寄り道 「おぅ、チャイナ」 「げ」 「また散歩か」 「そういうおまえはまたサボリか」 「サボリじゃねぇ、昼寝だ」 「それがサボリだって言ってるネ!」 嫌なヤツに会ってしまったアル。声に出して言ったとしても相手が傷つくことはなく、神楽自身もそれがわかっているから思ったままに言ってのけた。 神楽が愛犬の定春を連れて、お決まりのコースを散歩しているときのこと。天敵である真選組一番隊隊長、沖田総悟に出会ってしまった。会えば当然のようにケンカが始まるし、少なくとも暴言の言い合いがない日はなかった。沖田と出会うのも、これで何度目かわからない。それでも散歩コースを変えないのは、こいつのためにコースを変えるなんて、という意地のせいである。 「……チャイナァ」 「なにヨ」 「昼飯食ったか?」 「まだアル」 「じゃあ付き合え」 「……は?なんでおまえに命令されなきゃいけないネ」 行くよ定春、と愛犬に声をかけたとき、神楽の腹が鳴った。それも、ものすごい音で。 「……」 「腹減ってんじゃねーか」 「……お金、もってきてないアル」 「おごるぜィ」 「マジでか!」 「俺の予算内で済ませてくれるならな」 誘ったのこっちだし。いつになくやさしい態度の総悟を神楽は不審に思ったが、おごりという響きの誘惑に負けた。彼が言う予算がどのくらいのものなのかはわからないが、そこはなんとかなるだろう。どこからその自信が生まれるのかは神楽自身もわからなかったが、これまでもなんとかなってきたのだから、きっとなんとかなるだろうと思えたのだ。 しかたないアルな、付き合ってやるヨ。満面の笑みで、そう言った。 「デートに誘うなんて、おまえやっぱり私のこと好きアルな」 「……まあ、気に入ってるのは事実でさァ」 「……は、い?」 空耳だとしか思えない言葉に、思わず反応が遅れた。いや、そこ否定しろヨ。思った言葉は音とならず、口をパクパクとさせるのみで。 「ほら、意外とこんなことで固まっちまうとことか」 「な……!」 「意外とすぐ顔真っ赤にさせたり」 「これは……っ」 「意外と女らしいところも……」 「おまえはいちいち一言多いネ!なんで全部『意外』アルか!」 「いってェ!」 そうやってすぐ手とか足とか出してくっから意外なんだろーが!すねを蹴られた総悟は内心そう思ったが、言葉にするのは危険なのでやめておいた。というより、もう彼女は傍にいない。スタスタと、彼だけでなく愛犬まで置いて歩いていく神楽。赤いチャイナドレスと紫の傘は、背中を向けて遠ざかっていく。おい待てテメー、と声をかける前に、あちらさんから振り向いてきた。 「おい、早くするヨロシ」 おまえのサボリ時間が長くなったの、私のせいだと思われるネ。むっつりした顔と声でそれだけ言った彼女は、それでも顔が赤くて。だから、やっぱり、おもしろい。 「……おまえさんも、ご主人様のことが好きかィ?」 見上げてみても、定春が答えるはずはなく。ただ、まあるい瞳を神楽へと向けていた。沖田は小さくため息をついて、だるそうに歩き出す。ため息とは裏腹に、口元に笑みを浮かべて。 10.04.01. 沖田は自覚しちゃえばさらっと「気に入ってる」と言えそう 傍目にはからかって遊んでるようにしか見えない感じで本音を言うタイプ →back |