃあと言い合いになった。それを困った様子で眺めている名前の後ろに、マルコが現れる。

「おまえらとりあえず落ち着けよい!」

二人の頭にげんこつが落ち、辺りは静まった。

「……んで、どういうことだい」

サッチ、名前、エースが甲板に座り、その前にマルコがたっている。端から見ればまるでお叱りを受けているかのようだ。

「一から話してみろい!」
「いや…だからな、帰ってきたらいきなり抱きつかれて…」

エースがそう言って名前を見る。
そしてまたマルコへと視線を戻した。

「誰だって聞いたら、姉ちゃんだったんだよ!」
「だから、姉ちゃんってどういうことなんだよ?」

サッチがそう尋ねると、それこそ不思議だと言わんばかりにエースは首をかしげて見せた。

「なにいってんだよ、姉ちゃんっつったら、姉ちゃんだろ?」
「いやいや俺おまえに姉ちゃん居るとか聞いてないし、むしろ名前に弟居るのも知らないし?!」

サッチさん初耳よ?!と喚く彼をバシリと叩いて、マルコは真ん中で縮こまった名前を見る。

「エースが弟ってのは本当かい?」
「…はい、私とエースは血は繋がっていませんが、姉弟です」
「俺と姉ちゃん苗字一緒だしな」

なー、と嬉しそうなエースをちらりと見てマルコはため息をつき、頭をがしがしと掻く。

「名前、俺ァてっきりお前には苗字はねぇもんだと思ってたんだが…」
「………いろいろと、あるものですから。黙っていてごめんなさい」

母の名は、海軍にも知られている。彼女の子供が生きていることを悟られないたに、名前は苗字を伏せたまま生活してきた。それが例え、実の子でなかったとしても。

「別に責めてる訳じゃねえから安心しろい」
「それよりマルコ、なんで姉ちゃんがこの船に乗ってるかだよ」
「決まってるだろい、名前はこの船のクルーだ」

それが何よりの証だと、彼は名前の右肩を示した。
そこには、マルコの胸にあるものと同じ刺青が存在していた。

「…マジかよ…」
「ついでに言っとくと、名前がこの船に来たのは6年前だ」
「は!?」

エースは驚きを隠せない様子で、片っ端から質問を浴びせていった。
どういう経緯なのか、なぜ海賊船なのかと、名前に尋ねると彼女は困ったように笑って、こう言ったのだ。

「ごめんね、エース。自分でもよくわからないの」と。

20130209





「#甘甘」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -