キミノキョリ | ナノ


キミノキョリ(大学生パロ)




 ふと目を覚ますと、そこは自分の部屋ではなくて。驚いて身体を起こそうとした瞬間、立ちくらみにも似た感覚に襲われる。ぐらぁっと目が回るような感じ。気持ち悪い。
(……あ、そうか……)
 近くに友人の顔があって、気付く。思い出した、昨日はカイト君の家で飲み会だったんだ。
 大学に入って一週間も経たないうちに、私たちは仲良くなった。同じサークルに入ってるわけでもない、ただのクラスメイト。だけど不思議と趣味が合って、一緒にいると楽しかった。居心地がいいという一言で、すべてが表せてしまうような心地よさを感じていた。
 1年生は、教養の授業が多い。そのせいか、一緒に時間割を組んだわけでもないのに授業が被っていることは多かった。私は女子数人と、カイト君は男子数人と、そして私たちは前後になって受けていた。自然と、私たちは男女数名のグループとなる。そんな私たちの、初めての飲み会だった。
「ん……メイコ?」
「おはよ、ルカ」
 一緒に雑魚寝していたルカが目を覚ます。長くきれいな髪を手櫛で梳き、だるそうに起き上がった。そして携帯を開いて、彼女は固まる。
「……え、もう7時……?」
「昨日あれだけ飲んだもの、寝たのだって多分3時とか……」
「大変、朝練遅刻だわ!ごめん、先に出るわね!」
「え、ちょ、ルカ…!」
 自分の荷物を掴むと、彼女はさっさと出て行ってしまった。たしか、サッカー部のマネージャーだっけ。サッカーには詳しくないが、ルカがいつもノートに何かをまとめて勉強していることだけは知っていた。そんな彼女だ、朝練とはいえ遅刻という事実に青くなるのも当然だろう。
(私も、帰ろうかな……)
 今日は土曜日だから、授業はない。だからといって、男の子の家にいつまでもいるというのも躊躇われたのだ。よく考えてみれば泊まったのは私とルカだけで、他の人達は深夜に帰ってしまっていた。ルカが出て行った今、ここには私とカイトくんだけ。男の子と二人っきりという状況を、多少なりとも意識しないわけがなかった。
 しかし二人だからこそ、帰れなかった。カイト君はまだ寝ている。つまり、私が出たあとに鍵を閉める人がいない。
(それは……いくら男の子の家でも、まずいよねぇ……)
 しかたない、起きるのを待とう。気持ち良さそうに寝ている家主を、自分のためだけに起こすわけにはいかないもの。一つだけため息をついて、のんきに寝ている彼を見下ろした。
「……カイト、くん」
 小さく名前を呟いてしまったのは、無意識だ。悔しいけれど、無意識。その事実に、思わず唇を噛んだ。
 この人は、何も考えずに寝ているのだろうか。友達だから、意識せずに?
(本当に、ただの友達だったらよかったのに……)
 先にアピールしてきたのはそっちでしょ、と悔しさと寂しさと怒りの感情がごちゃまぜになる。何を考えているのかわからないのだ、彼は。
 学校でよく話すのは、彼が話しかけてきてくれるから。近くの席で授業を受けるのは、彼が「空いてるよ」と視線をくれるから。話すようになって数日、メールも頻繁にくれていた。そんな態度と彼の目を見ていたら、もしかして…と思わない女の子はいないのではないだろうか。要はわかりやすかったのだ、ものすごく。ルカたちからも指摘されてしまうくらいに。
 小テストの前に、一度だけファミレスで勉強しないかと誘われたことがある。悩んだけれど断った私に、彼もピンときたようで。
「そういえば、メイコって彼氏いるの?」
「……うん」
「……そっか」
 それじゃダメだよねぇ、と眉を下げて笑う彼に、ごめんねと謝ることしかできなかった。けれど彼は気にしないでというかのように、いつもの笑顔を見せてくれた。そして、どんな人?社会人?などと質問してくる。あのときの彼が、平静を装っていたのか私に気を遣っているのか、それとも本当に動じていないのかは、今でもわからない。ただ、あれだけ頻繁に来ていたメールが一切来なくなったことを考えると、彼なりに気を遣っているのだということはわかる。学校での態度は変わらなかったけれど。
「……カイトくん」
 また、名前をそっと紡ぐ。今度は意図的に、だ。
 もしかして、もともと女の子にも積極的に話しかける人なのかしら、と思わないこともなかった。あまりにも自然に話しかけてくるから。だけどそれは、あっさり友人たちによって否定されてしまう。あんたにしかそんなに話しかけてないよ、と。
 どうしていいのかわからずに戸惑った。惹かれてしまう自分に気付いていたから。
(キス、したい……)
 それは素直な欲求。私たち以外、誰もいない。誰も見ていない。私しか、知らない。
 愛しくて愛しくて、切なくてたまらない。この距離がもどかしい。
 名前を呼んでもじっと見つめても目を覚まさない彼は、たぶん本当に寝ているのだろう。規則的な寝息が何よりの証拠。まっすぐな彼は、嘘をつくのが苦手だった。
「……っ、」
 誰も見ていない。私しか知らない。でも、ダメ。
 もどかしさに涙が出そうなのは、きっとまだアルコールが抜けていないせいだ。感情の起伏が激しくなっているだけ。そう思っていても、なぜだか切なくて、胸が苦しかった。こんなにも近いのに、触れられないなんて。
(自分のせいなのに、ね……)
 どうしたらいいのかなんて、わかっていた。楽になれるであろう道は、わかりきっていた。それでも何もできない自分が、もどかしい。今のままでも十分心地いいと感じてしまうから、何もできない。
(……好きなのよ)
 どうしようもなく、あなたが。気になって気になってしかたないの。苦しいの。
 口に出してはいけない想いを心の中に秘めたまま、彼の青く黒く輝く髪にそっと触れようとして。けれど、それすらも許されないような気がして、結局何もできないまま。ただただ、安心しきったような顔で眠り続ける彼を見つめた。涙さえ溢れなかった。




10.08.24.
カイトは一人暮らし、メイコは他大学に彼氏がいる設定
はっきりと自分の気持ちを自覚してしまったのに、今の彼氏に特に不満がないので、別れられないし罪悪感ばかり募る




back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -