氷が溶けてしまう前に | ナノ


氷が溶けてしまう前に




 あとで部屋にきて、と言われてメイコの部屋に行ってみれば、そこにはベッドに腰掛けて梅酒を飲むメイコの姿。目は割としっかりしてるし、そんなに多くは飲んでないようだ。若干、頬は赤いけど。
「せめてこっちで飲みなよ」
 メイコの部屋の中央には、小さなテーブルが置いてある。いつもはこっちで、二人で座りながら飲むのに。グラスを持ったまま、いやいやと首を横に振るメイコ。どうしたんだろう、いったい。
 俺は床に、ローテーブルを挟んでメイコの向かい席に座った。俺の定位置。まあ、今日メイコはベッドの上なんだけど。見上げる距離が、なんだかやけに遠く感じた。
「……何かあった?」
「とりあえずあんたも飲みなさいよ」
「あ、はい、いただきます……」
 氷の入ったグラスに、梅酒を注いでもらう。パキパキと氷が割れる音だけが、部屋に響いた。乾杯とも言わずに二人のグラスを鳴らすと、俺はそれを一気に飲み干す。
「……呆れた」
「なんで?」
「お酒は味わって飲むものよ」
「それをメイコが言う?」
「……前に、あんたが言ったんだもん」
 悔しそうにそう言うと、メイコも一気にグラスを空けた。これでおあいこね、なんて笑って。
(約束、守ってたんだ……)
 いつだったかメイコと飲んだとき、彼女の飲むペースの早さに驚いた。当然、酔うのも早い。ゆっくり飲めばそれなりに強いのかもしれないが、あのときはすぐにふにゃっとなった。
 だから言ったのだ、お酒は味わって飲むものだと。俺と飲むときならともかく、他の人たちと飲むときに、あんな姿を見せてほしくないから。
(かわいいんだもんなー……)
 ふだんの大人びた笑い方ではなく、女性というより女の子と言った方が的確な笑い方。それは、俺の前でだけ見せて。
「ねぇ、メイコ。隣、いい?」
 そう言うと、メイコは例のかわいらしい顔で笑って、自分の隣をポンポンと叩く。いつの間にか彼女のグラスは再び梅酒で満たされていて、今度は半分ほど一気に飲んでいた。
「……で、何かあったの?」
「酔いたい気分だっただけ」
「はぐらかすなよ」
「違うの、ホントに酔いたかっただけ」
 え?と尋ねる間もなく、腕を引っ張られてそのままベッドへとなだれ込んだ。俺のグラスは空、メイコの手にグラスはない。素早いな、さすがだ。
「カイトと一緒なら、たくさん飲んでもいいんでしょ?」
「……俺、そんなこと言ったっけ?」
「言われなくてもわかるわよ」
 これはまいったな、さすがメイコ様。俺のヤキモチもバレバレ。
「それに……好きなのよ、カイトと二人でいるときの雰囲気が」
 そう呟いた彼女の顔を見ようとした瞬間、唇が塞がれた。もちろん、視界は彼女で埋め尽くされているけれど。
「お酒臭くてごめんね?」
「……お互い様、だろ?」
 赤く染まったメイコの頬。それに触れると、うれしそうに目が細められた。やっぱり、かわいいよなぁ……
(そんな顔されたら、飲む時間あげられないけどね)




××.××.××.
メイコも時には甘えたいしいちゃつきたい
普段が姉御肌だからこそ、「かわいいメイコ」を知っているカイトは優越感に浸ればいい




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