想いに委ねる 2 | ナノ


想いに委ねる 2




 ご飯の前に汗を流しておいで、と言われて自分の部屋に戻った途端、へたりとその場にしゃがみ込む。両腕で自分の身体を抱いて、きゅっと目を閉じた。あのときの感覚がざわざわと蘇ってきて、なぜだか目頭が熱くなる。何をしてるんだろう……私も、彼も。こんな大事なこと、一方的なままにしていいわけがない。
 コンコン……と遠慮がちにされたノック。びくっとしたけれど、続いて聞こえた声は薄蛍のもので。
「ざくろ……?お風呂行こう」
「あ……うん」
 何かを感じ取っているのだろうか、心配そうな声だった。すぐ行くから先に行ってて!と、わざと明るい声で返事をした。
 ゆっくりとお湯に浸かって温まりながら、ちらりと隣の薄蛍を盗み見る。普段はあんまり、こういう話はしないんだけど。
「ねぇ、薄蛍は……利劔に抱きしめられたこと、ある……?」
「え、ええっ!急に何を……!」
 ばしゃん、と水音を立てながら真っ赤になって驚く薄蛍に、あるんだなあ……なんて思って。ぎりぎりまで水面に隠れながら、小さな声で……場所が場所だから響くけれど、ゆっくりと言葉が紡がれる。
「あ、あるよ……。でも、あの、私が混乱してるときとか、そういうときだから……!」
「……そっか」
「どうして急に?」
もしかして……ざくろ、も?遠慮がちに聞かれたけれど、それには答えられずにいた。
「……ざくろ?」
 そう、そういうときなら、いいのだ。私なんてあいつからしたらまだまだ子どもで、泣いている子どもをあやすための一つの方法だと割り切れる。だけど、あれは、そうじゃない。
「ごめん、先に上がってるね!変なこと聞いてごめん!」
「あ、ちょっとざくろ……!」
 だとしたら、やっぱりきちんと伝えなきゃ。言いたいって、初めてきちんと思えたから。



 よく考えたら同じ時間に彼らもお風呂に入っていたわけで、結局あのあとすぐに言うことは出来なくて。食事の時間は、何事もなかったかのように振る舞うものだから、私までそんな気分になってくる。あれは現実だったの?なんて思うけれど、ふとした瞬間に抱きしめられた感覚を思い出して、声を思い出して。一人で赤くなっては、「どうしたの?」なんて当の本人に聞かれる始末。
「なんでもないわよ!」
 これは八つ当たりだ。でも元はと言えばあいつのせいなんだから、このぐらいしてもいいわよね。
 みんなより早くごちそうさまを告げて、さっさと自分の部屋にこもった。なかなか二人になるタイミングはなくて、やっぱり言うのやめようかな、なんて弱気になってしまう。
(別に、義務じゃないもの。でも……)
 でも、離れたあとの表情が、頭に焼き付いていて。ふとした瞬間に蘇るのは、感覚だけではない。あのときの表情とか、これまでのいろんなときの感情が、一気に溢れてくるの。その度に心臓が締め付けられるような思いをするのなら。その想いは、きっと。
「ざくろくん」
 戸の向こうからした声に、びくっと思わず肩が揺れる。間違うはずもない、この声は、あいつだ。
 のろのろと戸を開けると、具合でも悪い?と心配そうに聞かれた。そうではないのだと告げれば、悟ったような空気になる。
「あの、さっきのことなら、あんまり気にしなくていいから。僕が言いたくなっただけだし……」
「そ、そうじゃなくて!」
 いいから入って!と、強引に手を取って中に招き入れる。予想外の状況で、二人になれた。これは緊急事態なのだ。男の人を部屋に入れるなんてはしたない……なんて思っている場合ではない。このやりとりを誰かに見られるほうが、よっぽど恥ずかしい。
 そっと後ろ手に戸を閉めて、そのままそこに寄りかかる。盗み見るように彼に目をやれば、ぽかんとした表情が可笑しくて。思わずふっと零れた笑みに乗せるように、言葉も一緒になって零れ落ちたのだ。
「……好きよ」
 あれだけ悩んでいたのに、自分でも驚くほど穏やかな気持ちで、表情で、その言葉が口から出たものだから、あとから少しずつ羞恥心が込み上げる。言おうと思っていたことではあるけれど、いざ自分が言った言葉の意味を理解すると、恥ずかしい。どんどん目線が下がっていく。
「そ、それを言おうと思って……でもなかなかタイミングがなくて……だからいつもみたいにできなかったけど、あんたの気持ちは嬉しかったから……、っ」
「……うん。ありがとう」
 下がったはずの視界の中に彼の足が入ってきて、あれ?と思う前に抱きしめられた。少しだけ考えて、その胸に、そっと頭を預けてみる。きっと今は、それが許される距離なのだ。




11.01.07.
総ざく告白妄想でした
まだ原作6巻出てなかった頃の妄想




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