短編 | ナノ


▽ 障子くんの愛する副担任


「好きだ、先生」

放課後の橙色の教室で、彼の言葉は紡がれた。補習が終わり、帰り支度を見守っている時、おそらく彼の本来の口が開いたのだ。おそらくというのは、彼の複製腕が発動していなかったからだ。彼の言葉を聞いて名前は驚きで固まった。しかし、少し息を吐いて、言った。

「……君は勘違いをしているわ。思春期に年上の異性に感じるのは恋慕でなく憧れに近い。同世代の子ともっと真っ当な恋をしなさい」

一息にそう言うと、障子に背を向けて名前は歩き出そうとした。しかし、それは障子の複製腕で阻止された。

「何しているの?離しなさい」
「離さない…」
「ちょ、」

そのまま引き寄せられ、6本の腕に抱きしめられた。彼の体温を直接感じる。

「ずっとこうしたかった」
「……障子くん」

6本の腕にきつく抱きしめられては流石のプロヒーローでさえも振りほどけないだろう。そんな言い訳をして、名前は彼に身を委ねた。

「あなた、私の気持ち知ってるわね」
「見ていれば、聞いていれば分かる」

彼の複製腕の一つが耳の形に変形する。きっと彼の耳には名前の胸から響く早い心音が聞こえているだろう。名前は諦めたように肩の力を抜いた。

「私の負けよ」
「じゃあ…」
「でも、だめ」

障子の胸を押して、名前は障子の目をじっと見つめた。

「私はあなたの副担任で、教師で、プロヒーローなの。おまけにおばさん」
「先生はおばさんじゃない。魅力的な女性だ」

そこまで言われて、真剣な目で見られて名前の頬がカッと熱くなる。

「だめよ、」
「だが、先生…」
「今の私はあなたに応えられない」

そう言うと彼の腕が少し緩んだ。その隙を縫って腕を取り出す。そして彼の肩に両手を置いた。障子の方がびくりと揺れた。微かに彼の頬が赤くなっている。

「ただ、あと二年、この学校を卒業しても私のことが好きなのなら…迎えに来て、目蔵くん」

彼の目をじっと見つめて、ゆっくり目を閉じる。そして彼のマスク越しに唇を押し付けた。


卒業式の日、名前が障子に校門の前でプロポーズされるのは二年後の話である。


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