轟さんの愛人男子高校生 | ナノ


▽ トップヒーローというもの


俺は今、ひまわり畑の真ん中で一人佇んでいた。大きめの麦わら帽子が太陽の光を遮断してくれているが、それでも暑い。どうして俺がここに一人でいるかというと、話は一週間前に遡る。



「杏、次の日曜日開けておけ」
「はい。俺は大丈夫ですけど、炎司さんは…」
「休みを取った」

週に一度の逢瀬で、二人がゆっくり休めるように新しく買ったクイーンサイズのベッドに二人が裸のままシーツを被って横たわる。繋いだ手がその事実をより一層引き立たせ、俺は幸せな気持ちでいっぱいだった。

「それって、その…デートってことですか?」
「そうなるな」

俺の短い髪を愛おしそうに優しく撫でる炎司さんの手に俺は目を細めて、幸せそうに笑った。



「わあー!」

日曜日、俺は炎司さんと一緒に大きなひまわり畑の前に来ていた。俺たち以外には誰もいない。炎司さんはトップヒーローだからとても目立つ。おそらく、貸切にしたのだろうと分かった。俺のためにそこまでしてくれた事実になんだか口がにやけてしまって、普段よりもテンションを上げて炎司さんに話し、そして触れた。

「炎司さん、俺嬉しいです」

満足そうな顔をしている炎司さんに、俺も更に嬉しくなる。ひまわり畑の真ん中で二人きり、世界に二人だけしかいないような錯覚に陥った。このまま、二人だけで、他には誰もいらない。そう思って、炎司さんを見たとき、目があった。顔が近づいてくる。ゆっくり目を瞑った次の瞬間、電話が鳴り響いた。

「……」
「取ってください、炎司さん」

そう言うと、炎司さんは携帯を取った。おそらく、緊急の仕事だろう。炎司さんにしか解決できないような、そんな事件だと察しがついた。彼はトップヒーローなのだから、彼の代わりはいないのだから。

「杏」
「はい」
「すまない」

そう言って炎司さんは走ってひまわり畑をかき分けて行ってしまった。その背中が見えなくなるまで俺はそれを見つめていた。

ぽろり、と頬に涙が伝う。彼がそういう人だと分かっていた。それでも一瞬でも彼を独り占め出来たと錯覚してしまった。炎司さんはトップヒーローで、皆のヒーローなのだ。俺だけのヒーローにはなってくれないのだ。涙を隠すように麦わら帽子をきつく被り直す。そうしてそこにしゃがんで、俺は少しだけ泣いた。



夕日が傾く頃、背後で人がこちらへ来る気配を感じた。泣き疲れて寝てしまっていた俺はゆっくりと体を起こす。そこにいたのは彼の息子、焦凍くんだった。

「杏さん」
「焦凍くん…?」
「あいつに言われて、迎えに来た」

事件は難航したらしく、後処理に追われているのだと焦凍くんは言った。泣き腫らした顔を見られないように麦わら帽子を被り直して、彼についてひまわり畑を出て行った。



「杏、すまなかった」
「い、いいえ、仕方のないことです」

次の逢瀬の日、炎司さんが頭を下げた。その行為に俺は驚いて狼狽えてしまった。

「だが…」
「炎司さんがトップヒーローとして活躍していること、俺は誇りに思います」

泣いていたことなど悟られないように俺は笑う。炎司さんはゆっくりと俺を抱きしめて、口付けた。

「っは、杏…」
「炎司さん…もっと、」

その口付けに体を任せる。一瞬だけでもいい。こうして彼は俺を愛してくれている。その事実だけで俺は生きていけるのだ。


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